5話 遠くへ...。
セシリアに連れられて、俺たちは王都の様々な所を歩いて見て回った。
前世では見られない、魔法を使ったショーや魔法具店...それに雑貨屋やアクセサリー店。
正直、一日で回れるだけの所は回った気がする。
「あのぅ、セシリアさーん。もう疲れちゃいましたよ?俺。」
「むぅ...。じゃあ最後にあれだけ見て帰りませんか?」
セシリアが不満気に指差した方向には、青白く輝く、イルミネーションが花畑に幾つも飾られてキラキラと輝いていた。
この時期にイルミネーションというのは何とも不釣り合いに思えるが、魔法で作られたと思われる、その景色は遠目からでも綺麗だった。
「イルミネーション...か。」
「はい!」
イルミネーションといえば、前世の記憶が蘇る。
イルミネーションの輝く中、突然の告白。
驚く彼女、ニヤニヤする俺。
まぁ、テレビの外から笑ってただけなんだけど。
「どうかしました?お兄様?」
「いや、久しぶりに見てみるのも良いな、って思ってな。」
「だ、誰かと一緒に見に行ったことが?!」
「んー、まぁ...?」
テレビの外からだが、まぁ、ここは理想のお兄様らしく、カッコつけておこう。
「そ、それは女の人と...いう事ですか?」
え?どういう質問なのそれ。
テレビドラマ以外じゃ、家族...くらいとしか行ったことなかったけど、一応肯定しとくか。
「まぁ?」
「...!やっぱりやめましょう。お兄様!急用を思い出しましたので...早く馬車停に!」
「ん?...そう?」
「はい!」
うん、この反応は俺が何か言葉選びを間違えたか、本当に用事があったのか、という2択になるが、いきなり用事が入る訳はない。
どうやら俺は選択肢を間違えてしまっていたらしい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お兄様...!」
「ん?どうした。」
セシリアから無言で手を引かれて、馬車停へと足を進めていた時、突然セシリアが立ち止まる。
「あの子...。」
セシリアが指を指した方向には、貴族風の身形をした小太りの男と、ボロボロの服を着た奴隷の少女がいた。
「さっきから、あの子の様子がおかしいんです。」
確かに、よく見てみると、少女は足が地に着いておらず、宙に浮いている状態で首に付けられた輪っかからの鎖を引っ張られている。
一方、貴族風の男は、首輪を引き付って連れて行こうとしている様だが、筋力がないのか、その場から動こうとしない。
こんな行為、前世では到底許されないことだ。
だがこの世界では、貴族や裕福層の人間が力のない人間を奴隷として扱い従わせる事のできる「奴隷制」が法として確立されている。
あの残虐な行為を王国が許可しているのだから、俺たちは見てみぬフリをする事しかできない。
「確かに...?!って、おい。まて!!セシリア!!」
俺がセシリアに何と返答しようと考えている隙に、俺の手を離れて、セシリアは奴隷の少女と貴族風の男の方へ一直線に駆け出して行った。
その小さな背中を追いかけて、俺は数歩遅れて地面を蹴る。
が、思っていたよりも足に力が入らない。
刺された後の後遺症か、ブランクがあった事によるものかは分からない。
「...ッ!クソッ!!」
思いっきり踏ん張っても、いつもの2分の1程しか速度が出ない。
「おいッ!セシリア!!」
必死に訴えかけても、セシリアは走りを止めない。
俺が必死に身体を前に出す度に、セシリアはどんどん小さくなっていく。
その焦りを、この恐怖を、俺は何故か知っている様な、そんな感覚に襲われながら、セシリアの後を追う。