第1話「肝試し大会の知らせ」
夏休みもそろそろ終わりに近づいた頃、町内会から回覧板が回ってきた。
そこには大きな字でこう書かれていた。
『町内会 肝試し大会のお知らせ』
場所はいつもの八坂神社。裏手の細い杉林を抜ける道が、今年の肝試しコースになるらしい。
「肝試し、やるんだって!」
結衣は学校から帰ると、ランドセルを玄関に放り出し、母親にそう叫んだ。
「ふふっ、楽しみねぇ。ちゃんと町内会の人と一緒に行くのよ?」
「わかってるよ。それより――」
結衣は興奮を抑えきれず、にやりと笑う。
「悠斗兄ちゃんがさ、おばけ役で出るんだって!」
「えっ、そうなの?」
「さっき部屋で言ってた!どんなおばけになるんだろ。絶対びっくりしちゃうよね!」
母は台所で笑いながら、玉ねぎの皮をむいていた。
「悠斗にぴったりじゃない。ちょっといたずら好きだし。」
「でしょ?絶対怖がらせようって張り切ってるんだよ。楽しみー!」
夕方、部屋に戻ると兄の悠斗がベッドの上で肝試しの打ち合わせのプリントを見ていた。
黒いジャージに乱暴にまとめた髪。いつも通り少し面倒くさそうな顔をしている。
「兄ちゃん、ほんとにおばけやるの?」
「ん?ああ、やるよ。町内会に頼まれたんだ。」
「どんなおばけになるの?」
「当日までヒミツだって。脅かし甲斐のある奴がいるからなー。」
悠斗はにやっと笑って、頭をくしゃっと撫でてきた。
「うわ、ずるい!絶対わたしのこと狙ってくるじゃん!」
「さあな。覚悟しとけよ。」
その晩、結衣は布団に潜り込みながら、兄がどんな姿で出てくるのかをずっと想像していた。
血だらけの幽霊かもしれないし、真っ白なお面をかぶって出てくるのかもしれない。
怖いけれど、楽しみで仕方なかった。
(どんな風に脅かしてくれるのかな……)
次の日曜が待ち遠しくて、なかなか寝つけなかった。