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4ー7 リリアンヌ3

お読み下さりありがとうございます。


リリアンヌ編は今回で終わりです。




 冬季休暇も終わり卒業式が間近に迫ってくる。

 学院内は卒業を目前に浮き足立った学院生たちが多く、羽目を外す人もちらほらと見受けられる。


 そんな中で、一番心ここに在らずなのは……私ね。


 毎日のように学院生の男子からプロポーズを受けている。正直うざいくらいだけど。

 しかし、以前の私と今の私は気持ちが違う。そう、私は大らかな気持ちで毎日を過ごしている。


『王子妃になるのだもの。皆には悠然とした態度を見せることも必要よね』


 そう優越感に浸りながら最後の学院生活を満喫しているのだ。


 だって、仕方がない。

 サイラス殿下との初めての夜が素晴らし過ぎたのだもの。いつもの三人とは違って、ちょっと乱暴気味に扱われるのが凄く良かった。

 それに、あれから何度か体を重ねたが、毎回違ったことをしてくれる。私を飽きさせないのだ。

 いつも変装している彼だが、結婚すれば本来の姿の彼との夜が楽しめる。そう思っただけで興奮し歓喜で体が震える。




 そんな中、卒業式の前日。

 教室中、いや、学院中が湧きだった。


「ねぇねぇ、聞いた?」

「あっ、聞いたわ。ビックリよね」

「卒業生の中の一人だっていう話だったわ」

「そうなの?誰なのかしら?」



 それは、明日の卒業式にサイラス殿下が婚約者を発表するという内容だった。

 卒業生の中の一人で上位貴族ではないということしか広まっていない。サプライズの発表の為に、それ以上は明日にならないと分からないとの噂で持ちきりだ。


 明日?サイラス殿下の婚約発表!

 彼から何も聞かされていなかった私は驚愕した。でも、サプライズだという噂に当日にならないと分からないとのこと。


――全く……彼ったら

 どこまでも私を楽しませてくれるのね




 次の日、卒業式当日。

 ユリシーズ公爵夫妻とカルヴァインの4人で学院へと向う。


 馬車の中では、今日の卒業式は上位貴族らが勢揃いするのだとカルヴァインが言った。


「学院の卒業式には貴族の方達も出席する決まりがあるのですか?」


 私は首を傾げて公爵様に聞く。公爵様は眉間にしわを寄せて「初めてのことだ」と冷ややかな瞳で私を見た。夫人は馬車の窓の外をずっと見ている。夫婦喧嘩でもしたのだろうか?今日の夫妻は何やら変だ。私の卒業式の日に、機嫌が悪いとかやめてほしい。


「リリアンヌのこんなに可愛らしい姿を見るのも今日で最後になると思うと淋しいよ。学院を卒業したらラブリードレスは着れないからね。ハハッ」


「笑、笑うことはないでしょう?ずっと憧れていたドレスがたまたまこれだったのよ。仕立ててくれたデザイナーや針子の方も褒めて下さったわ」


「あぁ。可愛らしいよ。リリアンヌにとても似合っているよ」


 今日の卒業式に着るために、ユリシーズ公爵様が私の為に半年前から作り始めたドレスは、藤色と白のたくさんのフリルを何枚も重ねて作られたものに白のレースの大きなリボンがついた可愛らしいラブリードレス。ドレスと同じフリルで作ってもらった花の形の髪飾りも私の桃色の髪にとてもよく似合う。


