最高の日、私の誕生日
彼の誕生日から1ヶ月程過ぎてもう7月。私達はこの町にある海に散策をしていた。
「渚さん、お誕生日おめでとうございます」
そう……医師の言う通りなら、この日を迎えることはなかったのに私はまだ動けるぐらいに生きていた。
と、言っても少しずつ体が弱りもう遠出は出来ないし、肌も存外に顕することが出来ず、初夏だというのに長袖とロングスカート、そして大きいツバのついた帽子と完全防備をしている。
折角なら、ノースリーブのワンピースにサンダルでも履くなどの可愛い服装で彼と会いたかったけど、こればかりは仕方がない。
それ以上に、来ることが無いと思っていたこの日を迎えることが出来たことを、私は心の底から嬉しかった。最近いつ倒れるのだろうと毎日びくびくしながら生きていたから、今回の安心感は半端ない。
「僕の誕生日の時は渚さんが手料理してくれましたし、前僕の料理をまた食べたいと言っていたので、今回も作ってきましたよ。とはいってもぜんぜん大したものではありませんが……」
そういって取り出したのは、お弁当箱。その蓋を開けると、その中には野菜やツナが挟まれたサンドウィッチと小さなオムライス。食が細くなってしまった私でも食べやすいようにと手軽に食べやすいサンドウィッチと私の好物であるオムライスを楽しめるように工夫して作ってくれたことがよく分かるお弁当だった。
私は彼と一緒にゆっくりとサンドウィッチとオムライスを食べていく。別に合わせなくても良いのに、彼はわざわざ私のペースに合わせて食べてくれた。そんなところも彼の優しいところだと思う。こんなに美味しくて思いやりのあるお弁当をもっと食べることが出来ないのが本当に残念だった。でも、こんな素敵な思い出を作ってくれて幸せだと同時に感じる。
「渚さん、これ僕からのささやかなプレゼントです」
そう言って渡してくれたのはブレスレット。今回は私の誕生石であるルビーが付いているものだった。獅子座のネックレスと言い、今回も洒落た物をプレゼントしてくれたことに嬉しく感じた。早速左腕にブレスレットを付けてみる。すると、ブレスレット自体は凄く綺麗なのに、長袖の上からなので少し違和感がある。
それでもネックレスにブレスレットと彼からくれた2つのアクセサリーを彼の前で同時に付けられていることには嬉しくて、そんなことどうでも良かった。
こうして海や町並みを散策して彼とのデートは終わった。家に帰ると親が盛大に私のことを祝ってくれて、今日1日はとても最高の日になった。