母の優しい忠告
「渚、付き合っている人がいたのね。お母さん、知らなかったわ」
ため息交じりに母が話しかけてくる。
「言うタイミングを逃しちゃって」
「彼、優しそう人ね」
「ええそうよ」
「彼には余命のことを言っているの?」
「…………」
母は私を少しずつ追い詰めるように淡々と質問をした。
私はその張り詰めた空気に何とか耐えながら端的に言葉を返す。しかし、最後の質問は何と答えたら良いか分からず、黙り込んでしまった。それは無言で違うと答えているのと同じであった。
「別に付き合ったら駄目と言っているわけではないのよ。でも、黙って付き合うのは良くないわ。それは後々……お互い辛くなるから」
母は怒ることはせず、ただ心配して忠告をしてくれた。勿論頭の中では分かっている。それは最初の時から分かっていたものの、つい魔が差して、これが最後のチャンスだと思って言わなければいけないことを隠したまま彼と付き合ってしまった。そしてあの無邪気に喜んでくれた彼を見て、それを言う間もないまま付き合い続けた。一応まずは数ヶ月間だけと言っていたものの、もう1季はとっくの昔に過ぎていた。
「彼には正直に話した方が良いと思う。それで別れたとしても、それはそれでそういう人だったんだと諦めた方が良いわ。お互いに最悪なケースになる可能性を避けるべきだと思うの」
母はとても強い口調でそのように追い打ちをかけた。しかし、その後は私を少し震える両手で優しく抱きしめてくれた。そこから少しの冷たさと少しの温かさが伝わってくる。母の顔を見たら涙目になっているため、心の底からは心配していることは嫌でも分かった――私にこれ以上にない辛い目に合って欲しくないと。
そろそろ本当のことを彼に話すべきなのだと、私はようやくここで決意した。