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芸人だよバカヤロー

作者: ちむどん

ブラックジョークが登場します。苦手な方はご注意ください。


タケ :お笑い芸人になるために上京してきた。

    浅草の劇場で深見と出会う。20代前半。

    

深見 :浅草の劇場の支配人をやっているお笑い芸人。

    人前に立たなければ芸ではないとしてテレビを嫌う。タケの師匠。50代。

    基本的に声が大きい。


千春 :浅草の劇場でストリップダンサーをやっている。

    歌が得意で、歌手になるという夢がある。20代前半。

    セリフ少な目。


高山 :深見の付き人。深見の演目で司会を担当している。

    何もかも中途半端な自分の人生にコンプレックスを抱いている。30代前半。

    セリフ少な目。


客  :深見の演目中にヤジを飛ばす男。高山と兼ね役。       


司会者:人気バラエティ番組の司会者。高山と兼ね役。


(口笛を吹くシーンはやってもやらなくてもいいです)

________________________________________________________




タケ:(劇場前でほうきを手に掃除をしている)

   はぁ......俺掃き掃除やるために東京来たんじゃねぇんだけどなぁ。



深見:(遠くから歩いてくる)...へへ、ニッパチ抑えてんだよ、こっちは!

   あれで負けたら大手振って浅草歩けるかってんだ。



タケ:あっ!深見さん!高山さん!お疲れ様です!

   すぐエレベーター呼びますんで!



高山:おう、おつかれさん。毎朝ご苦労だねぇ



タケ:いえ、これが仕事なんで、へへ...



高山:タケはなにしに東京出て来たんだっけ?



タケ:いや、なんつうか...自分も芸人やりたくて...



高山:そうなの!なら面白いエレベーターボーイにならなきゃね。

   芸事ってのは奥が深いよ?なんせ―――



深見:(被せて)早く呼べよ!飯屋ならそろそろ食いもん出てくんぞ!



タケ:あっ、あっすいません、すぐ呼びますんで...



深見:さっきも聞いたよバカヤロー。ったく...



   (エレベーターが到着する)



タケ:いってらっしゃいませ。



深見:おう。



タケ:...面白いエレベーターボーイ、ね...


_________________________

  

   

  (翌日)



タケ:いらっしゃいませ!メニューはこちらになります!



高山:え?タケ、どうした急に



タケ:お席ご案内します!!



高山:タケ、おまえ...



深見:(小声で)コノヤロー...いらねぇよ!飯食いに来たんじゃねぇんだこっちは!



タケ:ポテトはLサイズでよろしかったでしょうか!?



深見:いらねぇっつってんだろ!

   しかも、ポテト単品Lサイズっておめぇ、途中で飽きるに決まってんじゃねえか!



高山:(吹き出す)くっ、ははは...



タケ:こちらご注文の盆踊りになります!!



深見:頼んでねぇだろバカヤロー!

   しかも下手な盆踊りで金取るつもりじゃねぇだろうな!?


   (エレベーターが到着する)


タケ:それではどうぞいってらっしゃいませ!お客様!



深見:だから客じゃねえっつってんだろ!ったくよ...

   こんな店二度と来るかバカヤロー!



高山:(笑いながら)深見さん、客じゃないんでしょ!

 


   (エレベーターに乗り込む深見と高山)



タケ:ふぅ...なかなかよかったんじゃないか!?

   次のネタ考えなきゃな...芸人って大変だな...



千春:ねぇ。



タケ:は、はい?なんでしょう?



千春:あんた、最近見かけるようになったボーイ君だよね。



タケ:は、はい。そうですけど...



千春:さっきの良かったよ。うん、面白かった。



タケ:そ、そうっすか?へへ、あざっす...



千春:なれるといいね、お笑い芸人。じゃね。


 

  (千春、エレベーターに乗り込む)



タケ:かわいい子だったなぁ...



___________________________



   (数か月後)



タケ:おっ、来た来た...

   あらそこのお兄さん!あたしと一杯どーぉ!?なんならそのあと...



深見:(被せて)おい、タケ。



タケ:...は、はい?



深見:おめぇな、どっか別のとこでお笑いやってみろ。



タケ:...へ?



深見:最近ちっとはマシになってきた。前は見てらんなかったがな。

   どっかの小劇場なら拾ってもらえねぇこともあんめえよ。



タケ:は...へ?



