6話 サリフル・カーズ
サリフル・カール。
私はカール伯爵家の跡取りであり、カールの名を持つ偉大な人間だ。
富も権利も地位も全てを持っているのが私であり、何不自由なくこの簡単な世界を生きてきた。
だが、全てを手に入れた私にも、一つだけ足りていないものがあった。
それが、満たされない感情。
私の父は、私が言えば何でも買ってきてくれる。
剣もアーティファクトも宝石も絵画も、何もかもを父は買ってきてくれた。
だが、父にも買ってこれない者があった。
私を満たす物。
だから私は探した。
王都中を回って探した。
そして見つけたのは、この奴隷だった。
「おい!このクソ奴隷が!!この俺様が、お前みたいなゴミの世話をしてやっているんだ!!もっと早く歩けよ、このウスノロ!!」
「ご、ごめんなさい。」
「チッ!ごめんなさいごめんさい、うるせえぇなぁ!」
奴隷を罵倒し殴る。
あぁ、気持ちがいい。
奴隷は痛がることもせず、ただごめんなさい。と小さく呟くだけで、蹲る事しかできない。
あぁ、弱い、醜い。
「ごめんなさい。」
「ッ!ぶつぶつ薄気味悪い奴だなぁ?あぁ?」
私が拳を少女へと振り下ろそうとした時、まるで柔らかさの上に怒りを含んだ様なそんな凛とした声が私の拳を止める。
私は行き先を失った拳を怒りのあまり、空に振り回すと共に、その声先の人物の方を向く。
「その手を下ろしなさい!」
「はぁ?!誰だよ?お前??気持ち悪いなぁ、あっち行けよ。」
金髪の少女は整った顔を憤怒に染め、私へ怒りの表情を向けてくるが、知った事ではない。
顔の良いハエ風情が、私に説教を垂れるなど甚だしいにも程がある。
「その前にその手を下ろしなさい!!」
何なんだ、このハエは?
私の行動を、一度ならず二度も止める気なのだろうか?
「フハハハハハハ。」
この私に説教など...親からも、周りの大人達にもされた事のないのだが...このハエは身の程を弁えるという事を知らないのだろうか。
怒りを通り越して笑いが出てきてしまった。
「見たところ、ちょっとした裕福層の人間だろうが...俺は貴族だぞ?貴族!!カーズ伯爵家、跡継ぎ、サリフル・カール様だぞ??お前のような一般の民が貴族の問題に口を出していいとでも思っているのか?!」
「...貴族だからって、そんなに小さい子をどうこうして暴力まで振るうなんてどうかしているんじゃないの?!」
私は、奴隷へと向けた拳を引き、金髪のハエを叩くべく正義の名の元、平手を振りかざす。
ハエには、お仕置きをしないとな?
「私に..説教を説くとは、この愚か者が。」
「ッ?!」
パチッ
という音と共に、手のひらに鈍い痛みが走る。
痛みの受けた方向に目を向けると、どうやら私が金髪ハエへと向けた平手は、黒髪のハエによって阻まれたらしい。
「おい、何やってんだよ?このクソ豚。」
今、何と言った?!
このクソバエ...!!
私の事を、クソ豚...クソ豚と言ったのか?!?!
親にすら言われた事のない言葉を、この害虫クソバエ風情が口にしたのか?
「ッ?あぁ?私はカール伯爵家....え?」
許せない!!
私は、怒りのまま、クソバエに向かって怒号を吐こうとした...が、少しだけ、ほんの少しだけ時間が止まった様な感覚に陥った。
それは、クソバエの手の甲ね印を見てしまったからだ。
「カーズ男爵家?それがどうした、続きを言ってみろ?」
手の甲に描かれた貴族紋...私にもある、それは貴族にしか許されていない紋章であり、偽装などが出来ない様に、魔力によって様々な形に成されている。
だが、貴族間では知れている、貴族紋の見分け方がある。
それは、星の数だ。
散り散りになった、貴族紋の中でも、星だけはじっくり見れば見分けられる。
私の手の甲に入っているのが、3つの星...そしてこのクソバエの手の甲には、確かにあった。
「い、いえ...。貴方は...。」
「お前に語る名前なんて存在しない。それよりも、今...俺の妹に...何をしようとした?」
5つの星が...。
「あ...。」