5ー2 平穏
お読み下さりありがとうございます。
次話で本編完結となります。
m(_ _)m
就寝前、満天の星空を眺めながらバルコニーにて二人でお酒を嗜む時間を過ごす。
隣りで手すりにもたれながら夜空を見上げているラングイットの瞳はキラキラ輝く星が写し出されていて美しく、私は彼の瞳に釘付けになる。
「ん?どうした?」
「あまりにも綺麗な瞳なので、目を離せずに見入ってしまいました」
彼は私の言葉に頬を赤らめるとグラスの中のワインを飲み干してから私の手に持つグラスのワインを口に含み、腰を抱えられた後で口移しで飲まされる。
唇が離されると、トロンとした瞳で私を見下ろし「煽ったな」口角を上げた。
「あ、煽った?そんなつもりではありません!」
遅かった。そのままバルコニーでだなんて羞恥で死ぬ。長かった。私の恥じらう姿が更に彼を焚きつけたらしい。
その夜、私は初めて最中に気絶したのだった。
「フェルーナ。ごめん、俺が悪かった。まさか、気絶するなんて思わなかったんだ」
「大丈夫ですから、もう少し静かなに……小さな声でお願いいたします」
まさかの朝食の席で、突然の夫からの謝罪。使用人らからの温かな微笑みを受けている私は……朝から罰を受けているような?そんな気がしてならないのだが。仔犬のように耳を垂らすような仕草に(耳は無いが)瞳を潤わせ謝罪する彼の姿が可愛いと思って許してしまう私も大概だな。
使用人等を前に、冷静さを保ちながら食事をとる。しかし、テーブルに並べられているのは焼き立てのクロワッサンにトマトとアスパラ、薄いベーコンが添えられたスクランブルエッグ。サラダには大好物のニンジンのドレッシングがふんだんに掛けられている。スープも大好物のオニオンスープで、今日は朝から大好物だらけの朝食だ。これで無表情で食事を楽しむなど好物を前に無理だ。食べ始めると直ぐに笑顔で食事を堪能し始める。
「機嫌は直ったみたいだな」
「元々、機嫌が悪くないのですが?ラングイットが謝罪を口にした場所がよくなかっただけです。それに、謝罪をされる覚えもありませんから」
「えっ?……では、これからも昨夜のように、ちょっと乱暴にしてしまっても?」
「……な、な、な……だから、場所を考えてって言っているでしょう!」
キョロキョロと見回すと使用人らは既に席を外していて誰一人この場には居なかった。
うちの使用人らは完璧ね。空気が読めるなんて、一流だわ。
「恥ずかしかっただけで、嫌ではありませんでした。それよりも、食事が冷めてしまいますのでこの話はここまでにして下さい」
そう言うと、大きく目を見開き手に持つシルバーを皿の上に落とし、彼はしばらくそのまま固まってしまった。
私はニンジンドレッシングの上に更にレモンを搾ると、シャキシャキのレタスサラダをじっくり堪能することにした。
食事の後でラングイットはリグニクス領への引っ越しを3週間後に考えていることを告げると、その前にララ達の引っ越しを済ませた方がいいだろうと言う。
「彼女達親子が引っ越すにあたり、王都からリグニクス領の寮までの距離も長いし、平民の彼女らが伯爵家の門を叩くのは大変なことだろう。知らぬ場所に二人で行くよりもフェルーナが一緒に同行した方がいいと思うのだが、貴女の時間はどうだ?」
「ありがとうございます。今日の帰りに早速二人に話をしてみますわ」
「あぁ。引っ越しにはうちの馬車を使うといい。それと、今夜は王城へと呼ばれているから帰りが遅くなる」
「王城ですか?分かりました」
その日、私はいつもの時間より早くに商会を出てララがいつも居る場所まで来る。
「あっ、ララ!」
「フェルーナお姉ちゃん!」
馬車から手を振ると、笑顔でララが大きく手を振り帰してくれた。馬車から降りてララにお母さんの花屋まで連れて行ってもらう。
ララなお母さんの花屋には今日も色とりどりの花が店の前に飾られていて、見ているだけでとても癒やされる雰囲気に私はほっこり笑顔になる。
ララに促され、店内へと足を運ぶと花冠を頭の上に乗せた可愛らしいお人形さんが今日も出迎えてくれた。
「あら?お人形さんの花冠が――」
カウンターの奥からララの母親が出てくると、私の小言に答えをくれる。
「ふふっ。毎日違う花冠なのですわ。売れ残ってしまった花で、毎朝冠を作っているのです」
その後で私は引っ越しの話をすると、1週間後にリグニクス領の邸へ行くことが決まった。
「当日の10時頃に迎えに来ますね。荷物を乗せる馬車は1台で足りますか?」
「えっ?迎えだなんて!場所を教えて下されば私達だけで引っ越しできます」
「ふふっ。私の勧誘したお二人に、そんなことはさせられません。私も出来上がった邸を見に行きたいので、一緒に行きましょう」
途中、お昼にピクニックを挟んでリグニクス領へと行く内容で話を終えるとララが私の顔を覗き込む。
「ララ?どうしたの?」
「フェルーナお姉ちゃんの旦那様は……私達が平民なのに、大丈夫なの?」
何度か聞いたララからの『平民』という言葉に、これまでに辛い思いをしてきたのではないだろうかと思い、ララから視線を外すとララの母親の顔を見てしまった。
ララの母親は困った表情を浮かべると重い口を開く。
