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1ー5 助っ人

お読み下さりありがとうございます




 2回目の公爵邸での朝に、私はいつものように、時間になると目を覚まし伸びをした後で大きな口を開きあくびをした。


 出掛ける準備をしていると、小さなノック音がしてから扉が開かれた。


『おはようございます』


「ソフィア?おはよう」


「フェルーナ様。お、起きていらっしゃったのですか?というか、お着替えまで·····」


「あっ、気にしなくていいのよ·····ん?このやり取りは、昨日ルイザとしたばかりだわ」


「私は、いつも早起きだから朝は自分で用意するのよ。私の朝食としてパンを2つと水筒に温かい飲み物を入れたものを厨房にお願いして貰えるかしら?それと、7時に邸を出るので馬車の準備をするように伝えてくれる?」


「はい。でも、こんなに早い時間から、どちらへ行かれるのですか?」


「フフッ。仕事よ!」


「·····仕事ですか?わ、私もついて行きたいです。今日、学園も休みだし。あっ、な、何でもないです」


「えっ?いいわよ!一緒に行きましょう!ソフィアに手伝ってもらえるなんて嬉しいわ」


「えっ!あ、は、はい。では、私もすぐに着替えてきます。嬉しいです。ありがとうございます」


 ソフィアの様子だと、学園はサボりって感じなのだが?しわくちゃの侍女服を見れば、昨夜私が錯乱した後の彼女の様子が伺えた。


 私は幸せものね。邸にきてまだ3日目だというのに、もう慕ってくれる侍女が出来たのだ。こんなに嬉しいことはないだろう。


『可愛くおねだりされるって、最高だわ』


 私は独り言ちた後、今日の予定を頭の中で確認しながら残りの準備を終わらせた。



 階段を降りるたところで、ソフィアが待っていた。


 朝食の入った籠を両手に持ち、満面の笑みで私を迎えている。ワンコみたいだわ。


 二人で馬車に乗り込むと、二人で朝食を食べ始めた。ソフィアは、馬車の中で食事を済ませるとは思っていなかったらしい。


「ま、まさかフェルーナ様が馬車の中で食事を召し上がるなんて。尊いです」


「ん?尊い···ん。美味···しいわ···ゴクン。なんのことか分からないけど、私はその辺にいる伯爵令嬢よ。公爵や候爵家のご令嬢と一緒にするのは失礼よ。幼少期なんて、木登りしたり池に落ちたりして、散々叱られていたのよ。更には、うちの騎士らと喧嘩して剣を振り回しながら頑張って攻撃してたお転婆令嬢よ」


「フェルーナ様が?剣?」


「えぇ、そうよ。ソフィアの幼少期は?どんな令嬢だったのかしら?教えてほしいわ。あら、もう着いてしまうわね。帰りはソフィアの幼少期の話を教えてね」


 商会の前で馬車を下りると、ソフィアはキョロキョロと朝の王都を見回していた。


「人がいない」


 ポツリとこぼれ出た彼女の言葉に、私もぐるりと街の様子を見渡した。


「そうね。店が開店する時間にならないと王都であっても静かな街なのよね。さぁ、こっちよ。中に入りましょう」


 商会の裏口へ回り、ドアを開くとソフィアを中へ招き入れた。





「おはようございます!あれ?フェルーナ様が朝からお客様をお連れになるなんて、珍しいですね。商談ですか?」


「おはようございます。まさか、新入社員ですか?」


「おはようございます。違うわよ。彼女は、私の助っ人よ!」

「ソフィア、彼らは私の仲間なの。今、ここにいる皆は学園時代の同級生よ。あなたの先輩たちになるわね」


「はじめまして。ソフィア·ロイドです。今日一日、フェルーナ様のお供をさせていただきます。よろしくお願いします」


「俺は、マルク・リーグマン。マルクって呼んでくれ!フェルーナ様と一日一緒だなんて、めちゃくちゃコキ使われるぞ!」


「サリンリー・フォーボスよ。サリーでいいわ。学園では専攻科だったから、フェルーナ様の商会に来ることができたの。人生で1番嬉しかったことは、ここで働けたことよ」


「今は2人しかいないけど、他に3人の仲間がこの階で働いているわ。3人は他国へ行っているから紹介出来なくて残念なんだけど――」


「俺もいるだろう。忘れんな」


「あっ、ラフィル。おはよう。気が付かなかったわ」


 ソファーからムクリと起き上がると私の前までやってきたラフィルは大きなあくびをし、甘い香りのする大きな籠を指差した。


「昨日、俺に何を頼んだのか忘れたわけじゃないよな?昨日は、シベルク伯爵邸に帰ったんだ。昨日のうちに料理長がお菓子を焼いてくれたんだが、その後で親父に捕まったわけだ。んで、早朝に邸を抜け出してきたから事務所のソファーでひと眠りしていたってわけ!」


