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5ー3 手紙

お読み下さりありがとうございます。

最終話になります。

よろしくお願いいたします。




「――突然のことで申し訳ありません。次回からは私の代わりに彼女がこちらに来ますので……何かあれば彼女伝にてご相談下さいますか?」


「分かりました。フェルーナ様、ありがとうございます。近くに来るときには顔を出して下さい。子供達もよろこびますわ」


「はい。王都へ来る際には、顔を出させていただきますわ」


 今日は孤児院へカレンを連れて最後の挨拶へとやってきた。毎週は来れなくなるが、年に何度かは顔を出すつもりでいるので、今回は子供達には何も告げずにいるつもりだ。その為、カレンが子供達と遊んでいる間に院長先生と話をすることにしたのだ。


「失礼ですが、フェルーナ様はどちらへ引っ越しされるのですか?」


「こちらからですと、馬車で3時間くらいかかりますがリグニクス領です。領地へと行くことになりました。領地を活性化させ、領地での孤児院の現状も改善していければと思っております。そのときにはお力になっていただけますでしょうか」


「えぇ、是非。私共で宜しければお力にならせて下さい」


 子供達にクッキーを配ると私とカレンは孤児院を後にして、次に王城へと向かい医師らにも挨拶をする。


 パドリック医師にも引っ越しの話をした後で、王都にきた際には顔を出すつもりでいることを話す。


「そうか、淋しくなるのー。だが、気が向いたらでいいぞ。いつでも大歓迎だからな。数年は領地経営で大変だと思うしの。お前さんのことだ領地でも新たに何か始めてみてもいいじゃろう」


 付き合いが長かったからだろうか、パドリック医師との別れは淋しい。初めて医学について教えて下さった医師は私の師匠であり祖父のような存在だった。

 溢れる涙を抑え、私は深々とお辞儀をすると笑顔で医務局を後にした。


 その後で懇意にしているジュエリー店などを回り、商会へと戻ってくる。

 商会のドアを開くとマルクが事務机の積まれた書類の上から顔を出した。


「おかえりなさい!挨拶回りは終わったんですか?」


「えぇ、一応ね」


「先ほど、ジークさんが来ていたんですが、うちの商会には来なくていいって言ってましたよ!次の夜会で会ったときにでも声を掛けてくれって!ちゃっかりしてますよねー。夜会の場でも営業熱心なんだから」


「そう。貴族相手になると大金が動かせるから、仕方がないわ」


 カレンは早速メモした今日の内容をまとめ始めている。出会った人数の多さに名前が覚えられるかが心配だと馬車の中で何度もメモをとっていたのだ。


 給油室でお湯を沸かすとマルクにお茶の催促をされ「甘い菓子もお願いしまーす」などと、ここ最近では茶飲みをするために私が居るかのようだ。


 ジュエリー店でお土産に頂いた焼き菓子に合うように久々にコーヒーを淹れてみる。ラフィルのようにはいかないが、カレンもいることで私の淹れたコーヒーの評価点をきいてみようと思う。


「お茶を飲んだら帰るわね。カレンもそろそろ上がっていいのよ!引っ越しの荷解きなんかも大変なんだから」


「そうします。明日はアレン様がこちらに顔を出すことになっておりますが、フェルーナ様はいらっしゃらないのですよね」


「えぇ。アレン兄様は、ラフィルとカレンの引っ越し祝いを持ってくるのだったわよね。私は、ララの引っ越しの日だから商会には来れないのだけれど」


「あー。俺、緊張してきた。フェルーナ様のお兄さんと会うのは初めてなんだよなー。どんな方なのですか?」


「ふふっ。そうねー……私と同じ髪色と瞳の色よ。あっ、瞳の色は私に淡いグリーンを足した感じだわ。性格も似てるって、父様に言われてるかな」


「アレン様は、貴族なのに冗談が通じる人ですわ!それと、伯爵家は騎士の家系ですから、もちろん平民から騎士になっている方が多くいらっしゃいます。そんな方にも分け隔てなく接して下さいますわ」