「仕事がら、平民に払う金はないとか、平民のくせにと……そういったお客様がいるので、ララも自然と口に出てしまったのだと思います。申し訳ございません」
「そうだったのですね」
「ララ。私の旦那様はララとララのお母さんが伯爵家て働いてくれるのを歓迎してくれているわ。見た目は冷たい印象だけど、とても優しい人よ。今日も、ララとララのお母さんが早くに安心出来るように、引っ越しの話をしてきた方がいいだろうって、言ってくれたわ」
「本当に?よかった。あっ、じゃぁこれを……フェルーナお姉ちゃんの旦那様にお礼のプレゼントよ。喜んでくれるかしら」
「まぁ、可愛らしい!ありがとう」
小さい沢山の花で作られた、とても小さい花束。花束のミニチュアとでも言えば分かるだろうか?両手に乗るサイズの花束だ。私は可愛らしいそれをララから預かると、1週間後に来る約束をし、早々と帰路に就いた。
「お、奥様?お帰りなさいませ……」
邸に戻り、そのままラングイットの執務室へと向かう。扉を開けた瞬間、驚愕の顔を向けた執事は私の顔を見るなり顔面蒼白になる。邸前での出迎えが出来なかったことを気にしているようだ。
「私のことは気にしないで、今日は急遽早帰りだったの。それよりも、書類に取り掛かりましょう。あっ、お茶を飲みたいわね。エリスさんにお願いしてきてもらえるかしら?1時間後にお茶をお願いと伝えてくれる?そして、そのお茶を1時間後に貴方が運んで執務室へ持ってきてくれるかしら?」
「1時間後でしょうか?」
「1時間で目の下のクマは取れないでしょうが、休憩しないで仕事を続けることはミスに繋がります」
「は、はい。……では1時間後にお茶をお持ちいたします」
執事が退室した後で私は花瓶にララからのプレゼントの花束をさすと、ラングイットの机に座り集中して書類と向き合い始めた。
そして、集中し過ぎて執事が戻ってきたことにも気が付かず、エリスさんが執務室へ夕食の時間を報せに来るまでにひたすら書類を捌き続けた。
結果。怒られた。
「フェルーナ様!。いい加減に夕食を済ませていただけますか。ソフィアが入浴と夕食に何度も呼びに来たはずですが?あの子のことなので、フェルーナ様の様子を察して小声で伝えたのでしょうが……」
「も、申し訳ございません。この書類が終わったら直ぐに行きますわ」
めちゃくちゃ怖い。さすがは侍女頭。
私はサッサと終わらせエリスさんと食事の席へと向かった。
食事を終わらせ入浴しているとソフィアが申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「ソフィア?元気がないわね」
「私のせいで、フェルーナ様がエリスさんに叱られてしまったので――」
「貴女のせいではないわ」
「エリスさんを怒らせると、鬼のように怖いんですよ!目尻が上がるんです!あれって、どうやるのでしょうね」
「ハハッ!確かに上がってるかも!ソフィアはよく見てるわね」
「見たくなくても、毎回怒らせてしまうんですよねー。最近では、気にならなくなってしまいましたが。そうそう!エリスさんはチョコレートが大好物なのです。チョコレートを見せるだけで機嫌が直るのですよ。チョロいでしょ」
――ん?チョコレートが大好物?
チョロい?あー……アレン兄様と同類か
「ソフィア。その情報は役に立つわ」
「ですよね!何かのときにはお使い下さい」
そうして入浴後にお茶を淹れてソフィアが退室すると、私はガウンを羽織り執務室へと向った。
「あ……奥様……。マズイです」
「何がマズイのかしら?」
「あー。ガウンの――」
「邸に居るのにどんな格好でもいいでしょう?そんなことより、続きをやるわよ。貴方はもう上がりなさい」
そう言って、またラングイットの机にある書類に目を通し始めると、集中して先ほどの続きから始めた。
そろそろあくびが出たところで最後の書類に目を通す。すると書類の上に手が現れた。手の先に視線を移動すると机の前にラングイットが立っている。眉間にシワを寄せているが……?
「あっ、お帰りなさい。遅い時間でしたわね。お食事と入浴を済ませてきたらいかがですか?」
「食事もしたし、入浴も済ませた」
「あら、よく見ればガウン姿でしたわね。そろそろ私は私室に戻らせていただきますね」
眉間のシワが深くなった?表情もよろしくないみたいね。何かしたかしら?
「フェルーナ。貴女が寝間着で私室から出ることを、今後一切許さない」
「えっ?邸の中くらいいいでしょう。それに、ガウンも羽織っていますわ」
「胸の露出が隠れていないだろう?谷間が見える。駄目だ」
「ハイハイ。次からは私室からは出ません。では、私は眠いので戻りますわ」
私があくびをしながら椅子から立ち上がると彼は突然私を抱きかかえ私室まで運ぶ。
ベッドの上に私を乗せるとこのまま寝るようにと額に唇を落とした。
優しく頭を撫でながら今日の出来事を語る低音の声音と彼の体温が心地良く、ウトウトしながらもしばらく彼の瞳を見ていたはずが私はいつの間にか瞼を閉じていた。
誤字脱字がありましたら
申し訳ございません。
次話で完結となります。
当初の告知予定より長く
なってしまいました。
申し訳ございません。




