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トラブルは向こうからやってくる。

 こんな流れで、私とドミニクは行動を共にすることになった。

 相棒とは認めていないのだけれど。

 ……まあ、実質相棒のような状況になっているのは、わかっていたけれども。


 正直なところ、助かったところもある。

 路銀に困ることが、まるっきりなくなっただから。

 もちろん、エルビス様から十分過ぎるほどの報酬をもらったというのもある。

 それに加えてドミニクがあれやれこやと仕事を持ってくるおかげでその後もそれなりに収入が入ったので、今までにないほど楽な暮らしをさせてはもらった。

 それなりに危険な依頼をこなしながら、ではあったけれども。


 ……そんな日々も楽しいと思ってしまったのは、我ながら不覚だとは思う。


「食ってくためにやってるだけさぁ」


 などとドミニクは笑いながら言っていたけれども。

 実際、生き汚いと思える場面もあったけれども。


 なぜか、不快には思わなかった。

 むしろ、彼女が持つたくましさや抜け目の無さが、心地よくすら感じていた。

 

 彼女は、生きるために、生き抜くために剣を振るう。

 時に、私が呆れてしまうような策略を駆使しながら。

 きっと、それこそが彼女の強さなのだろう。

 

 彼女は、生き抜くためであれでばなんでもする。

 それでいて、きっと彼女自身が許せないであろう手段は取らない

 手を血で汚す稼業ではあるけれど、彼女はその中でもましな手段を取ろうとする。

 まるで、そのために強くなったかのように。


 どちらが先かは、私もわからないけれども。

 一つだけわかるのは、彼女は綺麗ごとを貫くことも出来る力があるということ。

 そんな姿が、時に眩しく映ることもあるにはあった。


 例えば、とある街に立ち寄った時のこと。


「よう姉ちゃん達、俺らと一緒に飲まねぇか?」


 と、昼間から酒が回っているらしい男連中から声をかけられたことがあった。

 もちろん私もドミニクも、こういう連中と飲む趣味はない。


「あはは、悪いね兄さん方。こっちはそういうの間に合ってんだ」


 ヘラリと笑ってドミニクがかわす。

 ちなみに、私が口を開けば間違いなく喧嘩を売ることになるので、私は黙っていた。

 そんな私の気遣いも虚しく、この連中はしつこく絡んでくる。


「いいじゃねぇかよ、あんただって好きな口なんだろ?」

「いや~、しばらく酒は控えようと思っててねぇ」


 嘘である。

 昨日だってドミニクはしこたま飲んでいた。

 私もかなり飲める方なのだが、彼女には敵わないと思うほどに。

 それでいてけろっとしているのだから、大したものだ。


 まあ、なので彼女が飲まないということは、それに値する相手ではない、ということである。

 そのことを、連中が感じ取ったのかどうかはわからないが。


「何お高く留まってやがんだ、冒険者風情がよぉ」


 チンピラ風情に言われるとは思わなかった。

 という言葉を、我ながらよく飲み込んだものである。

 ドミニクも同じようなことは考えたらしいが、彼女の方が感情を隠すのは上手かったらしい。


「なんだ、こっちの姉ちゃんは何か言いたそうじゃねぇかよ、え?」


 別の一人が、若干イラついた顔で私の肩に手をかけてくる。

 いや、かけようとした。


 その手を私は途中で掴み、腕を捻り上げて肘、肩と関節を極めて相手の体勢を崩し、その体重を利用して、地面に叩きつけたのだ。


「……あ。つい」


 この一連の動きは、無意識に出てしまったもの。

 我ながら、ドミニクに任せきりで少々気が緩んでしまったらしい。


「て、てめぇ、何しやがる!!」


 ドミニクに絡んでいた男がこちらに向かって吠えてくる。

 随分と沸点の低いことで。


 ちらと見れば、ドミニクが笑顔のまま少しばかり困ったように眉を寄せ、若干諦めの入った溜息を吐いたところだった。

 穏当に済ませたかった彼女としては、あてが外れたことを残念に思うのも仕方ないところ。

 それでいて、彼女ならば私が反射的にやってしまったこともわかっているはず。

 だから、こういう表情になっているのだろうけれど。


「何って、当然のことでしょう。許可なく淑女の身体に触れるのはマナー違反というものです」

「ぷはっ!」


 少々気取った口調を作って言えば、ドミニクが吹き出した。

 なんて失礼な。私だって黙って立っていれば淑女に見えると言われたこともあるというのに。

 少しばかり非難の色を込めた目で見れば、彼女はコホンと咳払いして誤魔化そうとした。誤魔化されるつもりはないが。


「ま、まあ確かによくないね。一応花も恥じらう乙女なわけだし?」

「それでフォローしたつもりですか?」


