森のふくろう
ようやく森に辿り着いた時には、もう午後3時を過ぎていた。とても新鮮で空気が美味しい。それにとても静かであるため安らぎを感じる。
森は現在桜をあらゆる所で咲いており、ほとんどが満開であった。もう町の方ではほぼ全ての桜は散ってしまっているため、少し時間が巻き戻されたかのような気分になる。
本当に美しい桜は見ていても飽きないし、長閑であり、散歩するにはピッタリは場所だった。
こうして散歩している間に時間はあっという間に過ぎていく。
「渚さん、日も少し落ちて来ましたし、そろそろ帰りましょうか」
「そうですね。少し名残り惜しいですが……楽しかったです」
一瞬寂しく感じたが、ここ来れたことに対して嬉しく感じて自然と笑みを浮かべていた。私の笑みを見て安心したのか、彼も笑みを浮かべていた。先程通ってきた道に沿って帰ろうとした時、不思議な声が聞こえた。
「ホーー。ホッホー」
この声は間違いなくフクロウの声。テレビなどでは聞き馴染みがある声だけど、実際に聞いたのは初めてだった。それもまだ完全に日が落ちていない時間帯だなんて驚くのも無理も無かった。本来ならそろそろ帰らなければならないと分かっているものの、フクロウを見たいという衝動に駆られる。私はそのジレンマから思わずソワソワしてしまった。
「渚さん、フクロウ見に行きましょう」
彼は私の気持ちを汲み取ってくれたのか、それとも好奇心が上回ったのかは定かではないが、大変無邪気に声を上げて私の手を取って、鳴き声が聞こえた方へと向かった。彼に付いていく形でフクロウに会いに行くことになったものの、興奮が抑えきれず、思わず早足になっていつの間にか私が彼を連れていく形となっていた。歩いているうちに、鳴き声はだんだん大きくなる。それと同時に他の鳴き声を聞こえてきた。その鳴き声が大きくなる度に私の期待も大きくなっていく。暫く歩いているとようやく目当てとしていたフクロウに会うことが出来た。
「ホーー。ホッホー」
「ニャーーーー」
「ニャニャニャー」
満開の桜の中で、フクロウと猫2匹が睦まじそうに鳴き 合っている。まるでアニメや映画を見ているかのような景色であり、先程美しいと思って見ていた景色の何倍も美しい光景だった。フクロウも猫も夜行性なのに、そのギャップに違和感があるものの見惚れてしまう。
「本当にフクロウを見る事が出来るなんて驚きました。フクロウを見ると幸せになれると言われてますから、僕達も幸せになれますよね」
「私は今でも十分幸せですよ」
「僕もですよ」
お互いに同じ認識であることを確認出来て嬉しくて、お互いに笑みが溢れる。その私達に向けてフクロウと猫達は嬉しそうに声を揃えて鳴いてくれたような気がした。私は彼らに導かれて今日はここまでやって来たのかなと思うほどであった。
もうだいぶ日が落ちているため、今まで通ってきた道を先程の光景をもう一度思い出しながら戻る。そして、しばらく歩いたのち帰りのバスに乗りこんだ。
お互いに長距離を歩いて疲れたため、バスの中で眠ってしまい、降りるバス亭まであと5分というところでようやく目を覚まして、冷や冷やしながらも無事に目的のバス亭に降りた。もうバスを降りた時には、日は完全に落ちていたため、彼が最後まで私の家まで送ってくれて、玄関前で彼と別れた。家に入ると、遅いと両親に怒られながらも、今日の出来事を話すと嬉しそうに聞いてくれた。