セシリア・フィンセント視点【2話】
夢を見た。
最初は前すら見えない薄暗い世界に私1人が立ちすくんでいた。
次第にその世界は闇を深めていき、世界は黒に染まっていった。
そのまま夢が終わるかと思えば、突然目の前に明かりが指した。
そこには、何年後かは分からないが、大人になった私がいた。
そして、今とは大分風貌の変わったお兄様。
私は、私とお兄様が話しているのを俯瞰的な位置から見ていた。
話している内容は全く分からなかったが、2人の表情をみるとそれが良いことではない事は分かった。
大人の私はお兄様と言い合って、哀しげな表情で部屋を出ていった。
お兄様は、ベッドに寝たまま私の背中に手を伸ばすが、その手は届く事なく、ベッドへと落ちる。
「....セシリア。」
何故か、お兄様の最後の言葉だけは聞こえた。
哀しげな表情をするお兄様に、私は見ている事しかできない。
「セシリアッ!!」
お兄様の声で私の脳は覚醒する。
目が覚めると、目の前には地面と、何か掴まれている様な感触が胸にあった。
「キャッ?!」
私は驚いて声を上げる。
掴んでいる手の先をみると、そこには顔面蒼白で、私の声を聞いてビクッと手を上げるお兄様が居た。
私は、胸の事に対する羞恥心か、お兄様が目覚めた事に対する喜びの気持ちか...どちらを先に出して良いかを分からず、ただお兄様と呼ぶ。
お兄様は、何度も謝るが、その声を聞けた事に嬉しくなり、つい目頭が熱くなった。
気づいたら、涙がポトポトと地面に落ちていき染みになる。
それを拭いながら、お兄様が私の頭を撫ぜてくれた。
いつもは異性から身体に触れられるのは抵抗があるが、お兄様から触れられた時の感覚は嫌悪感とは程遠い幸福感と呼べるものだった。
ふと、お兄様の表情を見てみると少し曇りが見えた。
そんな表情が気になり、声をかけると、お兄様はいつも通りの反応を見せてくれた。
何かあったのだろうか...。
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お兄様が目覚めて2日が経った。
今までモノクロに見えていた世界が急に明るくなった気がする。
それ程、お兄様の存在は私にとって大きなものだったのだろう。
父様と母様もお兄様が目覚められて、曇っていた表情もどこか柔らかくなり、いつも通りの日常が戻ってきた...のだが。
「おーい。セシリアー?」
「...だから、嫌ですって...。」
「いや、まだ何も言ってないからね?」
「...次の言葉は分かってますから...。」
「.....じゃあ出直そう。」
以前よりも増して、お兄様が私の部屋に頻繁にくる様になった。
私に似合うドレス『自称』を持って。
正直、最初の方は素直に着ていたが、どれもこれもセンスが...悪い。
どうみても幼児向けのドレスばっかり持ってくるのだ。
それに、目覚めて2日で、私の部屋と何処かしらを行き来しているのだから、お兄様の体力には驚いてしまう。
無理をしてなければ良いが...つい心配ばかりが勝ってしまう。
「フフッ。」
だが、この日常が、騒がしいお兄様と一緒に過ごせるこの日常が過ごせるという事だけが、無性に嬉しく感じた。