2—1
とある港町の街道を少し外れた場所で、3人の少女が追われている。
背後から追って来るのはライフル等を武装した集団で、止まれと何度も叫んでいた。
「あーもーしつこいったらありゃしない!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……こんな走ってるの生まれて初めてだよー」
「あのヒトたち、全然諦めてくれないね」
それぞれ嘆きながら後ろを振り返っては一定の距離を保ってるのを確認する。
およそ数十分、ランニングではなく全速力に近い速度で走っているのに一向に逃げきれない。
不思議と疲れないのが救いだった。
「———がっ!?」
「フブキちゃん!?」
開けた直線に出た所で吹雪の右足を銃弾が当たり、その場に倒れた。
激痛に悶えながら吹雪は動けないと分かった他の2人は互いを見合って、追手との距離を見た。
「———まもり! ふぶちゃん抱えて逃げなさい!! ここはアタシが足止めするから!!」
両手を広げて、羽海が追手の方に一歩出る。すると、まもりはその横に立ち
「私にはこの盾があります!だからウミ先輩がフブキちゃんを——」
「そう言う事じゃない!狙いはアタシなんだから、アンタの方が逃げるのよ!時間がないから急ぎなさいッッ!!」
まもりは下唇を強く噛み締めながらも、すぐに吹雪を抱えて横の茂みの方へ走り出した。
「ようやく観念したか、他の二人もすぐに——」
「狙いはアタシなんでしょ?アイツらは関係ないんじゃない」
「ふ、そうはいかない……目ぼしい女は全員連れて来いとの命令だ」
「最低」
「変な事はするなよ? お前はただ両手を挙げてろ、痛い思いをしたくなかったらな」
羽海は武装集団に囲まれ銃口を突きつけられ、何も出来そうになかった。
何人かが二人を追って行ったが、捕まらない事だけを望んだ。
「———ごめんなさい、足手纏いになってしまって……」
「ううん、気にしないで……悪いのはあいつらだから」
吹雪をおぶりながら、まもりは木に隠れながら進む。林の中、武装した男たちが音を立てているから、大体の位置を把握しながら進み続けて、小屋に辿り着いた。
扉をノックし、すみませーんと声をかけてみる。ドアに鍵がかかっており、無人ならどうしようと考えた所でおじさんが銃口を向けながらドアを開けた。
一瞬怯んだが、なんとか追手から逃げてる事と助けを求めると、おじさんは無言で吹雪の足を見ると銃を下ろし入るよう促した。
まもりがお礼の言葉を言おうとすると、おじさんは人差し指を立て口に当てるとドアの向こうに聞き耳を立てる。
「お前ら、そこの座布団の下から床下に入れ」
小声で言うと無言で急かしてくる。まもりは言われたとおりに座布団を捲るが、ただの床にしか見えなかった。
「二回叩いてみろ」
まもりが右手でタンタンと叩くと取っ手が現れ持ち上げて、自分の片足を突っ込んで深さを確認してから中に入り、続いて吹雪を抱えてしゃがんでから閉めた。
その直後に小屋のドアが乱暴に叩かれる音が響いてきた。
「なんのようだ」
「ここに女が逃げ込んで来なかったか?」
「女? 誰も来てねえぞ」
「一応確認させて貰うぞ」
「おいおい、おんぼろなんだから大勢で入るんじゃねえ……床が抜けるじゃねえか」
複数人の足音が響いて、まもりと吹雪は音を立てないよう必死だった。
それから男たちが出て行き静かになったところで、おじさんが出て来いとの合図でまもりは恐る恐る出た。
「……ありがとうございます、おじさん」
「その娘の足を見せてみろ」
おじさんは吹雪の足を見ると険しい表情になった。
「………こりゃ、毒の弾丸を受けたな」
「毒、ですか……?」
「連中が使用している特殊なヤツだ……放置すると足が使い物にならなくなる」
「え!?」
まもりは驚愕し吹雪の足を見る。撃たれた跡から紫色に変色していっているのがわかる。
「———どうにか、ならないんですか!?解毒とか……」
「……あるとすりゃ、奴らの拠点……港町にある丘の上に屋敷があってな、そこの研究室だろうな」
「屋敷の、研究室……」
「俺の言う事を全部信じるのか?」
「……え、嘘なんですか?!」
するとおじさんはニヤリと笑うと首を横に振った。単純に初対面の人間を信用し過ぎるなと、忠告してくれたのだ。
「世の中平気で嘘を吐く連中もいるって事だ、嬢ちゃんは騙されやすそうだったからな」
「これでも、ヒトを見る目はあると思ってます」
「まあいい、とにかく武装した奴らがウヨウヨいる危険地帯だ……中に入るだけでも無理に等しい」
「それでも———仲間を助ける為です、行きます……その間、フブキちゃんをよろしくお願いします」
そう告げると、まもりは立ち上がり剣と盾を持って小屋を出る。周辺に人影はなく、駆け足で港町へ向かうのだった———