「きっと今日の卒業式では、リリアンヌが1番人目を引くと思うよ。ハハッ」


「ありがとう」


 何?今の笑いは……。本当に毎回腹が立つことしか言えないんだから。

 笑っていられるのも今だけよ。今日はカルヴァインをギャフンと言わせてあげるのだから。


 心の中でそう思いながらも、笑顔を作り彼に向けるとお礼を伝えた。



 時間より早く馬車が学院の門を通過する。

 卒業式の来賓として上位貴族が集まる中でユリシーズ公爵家の登場に次々と挨拶に来る貴族夫妻が後を絶たない。


 しばらくすると王家の家紋が付けられた大きな馬車が到着した。

 第一王子のアルキス殿下が先に馬車から降りると、王妃様がアルキス殿下のエスコートで馬車から降りる。次に国王陛下が馬車から顔をだし、最後にサイラス殿下が降りてきた。

 王家が会場に向かい歩きだすと次に6大公爵家、その後ろに6大侯爵家のメンツが次々と会場に向かって歩きだす。少し間を置いたところで最後に伯爵家が会場入りした。


 受付では、まだ会場入りしていない貴族がいるということでしばらく会場の入り口を開けたままにしていたが、すぐに馬車が会場前に停められた。


 降りてきたのはラングイットとあの女だ。二人は揃いの色の着こなしをして、微笑みながら寄り添っている。受付を済ませて会場入りする二人の仲睦まじい姿を見ると、なぜか無性にイラついた。


 卒業生の入場を前に、会場脇からサイラス殿下が現れた。生徒会で一緒だった卒業生と何やら話をしているようだ。


 会場の入り口の扉が開かれると、次々に卒業生らが扉をくぐりだす。


 私はサイラス殿下に合わせて扉の前まで来ると彼の腕に自身の腕を絡めた。


「サイラス殿下。ずっとお待ちしておりました。一緒に入場して下さいますか?」


 ふんわりと微笑んだ私に、彼は優しく目を細め「聖女に選んでもらえるとは···勿論だ」と言って扉に足を踏み出した。


 会場中の誰もが私達を見ている。

 この視線。とても気持ちがいいわ。


 そのとき私の視線の先にカルヴァインの姿が見えた。こちらを馬鹿にしたような視線を向けて、ニヤリ顔で笑っているようだ。


 あぁ、イラつく。

 今の私は何でも出来るかの様に優越感がマックスに差し掛かっている。

 仕方がないわね。この国の主要人たちの前で大恥をかかせてやるわ。


 そう思うと同時に私は大声を張り上げた。



「卒業式の前に、この場に集う皆様にお伝えしたいことがございます」


 私の声に会場中の視線が私に集中する。

 全体をグルリと見渡してから、サラリとした髪を手で払い除ける。

 その後で公爵の集う来賓席に視線を向けた。



「カルヴァイン・ユリシーズ様」



 私がカルヴァインの名を呼ぶと、薄笑いを浮かべながら彼はその場で無言で立ち上がる。


「私は、カルヴァイン様との婚約を破棄させていただきます」


 本当なら、卒業の後で婚約することになっているのだが、あえて私は婚約しない旨を伝える手段として、こう言葉にしたのだ。


「婚約破棄の理由をお聞きしたい」


 すると、またしてもニヤリ顔で彼は私の言葉に返事をする。

 私は、カルヴァインをギャフンと言わせるために今までずっと貴方の愚行を調べていたのだ。


「私は聖女として、不貞を許しません。カルヴァイン様の行動は、私を幻滅させました。


 その発言に、周囲は一段とざわめいた。


 皆に私が聖属性の魔力持ちだと報せるいい機会になったわ。貴族達は私の属性に驚いているようね。あぁ、楽しい。


 そして私は、カルヴァインの不貞の内容を話し始める。名を挙げた貴族令嬢たち両親らは驚愕するはずだ。

 しかし、名前を挙げられた親はというと、なんとも冷静な表情で私に視線を向けたままだ。知っていたと言うのだろうか?おかしいわ。


「名前を挙げられた者の代表として言うが、証拠を提示していただきたい」


 カルヴァインは、ニヤリ顔のまま私にそう告げる。


「証拠は私です。聖女である私の言葉に嘘、偽りはございませんわ」


「そうか。ならば私は婚約破棄を受け入れよう」


 すんなり破棄を受け入れたカルヴァインに、私は勝った喜びでニヤリ顔をお返しした。

 その後でサイラス殿下に視線を向けると、彼は私に向かって微笑んだ。

 ここでサイラス殿下が私を婚約者として発表すればいいだけなのに。彼は微笑んだまま口を開かない。

 

