(Ifルート) 奇跡の先
ここのお話は、万が一渚が奇跡的に助かっていたらというパラレル話となります。
そのため、こちらをご覧になるかどうかは、読者様にお任せします。
3000文字ほどありますのでご注意ください。
※θ線は作者が勝手に作った設定です。
「……眩しい」
何だか光を感じる。ここは一体何処だろうと目を開けるとそれはずっと今まで見てきた病室だった。もしかして私はまだもう少し生きられたのだろうか。てっきりあの時が亡くなるタイミングだと思っていたのに。
体を起こすと、動作は遅いものの痛みを全く感じることなく起きることが出来た。どうやら今はピークで薬が効いているらしい。と言っても暫くしたら切れて痛くなり始めるのだろうなと思うとかなり憂鬱だ。どうせ亡くなるならあの時綺麗に亡くなりたかった––どうせあと少ししか生きられないのに。
「渚、目を覚ましたのね」
母が起きたのに気づき、私の方に駆け寄ってきた。こんなに喜んでいる母を見たことがないと思うほどの笑みを浮かべている。ほんの少しでも長く生きて欲しいという表れなのだろうか。あと何日どころか、何時間何分生きられるのかも分からないというのに。どうして母がそこまで喜んでいるのか私には全く分からなかった。
母は急いでナースコールを押して看護師を呼ぶ。ほどなくして駆けつけた看護師が私の体調を確認する。確認をし終えた後、看護師は一旦部屋から出て医師を呼んできた。
「立花さん、貴女は丸3日寝込んでおりましたが全く問題なさそうですね」
「丸3日も寝ていたのですか?」
そんなに長い間眠っていたとは驚いた。暫くすると痛み止めが切れて体の痛さで目を覚ますので、どんなに寝ていても5・6時間ぐらいだと思っていた。どうしてそんなに眠ることが出来たのか不思議でたまらない。
「実はあなたが倒れた時少し前に、θ線というのが見つかりました」
θ線というものがここ最近で発見されていたとは驚きである。αやγ線などはよく聞くけど、それに続けて名付けられたのかなと推測した。なんとも物騒な名前だ。それにしてもθなんて言葉は久しぶりに聞いた。そんなの高校の数学でしか使ったことない。sinθとかcosθとか懐かしいな。そんなことを思いながら聞いていると今度は耳を疑いたくなることを医師が言ったのだ。
「これは見つかったばかりで何に効くかは分かっていなかったのですが、もし立花さんが助かるとしたらこのθ線を当ててみるしかないと、ご両親の許可のもとθ線を用いて緊急治療を行いました」
自分の状況を見るとどうなったかは分かるが、それでも医師からのハッキリとした説明が欲しくてその言葉を待つ。
「θ線を立花さんの体に当てたところウイルスが死滅させることが出来まして、立花さんの病はどうやら治ったようです」
待っていた言葉が来て嬉しく思うものの、信じられないという気持ちの方が勝って、ここは本当に現実かとさえ疑ってしまう。でも、夢ならあまりにもリアル過ぎるし、それにベッドの上にいるという感触があるのは現実そのものを表していた。まさかこんな奇跡が起こったなんて、やはり改めて考えても信じられない。私はどのように喜べば良いのかは分からなかったが、ただ言えるのはこの奇跡に感謝しなければならないということだけだった。
本当に病が治っているのか確かめるために、立って歩いてみることにする。すると少し時間は掛かるものの、全く痛みを感じることもなく、人の力も物の力も借りることなく1人で立つことが出来た。その姿を見て母は涙を浮かべて喜んでいた。まるでハイジのクララが立った的な喜び方だ。まあ、ハイジなんて見たことないけど、たぶんそんな感じなのかなと勝手に推測する。
そんな母よりも実は自分の方が喜んでいる。今まで薬が切れると少し動くだけで激痛が走り、ここ最近はまともに歩くどころか、体を起こすこともままならなかった。こんな当たり前を取り戻すことが出来たことには本当に感動している。
医師や看護師も痛みを全く感じない私を見て問題なしと判断し、暫くは体力を戻すためにリハビリをするように言われた。
その日の夜は父が私のところに駆け付けてくれ、側まで来るとぎゅっと強く抱き締めてくれた。今までだったら痛くて耐えられるものではなかっただろう。しかし、今はそのことが全く気にならないし、それに父からの温もりが伝わってきて、体だけでなく心まで温かくなる。こんなに温かい気持ちになれたのは久しぶりで大変心地良かった。それと共に改めて嬉しさのあまり涙が頬を伝った。
次の日は彼が駆けつけて来てくれて彼が私の元気な姿を見ると大変喜んで泣いていた。彼が泣いている姿なんて見たことなくて驚いたものの、そこまで喜んでくれて心の底から嬉しい。
「渚さんはこれからリハビリなのですか?」
「はい、今日からリハビリです」
私はこれから体を動かせると思うと、不安よりも期待の方が大きい。きっと大変だろうけどこれを乗り越えたら素敵な人生が開けると思うと楽しみだ。
「僕も付き添っても良いですか?」
「嬉しい。是非おねがいします」
今日は母がどうしても抜けられない用事があって、リハビリに行くのもするのも1人で行う予定だったので、彼がいてくれると大変心強かった。彼が傍に付き添ってくれたお陰なのか、リハビリは順調に進み、かなり感覚を取り戻せたような気がした。
それから私は今までしか鈍っていた体を元に戻すためにリハビリの日々が始まった。リハビリはやはりきつかったけど、今までのことを思えばそこまで苦ではなかった。
こうして私は順調にリハビリを熟し、1ヶ月後には今までのように普通の動作を行うことが出来たため、無事病院を退院し家に戻ることが出来た。家に帰るとやはり今までの日常に戻ったのだと改めて実感し、これから私が望んでいた人生を送ることが出来るかもしれないと希望が見えてきた。
それから日々が経ち10月。私は1年ぶりに大学に入り、講義を受けることになる。今まで休学扱いにしたことでわずかに希望を残していたが、本当にその希望が残っていたとは驚きである。改めて退学ではなく、休学にしていて良かったと心の底から思った。正直1年のブランクがあるから不安だけど、今までのことに比べたらそんなの微々たるものでしかない。これから自分の人生を決めていくと思う興奮しかなかった。これからの大学生活が楽しみだ。
周りを見ると仲良くしていた子は何処にもいなかった。どうやら留年せずに無事に進級したようだ。仲が良い子がいないのは少し寂しいけど、彼女達が無事に進級出来たことは嬉しいことだ。人間関係という面でも少し不安があるけど何とか頑張ろうと決めた。それに私には強い味方がいる。
「渚さん、おはようございます」
「おはようございます、康太さん」
私の最大の理解者が声を掛けてくれた。彼とは同じ大学で同じ学部であるため、今日から大学では同級生にもなる。これからは恋愛だけでなく、勉強も同じだ。
「康太さん、これからはプライベートだけでなく、大学でもよろしくお願いします」
「渚さん、こちらこそよろしくお願いします。一緒に頑張りましょうね」
私の新たな人生はここから始まるのだと思うと自然と笑顔になり、元気と勇気が湧いてきた。
彼と一緒なら間違いなく幸せな人生を送れると確信した。
そしていつかは彼と――なんて思ってしまっている自分がいる。
Ifルートまでご覧いただきありがとうございました。




