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1ー3 拒絶

お読み下さりありがとうございます。


1ー3 から、一気に内容が加速します。




 商会の裏口のドアを開き朝の挨拶をする。


「おはようございます」


 すでに何人かの従業員が机に向かっていて、朝のコーヒーを嗜んでいた。


「おはよ···う···って?フェルーナ様?今日は休みのはずなのでは?」


「お身体は大丈夫なのですか?無理は禁物ですわよ」


 私は休むといっていないし、体調不良も伝えた覚えがないのに···なぜ?


「そんなに、心配されるような覚えはないのだけれど?」


 みんなの首を傾げる様子に、私も首を傾げながら応える。


「覚えがないって?昨夜は初めての夜だったでしょうに」


「ラフィル!な、な、なんてこと言うのよ!フェルーナ様にそんな下世話な言い方しないでよ」


「い、痛いなー!叩かなくてもいいだろう!サリーの馬鹿力」


···あっ!



  すっかり忘れてたわー。


  普通ならそうよね。そう思うわよね。


「コホン。···何もなかったのよ」


 どうしたものかと考えながらも、これからのことを考えると正直に話した方がいいかと思い、私はことの顛末を話した。


「なんだそいつ?殺す?殺っちゃう?」


「マルク!フェルーナ様に乱暴な言葉を教えないで!···でも、王命だからだなんて言い方はあんまりだわ。やっぱり、殺りましょう」


「マルクも、サリーもちょっと待て。フェルーナの気持ちの方が大事だろ?なぁ、フェルーナ、ラングイットにそう言われてどう思ったんだ?」


「えっ···そうね。そのときは、突然のことだったから驚いたの。でも、その後の披露宴会場で思い人と寄り添う姿を見たときは、悲しかったと思う」


 そう。悲しかった。


 ラングイットは私のことが嫌いだったのだろうが、実は私は彼のことを慕っていたのだ。


 家同士が敵対していたので、会話をしたことはなかったが、学園にいるときも眉目秀麗な彼に目が引き寄せられていた。


 公爵家の令息なだけありクラスの中でも人気の彼は、いつも冷静な人だった。ちょっとした心遣いが上手にできる人で、私はそんな彼に惹かれたのだ。



「フェルーナ。何かあればここで全て吐き出せ。ここの皆はフェルーナのことが大好きな奴しかいない」


「うん。ありがとうラフィル」


 小さなときから幼馴染みで、いつも泣いている私を励ましてくれるのがシベルク伯爵家の執事の息子のラフィルだった。


「泣くな!不細工が豚細工になるぞ。大丈夫、お前は悪くない。お前の良さがわからない奴が悪いんだ。お前は、そのままでいいんだよ」


「ラフィル。みんなの前だから最近はきちんとしてたのに。お前呼びになっているわ」


 王妃様も言っていた。『私らしく生きていきなさい』そうだ、私は私らしく生きていけばいい。


 みんなに話を聞いてもらい自分の気持ちと向き合ったことで、重くのしかかっていたものが和らぎ気持ちが少し軽くなった。


「みんな、ありがとう。つっかえが取れたわ」


 ウジウジしていても仕方がない。


 新しい生活は始まったばかりなんだし、まぁーなるようになるでしょう。



「そうだわ。ラフィル、お願いがあるの。次から私が孤児院へ行く日は、シベルク伯爵家からお菓子をもらってきてくれる?」


「えぇー!週に2回もお邸に行けって?···分かりましたよ」


 気持ちを新たに今日の一日を再スタートした私は、いつもの様に仕事を終える。


 公爵邸へと家路につくころには、石畳の道が茜色に染まっていた。




 辻馬車の御者とお喋りをしながら、石畳の道をガタゴトと進んで行くと、道沿いに小さな少女が佇んでいた。


 足を怪我しているようだ。


 御者に目の前で停まってもらうと、私は馬車から降りて少女に声をかけた。


「どうしたの?血が出ているわ」


「·····」


 黙りしたままの少女の頬には、涙が流れ落ちていた。彼女は、それを袖で拭う。顔は拭ったためか赤く腫れてしまっていた。


 孤児院に行くときに、怪我をする子供用に常備していた消毒液とキズ薬で先ずは足の怪我を治療する。その後で、光魔法でハンカチに魔力を注いでから、それを足に巻き傷を覆う。


