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そして運命は選ばれた。

 それから私達は行動をともにすることとなった。

 

 手始めに、とある村落へ。


「いやぁ、実はここの村長から、あの破落戸(ゴロツキ)連中の始末を頼まれててさぁ」


 と、悪びれもせずドミニクは言ったものだ。

 ちなみに、証拠たる連中の首やらなんやらは、村の若い衆が現場に向かって確認済みだ。

 そういった確認の手筈まで整えてしまう辺り、ドミニクはこういったことに慣れているのだろう。

 

 たまたま私が破落戸に襲われ、応戦していたところに依頼を受けたドミニクがやってきた。そんな構図だったらしい。

 彼女からすれば、予定よりも簡単に片付いたのだから、漁夫の利というかなんというか。

 と、若干複雑な気持ちになりかけたのだが。


「実は道中で出会ったこいつにも手伝ってもらってさぁ。報酬の半分はこいつにやって欲しいんだ」

 

 なんて当たり前のように言うのだから、毒気も抜かれてしまうというもの。

 その言葉を真に受けた村長も村長で、涙を流し両手で私の手を握りながら感謝の言葉を述べてきた。

 こんなにも純朴で大丈夫なのだろうか。なんて心配をしてしまう程に。

 

 ……いけない、私もいささか絆されてしまっているのかもしれない。

 そんなことを思いながらも、ここはよいアイディアも出ないからと流れに身を任せてしまい、下にも置かぬ扱いを受け、決して豊かではないであろう村の出来る限りのおもてなしを受けて、それから一泊。


「よかったのですか?」


 村人総出で見送られて、その姿が見えなくなった頃に、私はそう問いかける。

 

「うん? 何がだい?」


 まるで見当がつかないかのように応じるドミニク。きっと、わかっているくせに。

 そんなところも……いや、それはどうでもいい。


「私が、報酬の半分を受け取ったことです。あなたは、冒険者稼業なのでしょう?」


 私の問いかけに、ドミニクは小さく笑う。


 冒険者。この国やその近辺において普遍的に存在している、ならず者一歩手前の連中。

 規律の緩い個人、もしくは小集団の傭兵というのが私の認識ではある。

 元々は、国軍では迅速に対応しきれない魔族や魔物の脅威に対して柔軟に対応出来る民間武力、という存在であったらしい。

 いや、今でもそのように機能している冒険者達もいるのはいる。

 ただ、そんな志を持っている連中が、かつてよりも割合を減らしている、というだけで。


 もっとも、そのことを責めるつもりは毛頭ない。

 生きていくにあたって、綺麗ごとを貫ける人間など色々な意味でそう多くはないのだから。


 力が足りない、というのがまず第一。

 力はあっても、いや、だからこそ、割に合わないと考えて合理的に割り切る連中だっているだろう。

 私の見たところ、ドミニクは後者のように思ったのだが。


「あはは、先行投資ってやつさ。あんた相手に、恩ってほどでもないが、些細なことを売っておくのもありだろうってね」


 どうやら彼女は、私が思うよりも遥かに強かで計算高いらしい。

 目先のことではなく、もっと先のことまで考える。そういうことが出来る冒険者など、そう多くはないだろうに。


「ふむ。……投資を持ち逃げする可能性は考えなかったのですか?」


 なんとか捻た返しをすれども、彼女には通じなかったらしい。


「持ち逃げなんてつまんないことする奴じゃないだろ、アーシュラは。

 それに、持ち逃げなんかよりもずっと面白いことをご提供しようって腹積もりなんだ、この程度で逃げられたらあたしが悪いってもんだよ」


 ……眩しい。

 何故か、そんなことを思ってしまった。

 不意に名前を呼ばれたせいかも知れない。


 彼女は、出会ったばかりの私をそこまで信頼している。

 ……見抜かれている、と取れば何とか否定したくもなるが。

 私個人の考えとして、ここは乗ってしまいたいと思ってしまった。


 ある程度の合理性はある。

 その上で、私の感情が求めているものも満たされる。

 であれば、拒否する必要などないのだろう。

 ただし、たった一つの条件さえ満たされるのならば。


「以前も言いましたが。退屈だと思えば、背後から斬りますよ?」

「いいねぇ、相変わらずなその答え。それくらいでなきゃ、誘いがいがないってもんだ」


 凄む、という程ではないけれども。

 それなりの圧力をかけて言えば、返ってきたのはそんな言葉。

 軽い、とも取れるのだが。彼女が言えば、何故かそうは思えない。

 心の底からそう思っている、自信のようなものを感じるからだろうか。

 

 ……私を退屈させないだなど、どうしたらそこまで思えるのか、私本人ですら皆目見当もつかないのだけれど。

 確信を持ってそう言っているのだろうことがわかってしまうのが、なんとも質が悪い。


「では、その自信のほどを見せてもらいましょうか」


 私は、そう応じた。

 応じて、しまった。


 それが、私と彼女、ドミニクの運命を決定づける言葉だったとは、欠片も思うこともなく。



※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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