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2—6 チームAその2


 セキュリティ万全とはいえ、それは人間に対してだけであって猫には関係ない。

 小さな隙間を見つけてはスイスイと進んでいく。ダクトだろうとどこだろうと。


「僕は魔物が専門でねぇ……君のような喋る猫は大歓迎なんだよ、くっくっくっく」


「………」


「魔物用の毒薬を人間に使うとか馬鹿だよねぇ……まあその馬鹿のおかげで好き勝手出来てるわけだけどもさ」


「…………」


「たまに外から忍び込んでくる魔物が居るんだよ、大型は無理でも小さいのは通れる穴がね……そこに罠を仕掛けたらアラ簡単ってね……くっくっくっく」


「…………」


「いつまでだんまりを続けるつもりだい? さっきのように喋っておくれよ、久々の話し相手なんだからさ、くっくっくっく」


 ネコネが罠だと気付いた時には檻の中だった。ヒトの気配は無かった、それなのにこの男はすぐ傍まで来ていたのだ。

 建物の構造はよくわからない、ただひたすら下を目指しただけ。


 この男はネコネを魔物だと思っているが、人間である。喋る猫がそう思わせているのだろうが。


 カードキーを探して忍び込んだらこの有様。

 ここがどの階かも分からない、たぶん3階。

 そして、変な薬品とかの臭いでおそらくここが研究室。


「喋らないんじゃ仕方が無い、実験台になってもらおうかね、くっくっくっくっく」


 男は戸棚からビンを取り出すと、ネコネの前にちらつかせた。

 そんなことされても、何のビンだか見当も付かないので意味無いとネコネは思う。


「僕は優しいからねえ、痛い思いはさせないんだ……だから身体の感覚を無くしてあげるんだ、くっくっくっく」


「魔物用の毒を人間に使うとどーなるの?」


 男の動きが止まる。ネコネがようやく言葉発した事に喜びを感じているのかはわからないが、男はニタリと笑みを浮かべた。


「じわじわと身体中を巡ってゆーっくりと苦しめていくんだ、初めは激痛……次第に痛みを感じなくなっていき、動かせなくなるのさ……声も出せない、魔物なら速攻だがヒトに使うと残酷でね……くっくっく」


「……間違って使用した場合はどーするの?」


「君には関係の無い事さ———」


「ボクが人間だって言ったら?」


「………何を言い出すのかと思えば、僕の罠に掛かった時点で君は魔物だよ……誘導する効果があるからね、君は無意識だったんだろうけど」


 男は小瓶の蓋を回す。

 液体ではなく錠剤のようだ。

 それを一粒ネコネの前に置いた。


「君は言葉が話せる。これが飲んではいけないという事も理解している。しかし君はそれを飲む、魔物が抗えないほどの好物の匂いがわずかに発しているからね……魔物でないならば、耐えられるだろう? くっくっくっく」


 無意識につばを飲む。

 ネコネは出来る限り離れようと狭い折の端に寄る。二歩も下がれなかった。


 自分は魔物? 違う、猫に変身できる人間だ。


「…………」


「意外に我慢できるものだね、もう少し強力なものを用意するとしよう」


「ボクは人間だよ、魔物用のなんて意味無いさ」


「それはこれから分かる事だね」




「ファイヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



「な!?」


 叫び声と共に火の塊が窓の外から放たれた。

 窓ガラスが割れ一瞬のうちに部屋中が火に包まれると、スプリンクラーが作動し部屋は霧に包まれる。

 マホが突撃してきたことをネコネは理解した。

 そして影がネコネの目の前に来ると檻の柵が斬られ


「無事ですかネコネ先輩?!」


「ふーたん!」


「………なんなんだアンタたちは……僕の邪魔をしにきたのか!!」


「状況はまったく分かりませんけど、檻の中のネコネ先輩が見えたもので……」


 まもりが盾を構えながらネコネたちと男の間に立つ。


「この部屋、なんで暗いの? 電気点けてくんないイガちゃん」


 窓際に降り立ったマホが部屋を見渡す。窓際には外の明かりはあるが奥の方は暗くて見づらい。

 風香は壁に向かって手を伸ばすが触れず思ったより奥行きがあることに驚いた。

 何歩か進むと壁に手が当たり、電気のスイッチを探す。するとパッと明りが点いた。

 男がリモコンで点けたようだ。

 バスケットボールのコートくらいの広さに驚く。


「………その魔物のお仲間かい?」


「先輩を魔物って呼ばないでください!」




「カギちゃん、そっちに解毒薬あった?」


「ラベル見ただけじゃわからないですね……」


「勝手に触らないでもらえるかな?!」


「弾丸に込められてた毒の解毒薬ないっスかねーおじさん?」


「はあ? それなら左端の奥に——って答えるか!?」


「こっちかーありがとーおじさん!!」


 風香と男が睨み合っていると。

 カチャカチャと室内に響く瓶の音、マホとまもりの二人は勝手に棚の瓶を調べ始めていた。

 男、白衣を着た男(薄暗い中、逆光もありネコネ側からは白衣がよく見えなかった)は、先程の余裕のニヤニヤ顔はどこへやら、マホの言動に困惑していた。


 久々の話し相手、という男の言葉を思い出したネコネは、声が裏返りながら叫ぶ男にある意味納得する。


 初対面の人間相手に冷静では居られないのだろう。


 危険な目にあわされそうになったが、まだ未遂だし……解毒薬さえ手に入れば問題ない。


 ヒトの姿に戻りながらそう思った矢先


「あー!! 実験体が逃げちまったじゃないかあああああ!!!!」


 男は怒りの形相でネコネたちを睨む。

 そして、壺を取り出すと床に叩きつけて割った。


「ゆるさんぞキサマらああぁあぁあああ!!」


 割れた壺から煙が出て何かを形作っていく。

 それは緑色で、段々と煙が無くなっていくと、根っこのような足か触手なのか、窓の外にまで出て———


「なにこれ」


 ネコネが呟く、眼前に現れたのは動く木、恐らく魔物。


「くっくっくっ! お前らには実験台になってもらうぞ」


 魔物の根っこが部屋中を這い、逃げ場を塞がれてしまった。


「ふっふっふっ! この私に任せなさい」


 マホは不敵に笑った。


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