高山:タケぇ!!よかったなぁ!!芸人、なれるってよ!!

   しかも深見師匠のお墨付きだ!!



深見:そこまで言ってねぇよバカヤロー!

   ...まぁそういうことだ。荷物まとめんならはえぇ方がいいぞ。



タケ:......あの



深見:あん?



タケ:お願いします!俺を弟子にしてください!



高山:おい、タケお前



深見:...ダメだ



タケ:おねがいします!



深見:ふ~ん...で?

   俺の弟子になったとしてよ、その後どうすんだ?



タケ:え?そのあと...ですか?



深見:おう。どうすんだ?



タケ:そのあとっつっても...え~、その...



深見:どうすんだって聞いてんだよ!

   おめぇ芸人になりてぇんだろ!?

   手ぶらで芸人になれるほどな、この道甘かねぇぞ!



タケ:っ、すいません...



深見:歌にしろ踊りにしろ、そういう芸事があって初めて人前立てんじゃねぇのかよ?

   


タケ:あっでも、ジャズは好きです。

   昔ジャズ喫茶でバイトしてたんで...



深見:おう、やれんのか?



タケ:いや、聴くだけで



深見:バカヤロー!!聴いてどうすんだ!

   お前客になりてぇのか?え?

   やる側じゃねぇのかよ?



タケ:あ、その、はい...



深見:黙ってどうすんだよ!!

   言われたらすぐ言い返すんだよ芸人ってぇのは!

   そんなこともできねぇでな...



高山:まぁまぁ師匠、そんな急に芸事なんて言われても...




深見:悪いけどな、他当たんな



タケ:っ、他じゃダメなんです!!



深見:...あぁ?



タケ:俺、やっぱ師匠のコントが好きなんです。いろんな芸人のコント見てきたけど、

   師匠のコントってやっぱピカイチで、

   この何か月か師匠と絡んで、師匠みたいな芸人になりたいって思ったんです。

   師匠みたいな、面白くて魅力があって、その、かっこいい芸人に...



深見:...



タケ:...あの



深見:はん!トーシローが生意気言いやがって!

   あ~あ、なぁにがピカイチだよおめぇ

   芸のことなんかなぁんもわかんねぇクソ坊主がよおめぇ...



高山:(クスクス笑っている)



深見:...なに笑ってんだよ!



高山:(まだ笑いながら)いえ、なんでも...



深見:ったくよ...



タケ:...





深見:おい!



タケ:は、はい!



深見:(エレベーターを指して)おめぇの仕事じゃねぇのかよこれ!



タケ:あ、はい、すぐに!



深見:ったくよ、ついてこい



タケ:え?



  (エレベーター内にて)


深見:...



高山:...



タケ:...



深見:おい、カバン持ってろ



高山:え?



タケ:は、はい



深見:(口笛で曲を吹き始める)



タケ:...



深見:これが芸事だ。



高山:...



深見:本気でやりてぇんだったら教えてやる。



タケ:...は



  (閉まるドア)



高山:あ!師匠!カバン!!



深見:あ!カバン返せコノヤロー!!



タケ:あ、あ!はい!すぐ持っていきます!!


____________________________________

  

  (数日後)



タケ:(かすれた口笛を吹いている)



千春:へたくそ。



タケ:はぁ!?あ、この前の...



千春:(笑う)...久しぶり。



タケ:ここの関係者だったのかよ...



千春:何の曲?もう一回やってよ。



タケ:いや、俺もよく知らなくて...



千春:なんだ、一緒に歌ってあげようと思ったのに。



タケ:歌やってんのか。どおりで声がきれい...



千春:(被せて)あんたみたいなナヨっちい男タイプじゃないから。



タケ:そんなつもりじゃねぇよ!...俺タケ。よろしく。



千春:チハル。千回の春って書いてチハル。



タケ:へぇ、いい名前じゃん。



千春:あんたみたいなナヨっちい...



タケ:だからちげぇって!



千春:ふふ、あははは



タケ:もう、なんだよ...

   千春はなんで東京来たの?



千春:あたし?忘れた。

   歌手になりたかったような気もするけど、

   気が付いたらストリップダンサーやってた。

   なんなんだろね。不思議だよね。



タケ:芸事ができるだけいいじゃねぇかよ。

   俺なんかなんもねぇよ...



