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夜明け前  作者: ななまる
4/8

夜明け前 4

と…


 その動きに何かの抵抗を感じた。

 見ると、シャツを引っ張られている。


 夢が…困ったように、見上げていた。


「馬鹿…」

「え?」

「バカっ!」


夢が思いっきり抱きついてきた。


「バカバカ!なつめの馬鹿!」


 その勢いで、ベッドに戻される。

 夢のこの行為に理解ができず戸惑う。

 夢の両腕の力がさらに強くなる。思いきり抱きしめられていた。


「おい…?」

「…もう、どうしてっ!」


 自分の胸元に顔をうずめられて、表情が見えない。


「んだよ、馬鹿とかずるいとか、わけわかんねえ」

「わけがわからないのは、こっちだよ」


―え?


「なんで…?」


 途端に夢の声がか弱くなる。


「なんで、キスなんかするの?」


 夢がつぶやく。泣き声だった。

 その言葉が胸に突き刺さった。夢を傷つけたのは確かだった。


「…ごめん」


 それ以外言葉が出てこない。

 夢が自分の前からいなくなる…そう思ったら、たまらなくなった。

 そして…


「悪い」


 謝罪の言葉しか出てこない。


 と、夢が顔を上げた。


「馬鹿!」

「……」


 真っ赤になったその顔を見る。涙で大きな目が潤んでいた。

 妙に艶っぽい眼差しに、目のやり場に困る。


そんな顔されたら…また…抱きしめてしまう…


―くそ…

 

 本能を押さえ込むように、夢から離れようと肩を掴むと、離すまいと、夢がきつく抱きついてきた。

 その行動が理解できない。


「…おい…夢?」

「謝らないで!」

「え?」

「婚約者がいるくせに」

「ごめん」

「だから、謝らないで!」

「…」


 わけが…わからない。

 ただ、めちゃくちゃ泣きじゃくっている夢にどう接したらいいのかわからないまま、それでも自分から離れようとしない夢のその頭を優しく撫ぜるしかなかった。


 泣かせてしまった…という罪悪感。

 それでも、そんな夢が可愛いと思ってしまう自分がいる。


―ったく、俺はなにやってんだ…


 なつめは自分の行為に半分ため息をつきながら、腫れ物を触るように夢を撫ぜる。


「ずるいよ…だって離れなくちゃいけないのに…」


 泣き声と息で半分言葉になっていない。

 なんとか聞き取れるくらいの音だ。


「余計、離れられなく…なっちゃう…じゃない…」


―え?


今、夢はなんといった?