 とってつけたような言い草のドミニクへとジト目を向けながら、私が返す。

 男達を全く無視した形で。

 もちろん、わざとだけれど。


「こんの野郎ぉぉ!!」


 ついに堪忍袋の緒が切れた一人の男が、殴りかかってきた。

 随分と堪え性のないこと。

 もちろんそんな男の拳など、鋭さの欠片もない。

 私はタイミングを見て一歩飛び込み、男の胸板へと肘打ちを突きこんだ。

 ……タイミングが良すぎたのか胸骨が折れる手ごたえがあったけれど、まあ気にしないでおこう。


「うわっ、えっぐいことするねぇ」


 流石にドミニクは気付いたようだけれど。


「お互い様でしょう?」


 そう言いながら彼女も同じく向かって来ていた男の膝を折れそうな勢いで蹴り抜いていたのだから、人のことは言えないと思う。


 などとやり取りをした後ふと見れば、あっさりと二人が沈められたせいか、残る連中の顔色が青くなっていた。

 この程度でとは、これだけ凄んでおきながら場数をさして踏んでいないのだろうか。


 いや、実際そうなのかも知れない。


「お、お前ら、俺達はアンガントファミリーなんだぞ!?」


 上擦っている声、一家の名前が恐らく切り札。

 とんだ小物だ。


「知りませんよ」

「知らないねぇ」


 奇しくも、私とドミニクの声が重なる。

 面白いなと思った私の頭に閃く言葉があった。


「看板のような軽いもので殴り合うつもりですか?」

「ぶぁっ!? あっははは、ちょっ、やめてやりなよ、アーシュラ!」


 私を窘めるドミニクも、しかし否定する気はないらしい。

 それも仕方ないことだとは思うが。

 本来、この手の連中にとってファミリーの名前、看板は重いものであるはず。

 それをこんなしょうもない喧嘩で出してきたのだ、軽いと思われても仕方ないところだろう。


「ま、だがそいつは至極ごもっとも、だ。一家の名前じゃなくて拳で語って欲しいもんだねぇ?」

「それが出来れば、出していないのでは?」


 私達が構えて見せれば、男達が……一歩下がる。

 かなり煽ったつもりなのだが、これか。

 本当にしょうもない相手だ、と私の興が削がれそうになったところで。


「で、どうするね、お兄さん方。やるかい?」


 そのことに気付いたかどうか、ドミニクがもう一つ煽りを入れる。

 いや、恐らくこれは、煽りや問いかけに見せかけた降伏勧告だったのだろう。

 連中は互いの顔を見合わせて。


「くそっ、お、覚えてやがれ~!!」


 そう言いながら、倒れていた二人を抱えて一目散に逃げていった。


「ふむ。最低限の引き際はわきまえていましたか」


 そもそもドミニクから袖にされた時点で引けばよかったのに、しつこく粘着した結果がこれである。

 ……少しばかりスッとしたのは、きっと気のせいだろう。


「ま、これでまだ来るようなら、こっちもきちんと対応せざるを得なかったしねぇ。

 ついでに言えば、怪我人放置されたら放っておくわけにもいかなかったし」

「確かに、それはそうですね。あの手の輩であれば、どんな因縁を付けてくるやら」


 私達に、ではない。この周辺にいる人達に、だ。

 怪我人をほっぽといたら、それだけでも因縁を付けられかねない。

 かといって手当などすれば、上がりこんだ流れで何をされるかわかりはしない。

 あるいはお人よし、つまりカモと見られて粘着されるか。

 いずれにせよ、ろくなことにはならないだろう。

 

 もちろん連中側からすれば、怪我をした構成員を見捨てるとその後どんな悪影響があるかわからない、という懸念もあったのだろうが。

 ……いや、そこまで回る頭を持っている人間がいたかはわからないが。


 ともあれ、これにて一件落着、と思っていたのだが。

 そんな私達へと、声がかけられた。


「お姉ちゃん達、強いの……?」


 幼い声で。

 見やれば、そこに一人の少女が立っていた。

 いや、ギリギリ少女と呼べるくらいだろうか。

 十歳前後と見られる、幼さが残る少女。


 しかし、その目に宿る力は、大人びたもので。

 ドミニクはもちろん、私ですら、興味を惹かれてしまった。


「あの……こっち、来て」


 そんな私達の反応を見て何か思い至ったか、彼女は私達を大通りから少し入った路地へと招く。

 こうなると、ドミニクが乗らないわけながい。

 となれば、私もついていかないわけにはいかず。


 そして私達は、思いもよらぬ言葉を聞くことになる。


「パパとママの仇を討って!」


 という、切なる少女の悲痛な願いを。

※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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