第4話「母からの電話」
肝試しを終えて、結衣は境内の広場に戻ってきた。
そこにはゴールした子どもたちが集まっていて、お菓子をもらったり、町内会のおばさんと話をしたりしていた。
「楽しかったね! でもほんと怖かった〜!」
「結衣、お兄ちゃんやっぱり迫力あったね!」
真菜や美咲がはしゃぎながら笑う。
結衣も「でしょでしょ!」と胸を張った。
――その時だった。
結衣のポケットの中でスマホが震えた。
液晶には「お母さん」の名前が灯っている。
(どうしたんだろ、夕飯かな)
何の気なしにスワイプして耳に当てる。
「もしもし? お母さん?」
受話口の向こうからは雨音のように乱れた呼吸音が聞こえた。
『結衣……いまどこ……?』
「どこって……肝試しのゴールだよ。さっき悠斗兄ちゃんに会ったの。すごいお化けだったんだよ!」
母は何かを落としたような音を立て、息を震わせた。
『……結衣……何を……言ってるの……?』
「え?だから……お兄ちゃんに――」
『悠斗は……悠斗は……!』
その声は、次第に泣き声に変わっていった。
『さっき……事故に遭って……トラックに……即死だったって……今、警察の人が……うちに……』
「……え?」
頭の奥がじんじんと痛くなった。
視界が急に暗くなるような感覚。
「なに言ってるの、お母さん……? だって、わたし……さっき……悠斗兄ちゃんに……」
声がかすれた。
母は電話の向こうで泣きじゃくりながら何かを言っているけれど、もう言葉として聞き取れなかった。
結衣はゆっくりと顔を上げた。
広場の向こうに、黒いマントを羽織った悠斗が立っていた。
雨の中でじっとこちらを見ている。
顔は見えない。ただその姿だけが、ぼんやりと提灯の光に浮かび上がっていた。
「……兄ちゃん……?」
けれど声をかける前に、兄は手を振り、その姿はふっと消えていった。
そこにはもう、何もいなかった。