彼の誕生日
時は過ぎて6月――。
宣言された通りだともうそろそろここに居なくてもおかしくない時期であるが、全く体が弱ることもなく、元気に過ごしている。
今回は私の家に彼が初めて上がり、いつもように楽しく会話をしていた。両親には事情を話して空けてもらっている。本来なら外でも遊びに行こうかなとも思っていたものの、梅雨の時期であるためここ最近雨が降り続けており、見通しが立たなかったから。今日は幸い雨ではなく、久しぶりの晴れ。そうと言っても元々予定していたことなので、そのまま予定通り、彼に来てもらった。
「康太さん、お誕生日おめでとうございます!!」
今日は彼の誕生日であるため、目一杯お祝いしようと家のあらゆるところを風船やガーランドを飾り付けて豪華にしていた。こんなに張り切ったのは、中学生の時以来な気がする。高校時代は体力もついていたため、部活にも入っていており、友人と派手に遊ぶこともなかった。
彼はこの飾り付けを見て、嬉しそうに微笑んでくれる。
「この前、康太さんが私の料理食べてみたいと仰っていたので、今日は頑張って料理しました」
出したのは、サラダとご飯、そして海老フライ。
最初は得意なパスタとかハンバーグにしようかなとも思ったけど、やっぱり彼の好物を食べてもらいたいと、あまり作ったことのない海老フライにしたのだ。海老フライは料理上手の母に教えてもらって今日の為に3日かけて練習していた。今回の尻尾はまるでハートのように綺麗になっているし、衣も良い感じに出来ている気がする。あとは彼が喜んでくれるかどうか……。
「これ全て渚さんが作ってくれたのですか? ありがとうございます。では早速いただきますね」
彼は行儀よく手を合わせてから箸を取り、手をつけ始めた。まず早速メインである海老フライから口を付ける。
「とても海老はぷりぷりしていますし、衣サクサクして本当に美味しいです!!」
まるでお店に出された海老フライを食べている時のように幸せそうな顔をしており、私はホッとした。彼が気に入ってくれて嬉しい。
次にご飯を食べ、そして最後はサラダに手を付けた。
「ご飯もふっくらしていますし、このサラダ美味しいですね。ドレッシングが凄く効いてます」
「ご飯は長めに水に付けて置くとふっくらするみたいです。また、ドレッシングは自分で作りました」
「ドレッシングって自分で作ったものだったのですか!? 凄く美味しかったので驚きました……」
これも全て母に教わったのだが、こんなに喜んでくれるなら時間を掛けて作った甲斐があったなと心の底から思う。私が作った料理で一緒に食べているなんて、まるで夫婦みたいだなんて思ってしまう。もし、私が長く生きる事ができたらこんな幸せな人生を送れるのかもしれないと思うと少し寂しくなる。ここまで元気に生きていることに感謝しなきゃいけないのに我儘だなと心の中で苦笑した。
そんなことを思っているうちにお互いに完食し、どの皿にも具材は残っていなかった。
「こちらは物質的なプレゼントなんですけど、受け取ってくれますか?」
私が彼に渡した物は、万年筆。彼は趣味で小説を書いており、パソコンで打つのではなく、自分の手で書くのが好きだと言っていた。そのため、万年筆なら使ってくれるだろうとデザインを考えながら、結局シンプルな黒い万年筆にしたのだった。
「ありがとうございます。今日から使いましょうか。でも使うのが勿体ないですね」
「使わなければ万年筆の意味がないでしょ」
「勿論使いますよ」
こんな軽いジョーダンを言い合えるのも本当に楽しい。何より彼が喜んでくれて本当に嬉しかった。私は彼に無事プレゼントを渡せてほっと安堵した。