第2話「雨の中の肝試し」
肝試し大会の当日――
朝から空は灰色で重たく、昼過ぎにはぽつぽつと雨が落ち始めた。
結衣は窓際でカーテンを少しだけ開けて、外を気にしていた。
「これじゃ、今日中止かなぁ……」
小さくため息をつくと、背後で母親が声をかけてきた。
「さっき町内会から連絡があったわよ。小雨だから予定通りやるんですって。」
「ほんと!?やったー!」
結衣は飛び跳ねるようにして部屋を出て、急いで黄色いカッパを探した。
夕方、家の前の集合場所には、傘やレインコートを着込んだ子どもたちが集まっていた。
友達の真菜と美咲もいて、みんな顔が少し強ばっている。
「ねぇ結衣、雨で暗いから、いつもより怖いかもね。」
「そうかも……でも悠斗兄ちゃんがどんなおばけなのか楽しみだし!」
結衣はわざと明るく笑ってみせた。
内心は少しだけ心細かったが、兄がどこかで待ち構えていると思うと、それが楽しみで仕方がなかった。
神社に着くと、境内には提灯がぽつぽつと吊るされていた。
雨粒で濡れた光がぼんやり揺れて、まるで生き物のように見える。
町内会のおじさんが懐中電灯を持って先頭に立ち、簡単な注意事項を話す。
「雨で足元が滑りやすいから、気をつけて進むんだよ。走っちゃダメだからなー。」
「はーい!」
数人ずつのグループに分かれ、杉林へと入っていく。
雨は木々の葉に当たり、細かい雫となってぽたぽたと落ちてくる。
暗い中で、雨音と小さな悲鳴が混じり合って、なんだか別の世界に入り込んだような気分になる。
「うわっ、誰かの肩に手が……!」
「やめてよー!」
後ろの方では、早くも友達同士でおどしあいが始まっていた。
結衣は胸をどきどきさせながら、兄の姿を探す。
(いつ出てくるんだろう……まだかな……)
暗闇の奥に目を凝らすと、木の影が何度も揺れて見えた。
そのたびに、心臓が小さく跳ねる。
――兄がどんな風に驚かせてくれるのか、それだけが今の楽しみだった。