千春:あんたはでっかくなるよ。



タケ:へ?



千春:わかんない。なんとなくそんな気がするってだけ。



タケ:なんだそれ...



千春:タケはいいな。これから始まるんだもんね。



タケ:そっかな?へへ...



千春:やめてよその青春真っただ中みたいな顔。恥ずかしくなる。



タケ:(かすれた口笛を吹き始める)



_____________________



タケ:へ?コントですか?



深見:おう、俺が兄貴で高山が舎弟やるからよ

   で、高山がはけたら、俺の「俺も一丁、いい女引っかけるか」ってきっかけセリフでお前の登場だ。



タケ:...それから?



深見:そんなものはおめぇ、客の反応次第だよ



タケ:は...アドリブでやるんですか?



深見:おう、俺がなんやかんやいろいろ振るから

   お前も適当にやってろや



タケ:適当にって言われても、そんな...



深見:じゃあ今からセリフ覚えれんのかよおめぇは!?えぇ!?



タケ:いえ、それは...



深見:どうなんだよ!

   ...わかったらさっさと準備しろ、ほれ



タケ:は、はい...



________________________________



  (鏡に向かって不細工なメイクをするタケ)



深見:おいタケ



タケ:はい?



深見:なんだそりゃ、なにやってんだおめぇ



タケ:何って...ホステスです



深見:馬鹿野郎!!落とせさっさとコノヤロー!!



タケ:いや、でも設定上...



深見:いいから落とせよ!!



タケ:すいません...



深見:いいかタケ、芸人なら芸で笑いとれ。

   変なツラして笑いとるんだったらな、そこらへんのブス連れてきて舞台放り出しゃ良いんだ。



タケ:...



深見:芸人ならな、女になりきれ。

   どこの世界に自分ブサイクにするホステスがいんだよ。あ?

   世界で一番綺麗になってやる!そういう心意気で化粧しろ。



タケ:...すいません



深見:他んとこは知らねぇ。

   でも俺のとこでやっていきてぇならな、笑われんじゃねぇぞ。笑わせるんだよ。



タケ:...はい!



深見:...早くそのブス落とせ



高山:...(ブスメイクを落とし始める)


_________________________________________________



高山:兄貴!



深見:おう。



高山:おかげでいい女引っ掛けましたわぁ。



深見:そうだろ?



高山:じゃ、これからあの女といっちょしけこんできますわぁ!



深見:おう、いってこい



高山:うひょ~!(舞台からはける)



深見:よーし、じゃあ俺も一丁いい女でも引っかけるか!

   お、きたきた!


タケ:(舞台中央に向かって歩く)



深見:ちょっとそこのお嬢さん、良かったら俺と遊びに行きませんか?



タケ:はい、お願いします



深見:じゃお願いします



タケ:はい



深見:...



タケ:...



深見:終わっちゃうよコントが!!

   断るんだよお前!だめだよ無視していくんだよお前!

   こんな怪しい奴が誘ってんだから無視してスッと行っちゃうの!



タケ:はい...



深見:(咳払い)お嬢さん、これから俺と遊びませんか?

   


タケ:...(無視して通り過ぎる)



深見:なんか言うんだよ!!



タケ:え、いや、無視してって...



深見:無視してじゃないよ、なんかしゃべるんだよこっちに!

   戻れこっちに!

   なんか喋ってやり取りするからネタになるんじゃねえかよ!



タケ:はいすいません...



深見:ったくよ...

   お嬢さん、何か用事でもあるんですか?



タケ:あっ、は、その、えっと...



深見:...スッと言うんだよスッと!!

   ぱっとなんか言えよ芸人だったらよ!

   ほらなんか言えなんか!



タケ:(裏返った声で)か、買い物に行こうかなと、思っておりますぅ



客(高山):ぎゃははは!!(手を叩いて大げさに笑う)



深見:おい、そこの。そこのあんた。

   下手な拍手してくれんな。



客:...あぁ?



深見:こんな下手な芝居で拍手したらな、こいつがダメになっちまう。



客:...おい、こっちは客だぞ!偉そうによ!

  なんなんだよお前!



