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人を見る時、その人もまたこちらを見ている。

「ふむ、当たりだね」

 

 ボブを通じて相手の貴族、エルビス様と連絡を取り、彼の住む邸宅に赴いたのだが。

 着くなり、ドミニクが小さな声で呟く。

 私もまた、かすかに頷いて返した。


 フェンディック伯爵領第一都市郊外にある、立派な外壁はあれど伯爵家の人間が住むにはやや質素な邸宅と、それ相応に少なめな使用人。

 エルビス様がおかれている状況、その渦中にいる人々の態度は事前に予想していた通りのものだった。


 こんな、どこの馬の骨ともわからぬ女二人をすら侮ることが出来ない。

 彼らが元々清廉潔白な人間である可能性もあるにはあるが、その場合であっても悪い対応はされないだろうから、結果は同じこと。

 これで、依頼料を渋られる可能性は極めて低くなったと言えるだろう。


 いや、ほぼ確実だと言っていい。


「君達二人が、ボブの紹介してくれた剣士か」


 なんと、この邸宅の主であるエルビス様が、私達と直接対面する場を設けてくれたのだ。

 この国の高位貴族でよく見られる、金髪碧眼の優男。

 連日の騒動でやや憔悴している色はあるが、その瞳にはいまだ強い意志の光が宿っている。

 

「……どう見るね?」

「滅多に見ないほどの凄腕かと」


 しばし私達を観察していた彼が隣に立つ執事に聞けば、間髪入れず答えが返される。

 なるほど、執事兼護衛のような立場なのだろうか。かく言う彼もまた、中々の腕に見えるのだけれど。

 それを聞いたエルビス様は、得心がいったように深く頷いてみせた。


「私にも、そう見える。……本当に、ボブにはどれだけ礼を言っても足りないな……」


 ふむ。そんな弱みを私はともかくドミニクに見せるのは感心しないが。

 この様子だと、今まで彼が急場を凌げていたのは、ボブが斡旋した傭兵や冒険者に拠るところが大きいらしい。

 だから、女二人だと侮ることもなく、主自ら出てきた。……値踏み、いや、確認の意味もあったのだろうけれど。


「こりゃまた、お二人ともお目が高い! あたしら二人、二つとない掘り出し物って奴ですよ!」


 そんな裏を読んだのかどうか、次期伯爵の可能性もあるお貴族様相手にもドミニクはいつもの調子である。

 さらりと私も入れられているのは……存外、悪い気はしなかったけれども。


 また、本来ならば無礼者と激高されてもおかしくないはずなのに、エルビス様も執事もそんな様子は欠片もない。

 むしろ、呆気に取られた後、笑い出したほど。

 この空気の掴み方が、ドミニクの底知れぬところでもあるのだが。

 交渉事はもちろんのこと……まだ一回しか見ていないが、斬った張ったの場でも相手を自分の流れに飲み込んでいく、そんなところがあった。

 傍から見れば相手がドミニクの剣へ自ら向かっているように錯覚していまうほどなのだから、斬られる方はたまったものではないだろう。


「掘り出し物だからこそ申し訳なくもあり、縋りたくなってもしまうな。何しろこちらの戦闘要員は二十人足らず、あちらは軽く百を超えたらしいのだから」

「ほうほう、そりゃまた随分とかき集めたもので」


 伯爵領軍ならばともかく、まだ伯爵候補でしかない人間が集められる私兵で百人超。この国では中々ない規模だ。

 どこからそれだけの金を出したのか……あるいは空手形を切ったか。まあ、どちらでもいいこと。


「ならば、一人頭五、六人も斬ればおつりがきますか」


 軽い冗談で言ったつもりなのだが、執事やエルビス様からはぎょっとした目を向けられた。

 残念、受けなかったか。

 などと考えていたら、ドミニクが呆れたような声で私へと返してきた。


「何言ってんのさ、アーシュラ。あたしらみたいに一人で十も二十も斬れる人間ばっかりじゃないんだから、そりゃ無理ってもんだろ」


 今度は、ドミニクへと驚愕の目が向けられる番である。

 しかし、彼女が言うことは道理でもある。


「なるほど、言われてみればそうですね。ならば私とあなたで半数ばかり斬りますか」

「悪くないねぇ、その計算の仕方」


 そんな私達のやり取りを聞いていたエルビス様は、幾度も幾度も目を瞬かせて。


「……ただの大法螺(おおぼら)じゃなさそうなのが、頼もしくも恐ろしいよ……」


 と、首をすくめながら零したのだった。

※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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