「夢?」

「…なつめの馬鹿ぁ」


 そういって、胸に顔を押し当ててきた…


―今、なんと言った?聞き間違いだったら…馬鹿だ。


「ゃっ!?」


 無理やり夢の腕を引き離し、顔を覗き込む。

 夢は大泣きしながら、頼りなさげな瞳を向ける。


「ふぇ…」


 顔がくしゃとゆがむ。そんな子供っぽさが堪らなく可愛い…

 夢は恥ずかしそうに、下を向く。長い髪で顔が隠れた。


「夢、もう一度言ってくれ」

「な…何を…よ?」

「俺から、離れられなくなる、って言ったか?」

「…ぅっ」


 夢は答えない。邪魔になっている夢の髪をかき上げると、その耳が…

 真っ赤だった。


 そのままその表情を覗き込む。


 夢は恥ずかしいものを見られたというように、たどたどしく視線を逸らす。

 その顔も、やはり真っ赤だった。


 その表情を見て、確信する。

 そして、安堵した。

 この夢の表情が、すべてを物語っていた。


―んだよ…そうか…


 夢を傷つけたわけじゃない、そう思ったら一気に力が抜けた。

 恥ずかしそうにうつむく夢。

 こうなると、意地悪をしたくなる。


―短時間でこれだけ振り回されたんだ。それくらいの見返りは当然だろう。

 なんとしても、夢の口から、本心を聞きたくなった。


―これだけ密着してるしな…


 なつめのこの魂胆など、夢には筒抜けだろう。


―その口から聞きたい。


 すると、夢はびくっとして、明らかに動揺の色を見せた。


―読み取ったな?俺の思考。


「夢?」

「…っ」

「言えよ」

「…や…」


 力なく、か細く抵抗を見せる。強がりなのは一目瞭然。

 耳から首から全部が真っ赤なのが、それを物語っている。


「ほら、言え」

「や…」

「不公平だ。俺の気持ちはもう分かってんだろう?なのに、俺はお前の気持ちを聞いてない」

「う…」


 つぶやいて、固まる。


「ほら…」


 そういって、夢の顔を再び覗き込んだ。

 上目遣いな夢と視線が絡む。やっぱりその顔は真っ赤だった。


「言え」

「…うう…もう!本当になつめって強引!!めちゃくちゃっ!もう!来るなって言ったくせに!」

「文句は後でいくらでも聞くから。ほら」

「……うう…」


 恨めしそうな表情。恥ずかしくて仕方がないというような表情だった。

 でも観念したように、うつむく


「…ず、ずっと」


 そこまで言うと、夢は大きく息を吸い…

 上目使いに見つめてくる。

 そんな仕種がこの上なく可愛い。


―抱きしめたい…


 その気持ちを懸命に抑えて夢の次の言葉を待つ。


「もう!もうずっとずっとずっとずっと前から…!」


 そこでいったん言葉を止める。


―?


 うつむく夢。また涙を流している。


―お…おい?


 また泣いている…

 と、ふっきたように、顔を突然上げた。


「最初に会ったときからなつめのことが大好きだよ!嫌なわけない」


 真っ赤になった夢の顔。

 黒い瞳を潤ませながら…。


 たまらなく幸せな気分だった。


 さらに追求したくなる。確認したくなる。


「…最初に会ったときから?」


 意地悪く聞くと、さらに夢は顔を赤くした。


「そうっ!きゃっ!」


 そこまで言った夢の腕を取り、自分のほうへ引き寄せる。


 もう我慢の限界。

 なつめは自分の胸に、かき抱いた。

 衝動のままに、夢を思い切り抱きしめる。


 大好きよ…

 という夢の言葉に、この上ない安堵感と喜びを感じていた。


 びっくりしていた夢の反応はすぐに解け、自分の背中に腕を回されるのを感じる。

 自分と同じように抱きしめてきた感触に、さらに腕に力を込めた。


 夢の首筋にキスをする。

 びくん、と夢が反応し、顔が上がる。その頬にキスをした。

 やわらかい反応。


 想いが溢れてくる。この気持ちを伝える術をなつめは知らない。


―この想いがお前に届くか?


 言葉にしても、その100分の1しか伝わらないよう気がした。

 それでも、言葉にしないと…いけない気がした。


 あふれる想いを言の葉に載せる。


「夢…好きだ」


 夢が少しだけ身体を離す。

 その動きに身を任せた。

 息のかかる距離で、二人は正面から見詰め合う。


 夢が笑顔になっていた。その頬に涙が伝う。

 その涙を指でぬぐってやった。


「大好きだ、夢」


 夢は、そのまま胸に顔をうずめてくる。


「泣いてばっかりいるな、今日、お前…」

「…なつめのせい、だよ」


 恥ずかしそうな声が聞え、困ったように見上げてきた。

 その表情がこの上なく可愛く思えた。


「馬鹿。もう、どうしよう…」


 真っ赤な顔をして悪態をつく夢。

 言ってることと表情があまりにも違う…困ったように夢はつぶやく。


「無神経、鈍感、薄情者、強引、強情」


 なつめは苦笑しながらその言葉を受ける


「強情ってのはお互い様だろう」

「うう…」


 恨めしそうに見上げてきた。


「ははは…」


思わず笑が零れる。視線が絡む。


 もう一度夢の唇に重ね、その感触を味わった。

 この上なく幸せな気分に包まれる


―こんな幸せなことはない…


 夢が自分を好きでいてくれた。

 それが確認できただけで、こんなに舞い上がるような気持ちになれた。


―この想いが伝わってるか?聞えてるか?夢…


 さらに力強く夢を抱きしめ、夢の唇を吸った。

 夢の口から熱い吐息が漏れてくる。


「…な…なつめ…待って、お願い」


 罵詈雑言を浴びせていた同じ口とは思えないほど甘い声で、静止を呼びかけてくる夢。

 その言葉にいったん、なつめはキスを止めた。


「なんで?」


 夢は熱に浮かされたような表情をして、見つめていた。

 この上なく艶っぽい。


「だめ…もう」

「なんで?」

「と、とけちゃう…」


―?!