深見:芸人だよ、バカヤロー。



タケ:...



深見:こっちはな、見てもらってんじゃねぇんだ。見せてやってんだよ。

   ...わかったら黙ってみてろ!!



客:...



タケ:...



深見:お前が黙ってどうすんだよ!!

   お前は芸人なんだからしゃべるんだよ!

   なんか面白いことを言うんだよ!



タケ:あっあっ、何よ失礼しちゃうわね!

   お兄さん、あたしと一杯どーぉ!?なんならそのあと...



深見:なんだ突然!こんな気持ちわりい女がいるか!

   あっよく見たら男じゃねぇかおめぇ!!



 (ヤジを飛ばした客も含めて皆が笑う)



千春:くっ、ふふふふ....

_______________________________________



高山:いや~どうだったよタケ!初舞台の感想は!



タケ:いや、終わってから師匠にボロカス言われましたよ...



高山:ははは、初めては誰だってそんなものだよ。

   僕だってそうだった...師匠!



深見:おう、おめえら。奇遇だな。

   どうだ?この後飯でも。



高山:はい!ごちそうになります!な?タケ。



タケ:え、あ、はい!





深見:ビール注がなくていいよおめぇ。気ぃ遣うんじゃねぇよ。



タケ:いやいや師匠...



深見:いいんだっつうの!それより食え食え!



高山:はい!



深見:...おめぇらよ、前から言おうと思ってたんだけどな。

   なんだその身なりは。



タケ:へ?



深見:芸人ならな、もっといい服着ろ。

   いくら舞台でバカやってもな、舞台おりたらかっこいいって言われる芸人になるんだよ。な?



タケ:...じゃあ、もっとギャラくださいよ。



深見:やだね~この人は。そういうこと言ってんじゃないんだよ。

   お~いママ、お勘定おねがい!



タケ:師匠、どうぞ。(サッと靴をさし出す)



深見:バカヤロー!!



タケ:へ!?



深見:あれ見ろ。(隣の客のピンヒールを見て)あっちを出すんだよ。

   そしたらそれを俺が履いて「あれ?ちょっと背が高くなったかな?ってバカヤロー」って俺が突っ込むんじゃねぇか!

   そうやって芸人ってのは勉強してくんだよ!わかったか!



タケ:はぁ...



深見:普段ボケねぇ野郎が舞台でボケれるわけねぇんだからな!

   芸人だったら、いつでもボケろ。わかったな。



タケ:...はい!



深見:いくぞ。じゃーね!ママ!また来るから!



______________________________________



タケ:高山さん、高山さん



高山:うん?



タケ:前から気になってたんですけど、師匠のあの左手って...



高山:ああ、あれね。なんでも、戦時中に軍需工場で挟んじゃったらしいよ

   左の四本指、根元からすっぱり。



タケ:そうだったんすね...



深見:おう、おつかれさん。



高山:師匠!お疲れ様です!



タケ:お疲れ様です。



深見:おう。どっこいしょっと(新聞を読み始める)



タケ:.........あの、師匠



深見:おう?どうした?



タケ:その、左手。

   


   ...腹減って食っちゃったって本当ですか?



高山:タケ!!!お前な!!!





深見:...俺はタコじゃねぇんだバカヤロー!

   なんでてめぇで食わなきゃいけねぇんだバカヤロー!

   そんな腹減ってねぇよ!



タケ:ははは、そうですか、はは

   でも、それじゃ泳いでても大変ですね

   どうしたって左に曲がっちゃうでしょ



深見:はっ、そうそう、どんなに泳いでてもな、元の場所に戻っちまう

   ってうるせぇなこの野郎!

   こう見えてもな、俺は泳ぎは得意なんだよ!

   でも競争するとな、必ずタッチの差で負けちゃうのってバカヤロー!ほっとけコノヤロー!



_______________________________________________



タケ:(口笛を吹いている)



千春:ずいぶん馴染んできたね、ここに。



タケ:おぉい!千春じゃん、驚かすなよ...



千春:ふふ、あんた驚かすとカワイイから。



タケ:...なんなんだよ



千春:...出てくんでしょ。



タケ:は?



千春:ここ。



タケ:...何で知ってんだよ。誰にも言ってないのに。



千春:あたし、よく言われるんだ。エスパーじゃないかって。



タケ:...いつまでもここで漫才やってるわけにもいかないからな。



千春:本気?ここ出てってどうすんの。アテは?

