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———ナちゃん
——ーナちゃん
「………んへ?」
心地良い風と自分を呼ぶ声で目覚めると
そこは野原だった
上体を起こしてあくびとノビをする
周囲を見渡すも、誰の姿も見当たらない
「ここどこ? イズナちゃんの声がしたような…」
「ここだよリーナちゃん」
莉衣奈が自分の腰の辺りに視線を落とすと
白っぽい狐が莉衣奈を見上げていた
両手でそっと抱き抱える
「可愛いー狐って初めて見たー」
莉衣奈は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべる
対する狐はジト目で深いため息を吐いた
「自分の姿がおかしいと思ってたんだけど、リーナちゃんから見てあたしゃ狐なのかい」
「その声……イズナちゃん、なの?」
「そーだよ、やっと気づいてくれたかい」
莉衣奈はイズナを両腕で抱えながら話を聞いた。
目が覚めた時にはこの姿だったこと
周辺を軽く探索してみたが森があることしか分からず
莉衣奈が目覚めるまで待つことにしたと
「私たち、事務所に居たと思うんだけど………」
「うん、自分もそこまでしか記憶にない」
「ドッキリ企画とかでここに連れてこられた、とか」
「だとしたら、あたしのこの姿は何なんだい」
「だよねー」
「………ところで、これはどこに向かっているんだい?」
「え?」
そこで莉衣奈は足を止める
辺りをキョロキョロして
自分が歩いていた事に気がついた
「ごめん無意識だった」
「目的地があるわけじゃないからイイんだけど、暗くなる前に人がいる所に行きたいね」
それから数時間歩き続けた二人は
木造の建物が並ぶ村についた
日が傾き夕刻へと近づいてきている
人の気配が全くしないのを
疑問に思いつつも
村の中へと足を踏み入れた
コンビニやスーパー等のお店がなく
街灯のようなものも見当たらず
もしかしたら
ここにはもう誰も住んでいないのだろうかと
二人は思い始めた
莉衣奈はずっと抱き抱えたままのイズナを
ぎゅっと強く抱きしめた
「リーナちゃん、そこの窓見て!」
ある家の前を通った所でイズナが
少し大きな声を出す
カーテンの閉まっていない窓から
中を覗いてみると
テーブルの上に、朝食と思われる
パンや目玉焼き等が並んでいた
それどころか
生活感が他の家もまだあった
「どういうこと……? 人だけが居ない」
莉衣奈がそう呟くと同時に
背後から唸るような声が聞こえた
犬が吠える前のような
そっと振り返ってみると
そこには黒くて大型犬のようなサイズの
オオカミのような獣が三頭
牙を剥き出しにして睨みつけていた
「――――ッッ」
叫びそうになるのを必死に抑えながらゆっくりと後ずさる
背中に何かが当たる、どこかの家のドアだった
莉衣奈は手探りでドアノブを探す
みつけるとすぐに開けて中に入って鍵をかけた
直後に獣がドアに体当たりをしてきてダが軋む音が響いた
「どうしようどうしようどうしよう」
「とりあえず自分を下ろしてくれーちょっと苦しいいい」
「ご、ごめん」
「まずはここに使えるモノが無いか、探してみよう」
イズナはトコトコと台所周りや隣の部屋に移動する
莉衣奈はそっと窓の外を除き見る、先程より数が増えているのが見えた
音を立てないようにその場を離れて、気が引けるが何かあるか探すことにした
「リーナちゃんこっち来とくれ」
隣の部屋からイズナの呼ぶ声が聞こえ
すぐに向かう
するとそこにはRPGの勇者が使っていそうな
大きめの剣があった
莉衣奈はそっと手を伸ばし
恐る恐る両手で持ち上げてみる
重量感はあったが、何とか持てた
「どうだい?」
「うん、何となく手に馴染むような感じ……」
言いながら右手で持って軽く素振りしてみる
生まれてこのかた剣どころか竹刀だって
握った事もないのに、不思議な感じだった
日もすっかり落ち家の中は真っ暗で
唯一の光は窓から差し込む月明かりだけ
窓から見える範囲だけでも
やはり灯りをつけてる家はなく
この家の周囲を囲むように
先ほどの獣が十頭以上が居た
「………かなりマズイかも、囲まれてる」
「でも突撃してくるわけではないんだね、静かなものだ……だったら今夜はここで休ませてもらおう」
「うん、そう、だね」
二人は適当なスペースを見つけて横になった
「………」
莉衣奈はじっとイズナを見つめる
狐の姿になっていても
幼馴染みで後輩の彼女が居てくれるのは
こんな訳の分からない状況でも
ありがたかった
おやすみ