「どう?痛くない?薬を塗ったから、もう大丈夫よ」


「·····。でも、お花が――」


 少女が振り返った先の建物の影には、蔦で編み込まれた簡易的な籠と、小さな花束だったであろうものが石畳の上に無惨に散らばっていた。


 それを拾って少女に渡す。


「籠はまだ使えるわ。お花は売り物だったのね。一束いくらで売っていたの?」


「·····銅貨1枚よ」


 花を束ねていた麻紐の数を数えると、5束分が駄目になってしまったらしい。


「この花は私が買うわ。5束残っていたみたいだから、銅貨5枚でいいかしら?」


「えっ?でも、お花がバラバラになっているし、折れちゃっているわ」


「大丈夫よ。花は花よ!茎が折れたなら、その上から切ってお水の張ったお皿に並べるわ!花びらが少しなくても沢山浮かべれば、そんなの気にならないわよ」


「···お姉さん。ありがとう」


「どういたしまして。私の名前はフェルーナよ。あなたのお名前を教えてくれるかしら?」


 少女はララと名乗った。


 どうやって転んでしまったのか理由を聞くと、緑色の馬車に跳ねられそうになったといった。


···緑色の馬車?


  ユリシーズ公爵家の馬車も緑色だわ



「そう。轢かれなくて良かったわ。転んだララをそのままにしておくだなんて、どんな人が乗っていたのかしら。神経を疑っちゃうわ」


 一度馬車は停まったが、窓から「邪魔よ!」と怒鳴られたという。


 そして、私とララでかき集めた花をララが1つ手に取ると、この花と同じ色をした髪の毛の女の人が怒鳴ったのだといった。


「秋桜」


 その花は、鮮やかな『桃色』の秋桜だった。





 その日の夕食の席では、夫となったラングイットがまたまた不機嫌そうな表情で先にテーブルにつき私を待っていた。


 私も席についたところで食前酒が出され、それを一口口に含む。


「今朝は早くから出かけたみたいだが?」


 目も合わせずにそう聞かれる。


「えぇ。私は毎朝、今日と同じ時間に邸を出ますので――」


「早朝からどこに行くというのだ?貴女には、伯爵領のこともやっていただきたいのだが?遊んで暮らそうなどと思わないことだな」


「領のことは、やらせていただきますわ。仕事があるときは言ってくだされば出かけません。私にも予定がありますので、前もってお伝え下さい」


 私が言葉を返すと、ピクリと眉を上げこちらを睨みつけてきた。


「貴女の予定とは?伯爵家が後ろ指を指される行動ではないだろうな?悪いが、貴方を取り巻く男共のゴシップなどを持ち込まないようにしてもらいたい」


···男共?ゴシップ?

  何のこと?訳が分からないわ



「何を仰っしゃりたいのか、わかりかねますが?ご迷惑は一切お掛け致しませんわ」


「はっ、どうだか···何かあってから俺に言ってきたとしても俺には関係ないからな」


「フフッ。大丈夫ですわ。ラングイット様に言われた通り、私はラングイット様には何かあっても期待しようとは思わないようにいたします」


 話を終えたかのように、私は食前酒を飲み干した後で席を立つ。


「夕食を食べてから席を立て。まだ、何も口に入れていないではないか」


 出て行こうとすると、あからさまにそう言って私を引き止めた彼に怒りが湧いた。もう、どうでもいい。気がつけば私の溜まりきった思いを口から吐き出していた。


「貴方···何様?どうして私が貴方にこんな扱いをされなくてはならないのかしら?昨日もそう。私は我慢したわ。···王命結婚だったとしても、政略結婚と同じなのよ。私は、貴方との結婚に希望を抱いたわ。私は昨日、一生を笑って共に歩み寄り添っていく努力をし、ラングイット様と共に幸せになろうと思いながら結婚式に向かったわ。そんな私を、貴方は···結婚する直前、神のおわす扉の前で地獄につき落としたの。今だってそうよ。私が何かした?私を取り巻く男共?何よそれ?貴方は私の何を知ってそう言うのよ。勝手に私を妄想して蔑んでいるわけ?」


「勝手に妄想などしていないが?遊び歩くのを控えてくれないか?」


「遊び歩くだなんて、私は遊びで外出しているわけでは···あり···ません···」



 全く話にならない。もう帰りたい。初めからこんなことになるなんて、結婚しなきゃよかった。彼との結婚を喜んでいた私が馬鹿だった。最初から嫌われているだなんて、知らなかった。


 涙が次々と溢れては流れ落ちる。


 私は目の前の扉を勢いよく開けてそこから立ち去ろうとした。


 しかし、扉に手をかけたところで後ろから腕を掴まれた。動けなくなり後ろを振り返ると、大きく目を見開いた彼が私の腕を掴んでいた。


「待て、まだ話は終わっていない」



 すぐ後ろに彼がいたこと。待てと言われたこと。腕を掴まれたこと。


 私は恐怖した。思考がとまった。多分、私は限界だったのだ。


「フェルーナ様!」


 ソフィアの声が遠くで聞こえたような気がした。


 そして次の瞬間、目の前がまばゆい光に覆われると、私は床の上に崩れるようにして目を閉じた。





誤字脱字がありましたら

申し訳ありません。

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