「カレンさん。俺、剣を握ったこともないんだけど……」


「マルクさんったら。そんなに怯えなくても……要は、一生懸命頑張っている方には相応に接して下さるということです」


「ところで、カレン。コーヒーの味はどうだった?」


「……もう少し練習を重ねた方がいいと思うお味ですわ」


「そうね。上手な言い回しをありがとう。マルクなんかお湯を足して薄めて飲んでいるくらいだし。やはり、難しいわね」



 明日、商会へと来るアレン兄様へのお土産をマルクに預けると私は早い時間に帰路へつく。

 商会の扉を出て階段を降り辻馬車に乗ると、王都の活気ある様子にしばし目が奪われる。


 今日は、何度かお別れの挨拶をしてきたこともあり、街の風景を見ているだけで何となく寂しさが募るのだ。1人で歩いている人、呼び込みをしている人、買い物をしている人、看板を建てている人、馬車に乗るのを待つ人。それらを目にし溢れるこの感情は……私が今日まで生きてきた中で新たに知ることが出来た感情かも知れない。

 私は、新たな人生へのご褒美を頂いた気分で、邸に着くまでの間、外を眺めながら帰路に就くことにした。



 次の日。快晴に恵まれ、引っ越しの途中で以前ラングイットに連れてきてもらった湖へと足を運ぶ。


「キレーイ!凄いわ!お母さんもフェルーナお姉ちゃんも見てー」


「喜んで貰えてよかったわ。さぁ、ランチにしましょう!厨房長が朝から張り切って、腕によりをかけて作ってくれたのよ」


「可愛いバスケット!中身はなぁに?」


「ミックスサンドとフルーツサンドよ!それとチップスも入っているわ!飲み物は果実水よ」


「フェルーナ様、何から何までありがとうございます」


「そういえば、ララのお母さんとだけ覚えてしまっていて……実はまだお名前をお聞きしていませんでしたわよね。こんなに時間が経ってからで恐縮なのですが――」


「申し訳ございません。私もすっかり――。私はアルテと申します。ララの名前は、ラウラと言うのですわ」


 ランチを食べながら小一時間したところで伯爵邸へと向かうことにした私達は、馬車の中でもお喋りを楽しんだ。そして、会話の中でのララの言葉が私に閃きを与えてくれた。


「この辺りからリグニクス領になるわ。王都みたいな街はないの。主に小麦畑が多いのよ」


「フェルーナお姉ちゃん!あの緑がワサワサしているところは?」


「あそこは雑草地ね。使われていない場所よ、畑ではないわ」


「沢山の雑草地があるのね。もったいないわ!全部お花畑にすれば綺麗なのにー」


「……沢山……もったいない……そうね。もったいないわ。確かにもったいないわ」


「……?フェルーナお姉ちゃん?」


「ララ!そうよ!もったいないわ!」


「お母さん、お姉ちゃんが壊れちゃったわ」


「大丈夫、フェルーナ様は何か良い事を思いついたのよ」


 ララが言った……お花畑。

 そうだ。領地の雑草地を薬草畑にすることで、沢山の薬を作り出せる。領地を使えばコストもそんなには掛からないだろう。更には商会から他国に販売できる量が作れるかも知れない。



 そうして伯爵邸に着くとルイザが笑顔で出迎えてくれた。


「きゃぁぁぁー!かわいいー。貴女がララちゃんかしら? 可愛らしいわぁ」


「ルイザ……貴女、そんなキャラじゃなかったわよね」


「コホン。フェルーナ様、お待ちしておりました。長い時間での馬車での移動でお疲れのことと思います――」


「変な侍女は無視して。さぁ、アルテさん。ララ。こちらですわ」


「へ、変な?……フェルーナ様、あんまりですわ!案内は私の仕事なのです。仕事を取らないで下さいますか」


「冗談ですわ。ルイザ2人のことを頼むわね。御者達が先に裏の建物の前に移動して荷物を降ろしてくれているわ。よろしくね」


「はい。お任せ下さい」


「私は本邸の中を見てくるので、しばらくしてからそちらに行きます」


 1人で中を確認するからと、使用人達に伝えて本邸の扉をくぐる。一面アイボリー色の壁紙を見て、思わずクスリと笑ってしまった。まさか、あのときは完成した我が家に足を踏み入れることはないと思っていたから。