 

 その声と表情に、なつめの何かに火が点いた。


「いいよ、とけちまえ…!」

「ゃ…んっ!」


 言いながら、夢を押し倒していた。

 そのまま、激しく口付けを繰り返す。


「む…は!な、なつめ強引っ…んっ…」

「夢、お前、可愛いすぎ!」


 そのまま抱きしめ、頬に、おでこに、こめかみに、まぶたにキスをする。そして首筋に舌を這わせた…

 夢が激しく反応する。


「や…あっん」


 夢の頬なでる。

 柔らかい肌の感触を味わいながら、その指を首筋に移動させた。


「夢、大好きだ」


 甘くキスをしながら耳元でささやくと、夢がまた反応する。


「う…うっ!あ…」


 首筋にキスを降らせると、激しく反応する。


「ずっと、好きだってこと、押さえつけて我慢していた。もうだめだ…止まらない、もう止められない」


 夢の表情、体温、仕草、反応が俺のすべてを刺激する。

 抑圧されていた想いが、解き放たれた喜びをある。


―もう無理。止まらないからな。覚悟しろ


 欲情の赴くまま、そのまま、二つのふくらみに手を伸ばす。

 夢が激しく反応した。


「なつ…う…はんっ」


―ああ、なんて…柔らかい!!


 服の上からやさしく撫でると、手を動かすのと同じように形が崩れる。

 下へ上へ、右へ、左へとなつめはそのふくよかな感触を味わうように、ゆっくりと手を動かす。


―ああ…


 感動すら感じながら、なつめはそのふくよかな胸を愛撫する。

 その手のひらに固い蕾を感じた。どんどんと大きくなる蕾…

 夢は大きく息をしながら、白い喉をのけぞらせる。

 波打つ胸…

 早鐘のような鼓動が手に伝わってくる。


―感じてるんだ…なんて可愛い…


 夢の反応を確かめるように、キスをすると、夢は熱い息を洩らした。


「…んあ…。だ…め、なつ…め…」


 否定の言葉が、口から漏れる。

 なつめは、もっと触っていたい衝動を無理やり抑えこみながら、夢の言葉に従って、胸から手を離した。


 夢が嫌がることはしたくない…


「夢…?」


 優しく問いかけると、夢がしがみついてきた。


「ふあ…な、つめぇ…」


 甘い、でも泣きそうな声に、少々驚く。


―焦りすぎたか?


「どうした?」


 その背中をさすってやると、夢は胸に顔をうずめてきた。


「怖いよぉ…」

「あっ!?悪い!」


 怖がらせるつもりはなかった。

 謝罪するように優しく頭を撫でる。


「ごめん!」


 いいながら後悔する。


―男ってのは、どうしようもねえ…


 一度自覚すると、もう止め処もなく突っ走りたくなる。どんどんと自分の中に欲望が渦巻き、さらにさらに先を求める。


 と、内心反省していると、夢が首を横に振っているのに気がついた。


「??」

「ち、違うの…」


 真っ赤になってこっちを見上げてくる。

 今にも泣きそうな、蕩けそうな、そんな表情…


 その艶かしい表情に、胸を打たれた。


―なんて顔すんだ…こいつは…!?


 思わずさらに抱きしめそうになる衝動を必死にこらえる。

 男心をわかっているのかどうか…

 そうでなくても、夢は美人の類に確実に入る。

 それがそんな表情をされながら、潤んだ瞳で見上げられたら、たまらない。

 視線をそらしながら、あわてる。


「わ、悪い。焦りすぎた…ごめん!」

「違う…そうじゃない」


 夢はそのまま泣きそうな声で続けた。


「え?」

「もう、止まんないよぉ、止まんなくて怖いの」

「…何が?」

「どうしよう…本当になつめが大好き!」

「!?」

「この気持ちが止まらない。離れられなくなっちゃうよぉ」


 そういって見上げてくる夢。


―!?


たまらず、夢を思いっきり抱きしめた。


―なんていとおしい。


 その言葉に、感動すら覚えながら、夢をしっかりと抱きしめた。


「な…つめっ…」


 胸に顔を押し付けてくる夢。泣き声だ。


「どうしよう、私、離れなくちゃいけないのに」

「離れる必要なんかない。ずっと俺のそばにいろ。俺がお前を離さない」


 すらっと、あまりにも自然に自分の口から出てきた言葉に、驚く。


―ああ…俺は……そうだ。なんだ…最初から…


 その言葉に夢が反応して顔を上げた。


「だって、そんなこといったって無理」

「無理じゃない」

「だって…」

「お前は俺のそばにいろ」


 神城家に来てからずっと、霧のようにもやもやしていた自分の気持ちが、初めてすっきりしていることに気づく。


「俺は、絶対に親父のようにはならない」

「え?」

「絶対に同じことは繰り返さない」


 あまりにすんなりと出てきたその言葉。


―そう…


 最初から考えていたことなんだ。

 はっきりと確信めいたものが、自分の中ではっきりと芽吹くのを感じた。


―そう、俺は、初めからこうしたかったんだ。


 夢をしっかりと抱きしめ、少しでも夢の不安を削るように想いを込めて、つぶやいた。


「大丈夫だ、大丈夫…」


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