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夜明け前  作者: ななまる
1/8

夜明け前 1

大財閥に身を置いた「神城なつめ」。もうすぐ18歳になる彼は、いつも命を狙われる存在だった。そんな自分をいつも守ってくれている少女…夢。夢には、不思議な力があった。

「もう会うのはやめよう…」そう彼女に告げてから、1ヶ月が経っていた。二人の恋の行方は…?

ユメ…


 自分の名前を呼ばれたような気がして、初木夢は目を覚ました。

 優しく響く声…

 聞きなれたトーン。

 なつめのものだとすぐに分かる。

 どうしても惹かれてたまらない声…


 目を開け、辺りを見回す。自分のいつもの部屋。

 いまどき珍しい古い平屋住まい。夢の部屋ももちろん和室だった。

 押し入れ、ふすま、机、タンス…シルエットだけが見える。

 中学2年生という年頃の女の子にしては、妙に色気のない、さっぱりとしたインテリアしかない。

 カーテン越しに外の様子を見るが、まだ暗い。冬の朝の空気は漂ってくるが、まだ夜明けには時間がありそうだ。


 枕もとに置いてある時計を見ると、まだ4時を過ぎたばかり。


―気のせい?


 夢は心の中で、ひとりごちた。


―きっと自分の願望が聞かせた幻聴だ


 冬の初めだけあって、外気が冷たい。

 暖かい布団から、身を起こすのは外気に触れることになる。

 なんとなくそれは、ためらわれた。


―気のせい。絶対に気のせい…


 夢が再び、睡魔に導かれようとしたそのとき、


 ユメ…


 なつめの声が頭に響く。


―また…聞こえた。


「なつめ?」


 声に出して名前を呼んでみる。

 返事はない。

 部屋には、自分ひとりしかいない。


 夢…


 また聞こえる、甘く自分を呼ぶ声。


―呼んでる、なつめが!


 夢は気を研ぎ澄ませる。

 瞬間、脳裏に浮かぶ、なつめの顔。

 黒く吸い込まれそうな眼、意志の強いそうな眉、そしてやわらかく結んだ口元。まだ青年になり立ての若いオーラを身にまとった、なつめ。

 独特のまぶしいばかりの覇気がそのしなやかな身を包んでいる。

 少し長目の前髪から除くその眼が、熱く自分を見ていた。


 その視線が、いつもと違う。

 追い詰められたような雰囲気に、夢は不安になる。


―なつめ?


 まさかっ、また何かあった?


 夢は急いで布団から身を起こし、もう一度、部屋を見回した。

 部屋には自分しかいない。それは夢にもわかっていた。


 夢…


 また聞こえる自分を呼ぶなつめの声。それは頭に直接響いてくるものだった。


―なつめが、呼んでる


 再び脳裏になつめの顔を映す。

 切なく自分を見つめてくるなつめの姿。不安げに映る瞳。

 熱く滾る雰囲気はいつものなつめのままなのに、どこか危なげない。

 夢は、その切ないまでに潤んだ黒い瞳に引き込まれた。


―私を呼んでる


 でも…


_もう会うのはやめよう、俺のところに来るな


 そうなつめ自身から直接言われたのは、つい1か月前

 それから、なつめとは会っていない


 夢…


 夢は頭に響くなつめの声に首を強く降る


_今はそんなこといってられない


 夢はぎゅっと目を瞑る。


―何かあったんだ


 意識を脳裏に浮かぶなつめに向けた。

 

_急いでなつめのところに、行かなくちゃ


 いつものように、夢はなつめの胸に飛び込むイメージを思い浮かべる。

 体が一瞬軽くなったような錯覚を覚えた。かまわずそのままなつめを覆うまぶしく光るオーラに向かって、身を投じる。


 静かに時が流れた。

 ぱさり


 乾いた音が、部屋に響く。

 夢の体を包んでいた布団が、形が失い立てた音。


 ぬくもりだけを残し、夢の姿はそこから掻き消えていた。



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