 ここは、応接間ね。本当に家具はまだなのね。次は――。


「そして、ここが私室ね。広いわね。ん?私室の奥がやけに広がっている?そのまま壁もなく扉もない……えっ?ラングイットの私室?」


 やられたわ。私室じゃなくて、これは完全に二人の部屋になっている。でも、あの日の私は見てもいなかった。全く関係ないと思っていたから。

 さすがはラングイット。全ての壁がアイボリーだ。でも、なんだかとても嬉しい。彼は私のことを思ってくれていたのだと分かる邸を建ててくれていた。1人でいる今も、彼に抱きかかえられ安心しているかのように思える家だ。とても温かい家だと思う。


 窓に貼られたピンク色の封書。

 宛名が私になっている?何かのメモかしら?

 私はそれを窓から剥がし中を確認する。


 『フェルーナへ――』




 部屋の窓から見える庭を見ると、四阿があり、隣りにはブランコ?……は、早すぎるわ。

 その隣りには、彼と歩いた花壇の小道。小道を過ぎると小さな小屋があり、小屋の隣りに井戸がある。

 何に使うのかしら?

 その先には小さな畑が広がっているのが見える。私が以前実家で薬草畑を持っていた話をしたからかしら?ふふっ……ラングイットったら。公爵令息だった彼からしてみれば、敷地内に畑だなんて発想は有り得ないわよね。


 この家、敷地全てが私の為に造られていたのね。彼は、見えない場所でも私に歩み寄り添ってくれていた。


 気づくのが遅くなってごめんなさい。



『私は、貴方との結婚に希望を抱いたわ。私は昨日、一生を笑って共に歩み寄り添っていく努力をし、ラングイット様と共に幸せになろうと思いながら結婚式に向かったわ』


 あのときの私の叫びが今になって胸を締め付ける。





 幼かったあの日。

 私は、王妃様の出来上がったアクセサリーを持って店主と父様と一緒に、初めて登城した。

 馬車から降りて私達が城内へ入るとき、先に彼が父親と城内から出てきた。すれ違いざまに父様同士で肩がぶつかった。

 父様達は口論を始め、それを止めようとしたところで私はよろけて転びそうに。すると目の前の彼が助けてくれようと腕を伸ばすが、私の重みに私を抱えながら彼は尻もちをついてしまった。私は直ぐに彼の手を掴んで立たせるが、直ぐに手を離した。


「ごめんなさい。あっ、婚約するまでは手は握っちゃ駄目だったのだわ」


 艶のある黒髪が日に当たりキラリと光りを帯び、爽やかな空色の瞳が私を捉える。

 しばらく彼は私の顔をじっと見た後でクスリと笑う。


「じゃぁ、僕と結婚すればいい」


 美しく整った顔立ちの彼に求婚されると同時に、彼は私の手を握ってきたのだ。


「えっ?貴方が私の王子様?」


「……王子様?」


 突然のことで、幼い私は『私の王子様が現れた』と喜んで、つい口から出てしまった言葉がはずかしくて俯いてしまった。


 彼との会話の途中で、口論が終わった父様に腕を引かれてしまい名前を聞くことが出来なかった。


 その為、私の中で彼の名前は「王子様」となった。私の初恋だ。


 学院に入学して、彼の名前を知ることが出来た。凄く嬉しかった。彼と話すことはできるだろうか。どのように成長したのだろうか。ウキウキしながら学院へと通うが――。彼は覚えていなかったらしい。会話をする機会もなく卒業式を迎えた。


 私は自分に都合のいいように、私の初恋は「王子様」。彼ではない。名前が違うのだから。そう言い聞かせ初恋に蓋をした。


 多分、王命がなければ私達は結婚することはなかっただろう。しかし、もしかしたら王命がなくても貴方が私を娶ってくれる未来があったのかも知れない。


 彼もまた、私と同じ思いでいたのだと……今なら分かるから――。




 『フェルーナへ――』


 一生、貴女だけの

   王子様であることを誓う

 

        ラングイット





誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。


最後までお読み下さり

ありがとうございました。

m(_ _)m*✩

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