可愛かったですよ
「あともう1つ用意してあるものがあるのですが、後で食べますか? それとも今食べます? あの……勿論康太さんがこれ以上食べられないなら食べなくても全然……」
「そんなの食べるに決まっているじゃないですか。それも今食べたいです!!」
取り敢えず食べたくないと言われなくて良かったと一安心する。正直お腹は現在満たしているだろうから、すぐに食べるのは大変かなと思って聞いたけど、即答されたので私は立ち上がって冷蔵庫を開け、用意していたものを彼の元へと運んだ。
「誕生日と言えばやはりケーキかなと思いまして、康太さんはチョコレートが好きと言っていたので、チョコレートケーキにしたのですが……」
「凄く丁寧に作られていますね。美味しそうです」
今まで料理はしてきたが、お菓子作りはしたことがなかったので、不安で仕方がなかったけど、まずは見た目に関してはクリアしたようで安堵する。
私はロウソクを取り出して、1本1本丁寧に時計回りに挿していった。19本は数的にも多いし、挿しにくいので最初は1と9の形をしたロウソクでも買おうかなと思ったものの、やはりここは本格的にやりたいと思って普通のロウソクを19本買った。なんとか無事挿し終わり見事に18本のロウソクが円型に並んでいる。残りの1本にライターで火を付けて、その火を残りの18本のロウソクに急いで付けた。
「改めましてお誕生日おめでとうございます。さぁ火を消してください」
「何だかこのままだと勿体ないですね。一緒に写真取りましょうか」
彼はスマホを取り出し、私の肩を抱いて自撮りをした。私は咄嗟の行動に笑顔を向けられないまま写真を取られてしまう。彼に文句を言い、もう1回綺麗に取ってとお願いして今度は2人笑顔で写真を取ることが出来た。私は満足して彼のスマホを眺めていると、彼が声を上げる。
「あ、ロウソクが溶け始めている」
「え、嘘……本当だ。早く消さなきゃ!!」
「名残り惜しいですけど、火を消しますね」
彼はたった1回だけで19本のロウソクの火を一気に吹き消した。私なら3・4回ぐらいしないと絶対に無理だと彼の肺活量に感心していた。
その後のケーキはというと、まず溶けたロウソクの塊を取り除くのが大変だったが、ケーキはお店のとまではいかないけれど普通に仕上がっており、彼も美味しいと喜んでくれた。
「あとで最初に取った写真消しておいてくださいね」
「え〜。折角いつもとは違う渚さんが取れたのに」
「恥ずかしいので」
「あれはあれでとても可愛かったですよ」
「可愛かっ……た………………。そんなのさらっと言わないでくださいよ」
「事実ですから」
そんなことを言われたら何も反論出来ないじゃないと、彼に言いくるめられ、結局その写真が消されることはなかった。少し悔しいと思いながらも、彼と一緒にケーキを食べた。
ケーキを食べ終わった後は、いつも通り彼と会話を楽しんでいたが、いつもと違ったのは先程食べたケーキよりも甘いファーストキスをしたこと。今まで感じたことのない感触で、その温もりと感覚は暫くの間続いていた。そして、その時に感じたときめきはその後も長い時間続くことになった。
こうして無事に彼の誕生日パーティーが終わったのだった。