一生に一度かもしれない賭け
「櫻井さん、私と……お試しでお付き合いなんて……する気ないです?」
「え?」
「あの時は自信がなくて断りましたけど、さっきまた想いを伝えてもらって、付き合いたいなあなんて……」
さっき言ったことは本当のことである。つい言葉がつかえて誘惑的なお誘いみたいになってしまったけど……今はその方が効果的かもしれない。ただ恋愛としての好きという感情はないため、そこは隠してお付き合いを申し込む。勿論余命のことも隠して。本来ならこんなことをするべきではないとは分かっているが、やはり時間がないため思いっきり勝負に出た。
「ほ、本当ですか!! 凄く嬉しいです!! 是非お願いします!!」
彼は何とも嬉しそうな顔で承諾をした。まるで子犬のような無邪気さである。こんな彼を初めて見たため驚いてしまった。何とも純粋な彼に昔の告白の時とは違う罪悪感を感じるものの、これで恋を始められると思うと喜びの方が強かった。
◆◆◆◆◆
「櫻井さん、これからは康太さんと呼んでも良いですか?」
「勿論です。僕も渚さんと呼ばせてください」
「よろしくお願いしますね、康太さん」
「よろしくお願いします。渚さん」
本当に恋愛なんてどうしたら良いのかは分からないが、このままの呼び方では関係が前には進めないような気がして呼び方を変えるように提案をしてみた。やはり呼び方を変えると距離が近づいた気がする。今まで男子を下の名前で呼んだことはないため、大変新鮮であった。彼は新しい呼び方に緊張しているのか、また頬を赤く染めている。何とも可愛らしい人だなと改めて思った。
こんなピュアな人と騙して付き合って良いのかなと思いながら、やはり恋愛を楽しみたいという思いが強く働いて、もやもやっとしたものを感じながらも、やはり楽しみという気持ちをここでも抑えることは出来なかった。