第3話「おばけ役のお兄ちゃん」
杉林の中は、思った以上に暗かった。
雨が葉の上を滑り落ちて、小さな音をたくさん作っている。
そのせいで、何かが潜んでいるのではと錯覚してしまう。
「きゃっ!」
「え、なに? 何かいた?」
「ただの枝だよ……もう、やめてよ……」
友達同士が手を繋ぎ、笑いながらも声が震えている。
結衣は胸を高鳴らせながらも、周りをきょろきょろと見渡した。
(いつ出てくるんだろう……悠斗兄ちゃん……)
少し歩くと、木々の間にぽっかりと空いた開けた場所に出た。
そこは神社の裏手に続く細い石段の始まりで、何段か登ると境内へ通じる鳥居が見える。
その鳥居の下に――
何かが立っていた。
黒いマントをまとい、顔は真っ白なお面。
片手には錆びた鎌のようなものを持ち、ゆっくりこちらを向いた。
提灯の光に照らされて、その白い顔がぎょろりと光る。
「うわあああっ!!」
お面の男は大きく手を広げて、低い声を響かせた。
「おまえたち……ここから先は……通さない……」
「きゃーっ!!」
真菜と美咲が悲鳴を上げて後ずさる。
その後ろで結衣は一瞬固まったが、次の瞬間、口元が緩んだ。
「もうっ……悠斗兄ちゃんでしょ!」
結衣は勢いよく駆け寄り、黒マントの胸に飛びついた。
「わっ、結衣! ちょ、おい……」
「びっくりしたじゃん!でも声でバレバレだよ!」
悠斗は面を取ると、困ったように笑った。
雨で濡れた髪が額に貼りついている。
「そうか? 結構本気で低い声出したんだけどな。」
「全然!でも……ちょっとだけ怖かったかも。」
そう言うと悠斗は小さく笑って、結衣の頭を軽く撫でた。
「怖かったか?」
「……ちょっとだけね。」
それを聞いて悠斗は満足げに頷く。
「よし。じゃあお兄ちゃんの役目は果たせたな。」
「なにそれ、変なの。」
結衣は雨粒がついた兄の手をぎゅっと握った。
それは少し冷たかったけれど、いつもの兄の匂いがした。
「さ、行け。次の子どもたちを脅かさないと。」
「うん!」
結衣はにこっと笑って、また友達の所へ駆け戻った。
その背中を悠斗は、少し照れくさそうに見送っていた。