   バイトでもすんの?そんなんでやっていけんの?



タケ:そんなもんは客の反応次第だよ。



千春:そんなんでやっていけるわけない。



タケ:うるせぇな!わかってんだよそんなことは...

   でも、このままで終わりたくねぇんだよ、俺は



千春:そう、師匠には?



タケ:これから。



千春:そう。



タケ:うん。



千春:絶対。



タケ:うん。

 


千春:帰ってくんなよ。



タケ:...うん。



千春:...バカ。

______________________________________



タケ:......



高山:師匠!お疲れ様です!



深見:おう、おつかれさん。

   いや~昨日は大負けしちまったよ!

   


タケ:あの...師匠。



深見:隣のジジィにそそのかされてよ~あれは失敗だった!

   だいぶすっちまったよー、高山、おめぇも次どうだ!



高山:いいですね、ぜひ!



タケ:師匠。



深見:お!いいねぇ!おめぇも気ぃつけろよ~ジジィは何されるかわかんねぇからよ



タケ:師匠!!



深見:なんだよさっきから。おめぇも行きてぇのか?

   そんな金があんならまずその服をなんとか...



タケ:(被せて)やめます。



深見:...あ?そんなに行きたくねえなら別にいいけどよ。



タケ:ここ、やめます。

   やめて外で勝負さしてください。



深見:...あん?



高山:...タケ?



タケ:テレビ番組出ようと思ってます。

   前客として来てたプロデューサーから声かかって、それで...



深見:何言ってんだこの野郎!!

   お前な、ちょっとばかしコントができるようになったくらいで外出てぇだと!?

   お前みたいなな、芸も中途半端な野郎が外で何ができんだ馬鹿野郎!!



タケ:...



深見:しかもテレビだと?てめぇおれの下で何見てきやがったんだこの野郎!!

   あんなものはな、芸でもなんでもねぇんだよ!!

   生の人間目の前にして初めて芸ってのは成り立つんだ!!

   そんなもんで金取ろうってのかお前!?



タケ:正直、このままじゃいけないと思ってます。

   客足もだんだん減ってるし、ストリップ目当てのエロジジイばっかり。

   あいつらお笑いなんか興味ないんすよ。そんな奴ら相手にお笑いやってたって...



高山:お前さんざん世話になった師匠に向かってそれはないだろう...



タケ:じゃあこのまま野垂れ死ねってのかよ!!

   


高山:...え?



タケ:裸見たさの客笑わしてなんになるんだよ!

   いくらここで爆笑さらったって、なんにもなんねぇじゃねえかよ!!



高山:ど、どうしたんだよタケ...



深見:...おい...ずいぶん笑わしてくれんじゃねぇかタケ。

   いつからそんなおもしれぇこと言えるようになったんだよコノヤロー!!





タケ:......師匠に、鍛えてもらったんで。



深見:...



タケ:お世話になりました。(楽屋を出ていく)



高山:おい、タケ!タケ!!



深見:...るな。



高山:え?



深見:タケの野郎が帰ってきても、一歩も入れるな。

_____________________________________________________

   (数年後)


千春:...(テレビ画面を見ている)



タケ:来年日本の法律が変わりましてね、80以上は死刑になりますからね



   (爆笑)



タケ:こんなこと言ってますけどね、私は年寄りに親切なんですよ

   こないだなんかおばあちゃんに道を聞かれましてね、銀座で。

   親切に近道ですよ近道。おばあちゃん喜んで、

   高速道路をテクテク歩いていきましたからね。


 

   (爆笑)



千春:...ふふ、ブラックすぎるでしょ。師匠の何見てきたのよ。



タケ:やっぱり今交通事故ってのは多いですから。

   交通標語はよく覚えてください。いろんな標語あります。

   「注意一秒怪我一生」。ね。

   「赤信号みんなで渡れば怖くない」。

 


   (爆笑)



千春:はは、ひっく、ははは...



タケ:他にもね、「ばあさんが ドレスを買って 見栄を張る」



   (爆笑)



千春:ふ、ひっく、うぅ...



タケ:大体ね、これ見てる人たちが交通ルールなんか守るかってんですよ!