 背の高い彼は、三つ編みに編んだ私の髪をグルグル回しながら不貞腐れた顔で私を見下ろした。


「彼は、会計の仕事をしてくれているラフィルよ。私の幼馴染みなの。彼のお父様がシベルク伯爵邸の執事を務めてくれているのよ」


 ソフィアは、私たちの光景に目が釘付けになっていた。なので、誤解しないように幼馴染みと伝えたのだが。


「ラフィル・アダルクスだ。君は?」


「はじめまして。ソフィア·ロイドです」


 ラフィルは眉をピクリと上げ、ソフィアを上から下まで見てから口を開いた。


「ロイド···?なるほど。では、今日はじっくりフェルーナを監視していってくれ」


 威嚇を示したその言葉に、私が口を挟もうとするより先に、顔を真っ赤にしたソフィアが怒鳴った。


「えっ?監視だなんて、そんなことしませんから!」


「怒らせちゃったね。ごめん、冗談だ。ちょっとキツイ冗談だった。ごめんな」


 そういって、右手を前に出すと「仲直りの握手だ」なんて、ハラハラさせられる。見ているこっちの身にもなってほしい。


「わかりました。許します」


 二人は握手をすると、ニタリととんでもない微笑みまで交わした。


···なに?今の二人の顔は?




 最初に私がソフィアを連れて行った先は、孤児院だった。


 いつものように、薬草を持って子供達が集まってくる。


「ルーナ姉ちゃん!今日はいつもより遅かったー。遅刻だよー」


「ルーナ姉さん。早くテストしましょう!早くしないと忘れちゃいそうなの」


「遅くなってごめんね。今日は、テストをなしにするわ!その代わりに、お友達を連れてきたのよ。みんなよろしくね」


 子供たちの勢いにソフィアはたじろぎながら挨拶を交わしだした。


「ソフィアお姉さん、次は?次はいつ来てくれるの?」


「これ。花壇の花をみんなで摘んだんだけど。ソフィア姉ちゃん、今日はありがとな」


 時間と共に子供達とも仲良くなり、帰るときには花束を抱え、緑の瞳に涙を溜めて手を振るまでになっていた。


「フェルーナ様。また連れて来て下さい」


「フフッ。いつでも連れて来てあげるわ。でも、次からは学園が休みの日にね」


「···バ、バレていたんですか?」


 孤児院を出てから馬車に揺られると、王城へと向った。門を通過するときに、門兵に一度顔を見せる。


「フェルーナ様、ご一緒の方はどういったご用事でしょうか?」


 いつもなら、そのまま通過できるのだが今日はソフィアがいるために一度停められてしまう。


 すると、前方から王家の馬車がやってきた。


「フェルーナ!どうしたのだ?」


 馬車の窓から顔を出してきたのは、鮮やかな金髪に深いブルーの瞳をもつ第一王子のアルキス殿下だ。


「今日は、友人と一緒なの」


「ハハッ!それで停められたのか。門兵!医師を待たせるわけにはいかないんだ。フェルーナの馬車を通してやれ」


 

 アルキス殿下の一声で、すぐに門をくぐることができた。


「アルキス兄様!ありがとー」


 馬車に向かって手を振ると、アルキス殿下は満面の笑みで手を振り返した後、彼を乗せた馬車も動き出した。


「フェ、フェルーナ様?今のは、王子様でいらっしゃいますか?」


「第一王子のアルキス殿下ですわ」


 ソフィアは、目をキラリと輝かせ頬を赤らめて私に視線を向けたあと、顔の前で両手を合わせながら天井を見上げた。彼女には何か見えているのかも。私はブルりと震えると、彼女から視線を外した。



