私は幸せだよ
「渚、何か欲しいものや、して欲しいことはないの?」
「私、お母さんの料理が食べたい」
母は私を少しでも楽しませようと質問してくる。しかし、今の私は特別に欲しいものはなく、ただ病院のご飯は美味しくないので、美味しい母の料理を食べたいと思っていた。現在も病院に入退しているのは、使用している痛み止めがかなりきついものであり、処方などで出せるものではないからだ。それに薬の効果が切れたら全く動けなくなるため、その対応をすぐ出来るようにでもある。別にその薬だと食べてはいけない食べ物もないため、食事を変えても影響はないはずだ。それなら美味しい母の料理を食べたいと思うのは自然なことだと思う。
「分かったわ。料理持ってくるわね。何が食べたいの?」
「オムライスが食べたいな」
「渚は本当にオムライスが好きね」
母はこんな状況でもいつものように答える私を見て安心したのか、屈託のない笑顔を浮かべていた。
◆◆◆◆◆
入院中は基本母と話をしていたり、少し外に出て散歩もしていた。と言っても本当に病院の周辺までのほんの短い間だけ。自由に動けるのは病院内ぐらいだから仕方がない。それでも退屈することなく有意義な時間を過ごせる。
父も早く仕事を出来るだけ終わらせて私に会いに来てくれた。
私はいつも2人にこのように言っていた。
「ここまで大事に育ててくれてありがとう」
「私は幸せだよ」
この2つは本当に本心。正直昔は両親を恨んだことさえあった――どうして私を健康に産んでくれなかったのと。そんなの今では全く思わないし、いつも我儘を聞いてくれた両親には感謝しかない。こんなに大切にしてくれる両親の元に生まれて幸せだった。
「大事な娘だもの。当たり前でしょ」
「渚が幸せならそれが1番だよ」
両親はいつもそのような優しい言葉で私を抱き寄せてくれた。その時に更に幸せを感じるのだった。
また、彼は試験がすぐ終わるとここまで駆けつけてくれていた。試験時間は日によって違うため、早い時は大変嬉しかったけど、遅い時は少しだけ悲しかった。彼が来た時は母は席を外して2人にしてくれる。その2人の時間は何よりも楽しい時間だった。彼と話しているともう少しで亡くなるなんて嘘ではないかと思うほどの高いテンションになってしまうのだ。そんなわけで彼と過ごしている間が1番短い時間に感じていた。
そんな彼にはいつも話が盛り上がり過ぎて、感謝を伝えることはなかった。というか出来なかった。何だか彼にその言葉を伝えたら、そのまま亡くなりそうで伝えるのは今じゃないと勝手に脳が命令をしていた。