   (爆笑)



千春:でっかく、なったね、タケ...



タケ:私ね、生まれが山形なんですがね、東京に来て初めて人を見たんですから!



   (爆笑)



千春:う、うぅ...うぅぅ...



________________________________________________



高山:うりゃー!!



深見:ぐわーーー!無念だ...バカ野郎!切りかかってくるのがはえぇんだよ!

   


高山:あっすいません...



深見:俺がかっこよく口上言ってんだからよ、それ聞いてからにしてくれよ



高山:はい



   (まばらな客と、シーンとする劇場)



深見:ったくよ、我こそは三代目、月影武蔵だ!!





高山:師匠、夕方の部、客数0なんで中止です



深見:そうか...



高山:師匠、あの、お話しがありまして...



____________________________________________________



千春:さーとーし。行くよ。

   え?居たって...誰が?

   ...深見タケ?そう。サイン書いてもらったの。よかったね。

   ほら行くよ。今日はさとしの好きなハンバーグだから...







   (チャイムの音)



深見:...



   (チャイムの音)



深見:...開いてるよ、バカヤロー



タケ:...



深見:...



タケ:ご無沙汰してます、師匠。



深見:...何しに来た。



タケ:貧乏な師匠に、こづかい渡しに来たんですよ。

   


   (「日本放送演芸大賞受賞」と書かれた金一封を渡す)



深見:...腹減ってんのか?



タケ:いえ、大丈夫です。



深見:...ラーメンだったら不味いけど、すぐ持ってくるとこあっからよ。



タケ:いや、ホント、大丈夫です。



深見:...ふざけやがってこの野郎。



タケ:...



深見:こづかいだぁ?少し売れたくらいで師匠に向かって生意気によぉ。



タケ:...



深見:......ひぃ、ふぅ、みぃ、



タケ:(笑う)数えてんじゃねぇかよ、ジジィコノヤロー。



深見:だっ、誰がジジィだコノヤロー!!(笑う)



   (しばらくおたがい笑いあう)



   


(行きつけの居酒屋にて)



深見:ホントなんだよ!今でこそコノヤロー偉そうにテレビなんか出てるけどよ、

   浅草来たときなんかぜんっぜんダメで!入浴ショーやるからお湯張っとけっつったらさ、

   コノヤローかんかんに沸騰したお湯入れやがってよ!



   (居酒屋内、爆笑に包まれる)



タケ:師匠が熱いから全然入れなくって、俺は石川五右衛門じゃねぇんだよ!!ってね、

   あれは怒られたなぁ



深見:当たり前だよバカヤロー!!



タケ:でも師匠もなかなかよ、楽屋でね、テレビ見てたらアイドルが歌ってたんだよ。

   そしたら師匠それ見てテレビ持ち上げろって言うの。なにすんのかなって思ったらね、

   下からテレビのぞいてパンツ見ようとしてんの!



   (爆笑)



深見:余計なこと言わなくていいんだよバカヤロー!!

   大変だったんだよ、俺がこうやって下からパンツのぞいてたら、

   タケが「重たいです」つってこいつ、手離しちゃったんだよ!

   上からテレビが落っこちてきてもう大怪我だよバカヤロー!



   (爆笑)



深見:久々に帰ってきたら余計な話ばっかりしやがって!

   タケが話やめねぇから酔っぱらっちまったよ!



タケ:(ピンヒールをそろえて)師匠、どうぞ!



深見:...(涙声で)あれ?少し背が高くなったかしら?ってバカヤロー!!



________________________________________________



司会者(高山):深見タケさん、お時間です



タケ:ああ、そう。わかった。



司会者:それでは皆さん!大変お待たせいたしました!



タケ:(口笛を吹く)



司会者:...?



タケ:(口笛を吹き続ける)



司会者:えー、少し変な音がしてますけどもね、

    気を取り直していきましょう!



タケ:...



司会者:今大人気のお笑い芸人!深見タケさんの登場でーーーーす!!



   (拍手喝采)



タケ:おい。



   (拍手がやむ)



タケ:まだなんもしてねぇだろ。拍手なんかしてくれんな。



客(高山):ああ!?客に向かってなんだその態度は!

      お前なんなんだよ!!



タケ:...芸人だよ、バカヤロー。



 終

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