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わたくし、頭の中お花畑の売国奴ではありませんの(連載版)  作者: 恵ノ島すず


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第八話

 とはいえ、今現在早急にどうにかしなくてはならない敵は、我が父ではない。

 私は、なんだか顔色を悪くしてすっかり沈黙してしまっているベルナールに、問いかける。


「ベルナール・ダルデンヌ、あなたは先ほど『ルサージュ公爵令嬢による他の度重なる嫌がらせ及び加害行為』と言ったけれど、他に何か大きな事件があったのかしら?」


「いえ……、その……、大きな事件、というほどの事は……。けれど、日々クレールが女子校舎において迫害されていた事は、事実です。友人らしき友人はおらず、嫌味や陰口はひっきりなし。学園の女子全員に影響力を持つような人物は、ルサージュ公爵令嬢を置いて他にはいないのではと……」


 ぼそぼそ、もごもご、もにょもにょ。


「声が小さくってよ! ええそうね、クレールさんは学園で浮いていたわね! けれど、その原因はダルデンヌ伯爵家がした事にこそあると考えますので、私はその事を告発させていただきますわ!!」


 ベルナールの声の小ささに痺れを切らした私は、高らかにそう述べた。

 我が家で調べた事については当然に知っている父が、私に確認する。


「リュシエンヌ、それは例の、クレール嬢の年齢に関する話かい?」

「あちゃ、バレちゃったんだ……」


「ええ、そうですわお父様。そしてクレールさん」


 父、それからそのすぐ後に続いて小さく独り言をこぼしたクレールに、私は頷いて返した。


 人の顔色って、まだ悪くできるものだったのね。

 そう感心する程に、ベルナールはもう一段顔色を悪くし小さく縮こまっている。

 何か言おうとしているのか、いや単に震えているのか。

 小さく動いているベルナールの口が前者であれば、せめて潔く自白するのであれば、まだこの男は少しマシかもしれない。

 期待を込めて、しばし見守る。


 さて、クレールの評判は、同じ学舎で学ぶ女子生徒からは『あの子はどうもおかしい』『変わっている』『少し足りないんじゃないか』『あまりに幼すぎる』と散々だ。

 彼女は授業にも全くついていけておらず、同じクラスの子たちは『不気味さすら感じる』『もはやこわい』とまで言っていた。

 イベント時や生徒会でくらいしか交流のない男子生徒間では『素直で可愛らしい』『無邪気で愛らしい』『幼気で守ってやりたくなる』なんて評価されているようだが。


 どちらも、当然である。

 全てはダルデンヌ伯爵家がしでかしたことのせいだ。


 クレールの特徴のうち特に女子生徒に嫌われ男子生徒を惹きつけるのは、彼女が異性との距離感をわかっておらず軽率に振る舞ってしまう部分である。

 邪な視線なんかにも無頓着で、照れることなく恥じることなく異性の輪に入っていってしまう。

 愛情表現もストレートで、愛でられれば子犬のように全身で喜びを表現する。

 スキンシップも多く、とにかく無邪気。


 しかしこの特徴すらも、ダルデンヌ伯爵家のしでかしを知れば、『まあ仕方がないか』と思えてしまうのだ。

 そりゃあ無邪気だろう。幼気だろう。当たり前だ。


 事実彼女は幼いのだから。


 それこそがダルデンヌ伯爵家のしでかした事であり、クレールが女子生徒間で浮いてしまった原因である。


 などと考えながら、しばし待ってみたものの。

 ベルナールは、何も言わなかった。


 見れば、学園講師でありクレールの異母姉であるルフィナ先生が、彼を非難がましい目で睨んでいる。

 彼女は、その両方の立場からの情報を合わせ、クレールの年齢の秘密に気づいていた。

 そして、ベルナールの顔色の悪さで彼がその秘密を作り上げたうちの一人であると確信し、今の様で素直に罪を認め謝罪する事すらしないのだとわかったのだろう。

 ここまでルフィナ先生は、一貫してこちらが戸惑うくらいに潔かった。それはきっとこちらの心象を良くするためで、当事者でない彼女がなぜそんな事をしたかといえば、弟妹への愛でしかない。

 それを考えれば、睨むだけで済ませているというのは、あまりに優しいと言えよう。


 ルフィナ先生とは比べ物にならない程情けない男ベルナールは見限り、やはり私から告げよう。


「我が家は、クレールさんとその母君について調べましたわ。そしてその結果、ダルデンヌ伯爵家が国及び学園に対し虚偽の申告を行い、王家の方々を含む多数の人々を欺いた事実を突き止めましたの」


 私の言葉に合わせて、父も頷いた。

 そこで一呼吸置いてから、私は続ける。


「この件に関しては、まず、パーヴェル皇子から証言をいただきたく存じます。パーヴェル皇子殿下、あなたの異母妹クレールさんは、今のご年齢はおいくつでいらっしゃるのですか?」


「確か私とちょうど一〇違うのだから、一二、ではなかったか?」


 ぎょっ。

 皇子の言葉に、幾人かが目を見開いた。


「惜しいですわね。クレールさんはおよそ半年前に誕生日を迎え、一三歳になりましたわ」


 ぎょぎょっ。

 私の返答に対し、驚きは更に大きいようだ。


「ああ、そうだったか」なんてパーヴェル皇子は頷いているが、次の私の言葉を聞けば、彼のこの澄ました顔も驚愕に歪むのだろうか。


「クレールさんは、帝国にて一三年前に生まれました。ところが、この国においてクレールさんは、現在一七歳ということになっているのです」


「……それは、さすがに、無理があるのでは?」


 残念ながら少しの戸惑いを見せただけでそう訊いてきたパーヴェル皇子に、私はさらりと返す。


「そうですわね。その無理のせいで、クレールさんは学園で浮くことになりました。一七歳の割には幼すぎると、周囲を戸惑わせあるいは呆れさせましたので」

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