「パドリック医師。遅くなり申し訳ございません」


「おぉ、フェルーナ。待ってたぞ」


 医務局に入ると、今日もたくさんの騎士らがパドリック医師の治療を求め列をなしていた。


「今日は、助っ人を連れてきました。ソフィアです。先に騎士様方の治療をお手伝いいたしますね」


 後ろで状況がつかめずポカンとして立ち尽くしているソフィアに包帯を渡すと、私の座る椅子の隣に居るように言う。


「では、次の方どうぞ」


 私の前に用意した椅子に騎士様が座ると、腕に傷を負っていた。


「少ししみますが、我慢して下さい」


 血を拭いた後、患部を見ると思いの外傷は浅かった。しかし、そのままではすぐに傷口が開いてしまうので縫い付ける治療をすすめ、消毒をして麻酔薬を塗布した。


「麻酔薬が効くまでベッドでお待ち下さい」


「次の方どうぞ」


 軽く手首を捻挫したらしく、湿布薬を貼ったあとでソフィアに患部を包帯で固定するように指示をだす。


「次の方···」



 何人か診たあとで、麻酔薬を塗った騎士様のいるベッドに移動する。


「触りますね。···どうですか?触られていると感じますか?」


「感じません」


「では、痛かったら我慢して下さい。3針刺しますね」


 そう私が声をかけると、騎士様は「俺は我慢出来るが、彼女が――」と言って私の後方に視線を向けた。


 振り返ると、ソフィアは顔面蒼白だった。そうだった。ソフィアは、普通の貴族のご令嬢だった。


「ソフィア、ここはいいからパドリック医師の手伝いを頼みますわ」


「え···あ···は、はい」


 そして騎士様の腕を縫い終わり、患部に薬を塗って包帯を巻いていく。


「騎士様。明日もこちらにきて、消毒と薬を塗ってもらって下さい。何か質問はありますか?」


「ありがとうございました。質問ですか。私はフェルーナ様の結婚披露宴のときに会場の警備の任務についていました。フェルーナ様の姿は、大変お美しかった。···騎士の力が必要なときがあれば、お力にならせて下さい」


「フフッ。ありがとうございます。では、何かあったときは、力をお借りします。ですので、早くお怪我を治して下さいね」


 治療を終えて彼が医務局を出ていく。残り1人の患者をパドリック医師が診終わると、医務局は静かになった。


「フェルーナ嬢が来る日は、怪我人が多くてかなわん」


 孤児院の子供たちから受け取った薬草をパドリック医師の前に置くと、1つ1つ丁寧に確認し始めた。今回も鮮度がいいと太鼓判を押される。


 前回きたときに医師に預けた薬草で子供達用の飲み薬が出来上がったと、奥の棚から薬を出され、私はそれを受け取った。


「ありがとうございます」


「それは風邪薬だが、熱を下げる効果はないからな。今回の薬草で熱を下げる薬ができる。湯がいて、えぐみを取り除いてから乾燥させなきゃならんから時間がかかる」


 そういいながら、医師は何枚かのメモ紙を渡してきた。受け取った薬の作り方と効能が書かれているものだ。


「ありがとうございます。商会の医療班が喜びますわ。前回の咳止めの薬と合わせてみてからになりますが、新薬が開発できたらお持ちいたします」


 穏やかな表情で「期待してるぞ」と医師は、しわのある顔を更にしわくちゃにした。




「失礼致します」


 ノック音が鳴り医務局に入室してきたのは、王妃様付きの侍女頭だった。彼女は、医師と私たちに丁寧に挨拶をすると、王妃様から私宛に預かってきたのだと言い、一通の封筒を差し出した。


 それを受け取り、その場で内容を確認する。


「すぐに伺いますとお伝え下さいますか」


 私は、侍女頭にそういうと、パドリック医師から受け取った薬とメモ紙を鞄にまとめ入れてからソフィアを連れて医務局を後にした。



 王妃様の私室では、カチンコチンに固まり表情筋まで動かすことが出来なくなったかのようなソフィアを隣に座らせた。


 目の前のテーブルには、空きスペースが許されないほどの菓子が並べられている。


···うわぁー。作らせ過ぎでしょう

    王城の料理人が気の毒だわ



「ソフィアさん。たくさん食べて下さいね」


 私を横目にしながらソフィアに微笑んでいる王妃様。

 先ほど受け取った手紙には、『早急に会って話がしたい』と書かれていた。


 彼女の手紙を読み、すぐにピンときた。


 この状況から察するに、私の直感は当たっていたと思うが『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』私との会話を始める前に、ソフィアを味方に付けたいらしい。


「王妃様。早急の話とは、どのようなことでございましょう」


 私が急くように話を促したところで、王妃陛下は重い口を開いた。


「実は先ほど、ユリシーズ公爵から昨夜の公爵邸での出来事をお聞きしました。···フェルーナ、身体の方は大丈夫なのですか?」


「やはりそのことでしたか」


「まさか、こんなに早くフェルーナと話しをすことになるとは思いもしませんでした」


 それを聞いていたソフィアのニンマリとした顔が菓子から顔を背けると、冷静な表情を取り戻しピシャリと背筋を伸ばした。


 王妃様はその様子を察知し、ソフィアに席を外してもらいたいようだったが、私はそれを拒否した。


 なぜなら、敵対する公爵家へ嫁いだばかりの私を慕ってくれているのもあるが、第三者としてこの内容をソフィアにも聞いてもらいたかった。

 それと、これだけの量の菓子を出されたのにだ。ソフィアはそれを目の前にして私の友人としての矜持を見せたのだ。こんなに嬉しいことはない。


 私がソフィアに向ける様子を汲み取ったのだろう。


 小さな息を吐くと王妃様はお茶を一口飲んだ後で重い口を開いた。


 




 

誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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