「聖女である私は王族へ、この国の未来のために第二王子であらせられるサイラス殿下へ嫁ぐことになります」

「···サイラス。貴方の私への思いをおっしゃって下さっていいのですよ。もう、障害は無くなりました」


 私がお膳立てしたところで、サイラス殿下の言葉を待つ。しかし、サイラス殿下は一向に言葉を発しない。


 しばらく沈黙した後で、口火を切ったのはカルヴァインだった。


「国王陛下、並びに王妃陛下にお伝えしたいことがあります。私、ユリシーズ公爵家カルヴァイン・ユリシーズは今をもって前ダイン男爵令嬢のリリアンヌ聖女候補様との偽装婚約を破棄したことをお伝えいたします。そして、先ほど聖女候補様から挙げられた貴族令嬢らは、王命のため私の協力者になって下さった方々であります」


 声高らかにカルヴァインが両陛下に告げた内容に私は耳を疑った。


――偽装?王命?協力者?



 全く何のことだか意味が分からない。


「相分かった。···永き間ご苦労であった。カルヴァイン・ユリシーズに与えた王命の偽装婚約と同時に第二王子サイラスに与えた王命、リリアンヌ前ダイン男爵令嬢聖女候補の監視を今をもって消滅とする」


――監視?



 私は突然の情報に、何が何だか意味が分からない。その場に立ち尽くしていると、隣にいたはずのサイラス殿下が「捕縛!」声を挙げる。そして、私は衛兵らに押さえ付けられた。


 ちょっと?これは何?どういうこと?どうなっているの?


 サイラス殿下か私に近寄り耳元で小声で言う。


『サラは俺じゃないよ。男娼だ。男娼相手に随分楽しめたみたいだね。それと、君はもう聖属性ではないよ』


 えっ?サラ様がサイラス殿下ではなかったの?男娼ですって?あんなにたくさんの子種を……子供が出来たらどうしよう。私は血の気が引いた。立っているのも辛い。でも、騙したなんて許せない。


「聖女である私を侮辱するなんて!証拠はあるの?サイラス!証拠を出しなさいよ!」


 私は許せなかった。私を騙した男が憎かった。サイラス殿下に恋心はなかったが、彼の綺麗な顔を愛でながら私は王子妃として一生贅沢して暮らしたかっただけなのに。


「カルヴァインの証拠を出せなかった君が、自分の証拠をだせというのか?···あるよ。証拠を見せてあげよう」



 大広間の扉が開かれると大神官と4人の神官様が現れた。


 大神官が2つの丸い玉の説明を始める。

 それは以前、私が大神官に聖属性だと言われたときに触った石だった。

 自然と口角が上がる。


――馬鹿なサイラス殿下。



 ここで私の属性を改めて紹介するつもり?

 サイラス殿下とカルヴァインだけでは足りないわ。この国の国王も王妃も第一王子も……それとユリシーズ公爵家も潰してやる。


 聖属性だと言っただけで神官たちは慌ててた。ということは、この国だけではなく他国でも私を敬い崇める国があるはずだわ。

 どうしてもっと早く気が付かなかったのかしら。


 大神官様が説明を終えると、衛兵らが私を2つの丸い石を乗せた台座の前に連れていく。私は玉の前で後ろを振り返り、サイラス殿下を見据えた後で口に弧を描く。


「アハハハ···。サイラス、証拠を見せると言ったわね。今からこの場にいる誰しもが私を称えることになるわ。そうよ、貴方もね」


 私は笑顔で前を向くと自ら両腕を伸ばして2つの玉の上に手のひらを置く。


――な、なにこれ?以前とは違う?



 透明な丸い玉の中で黒い煙が渦を巻くようにグルグル回り始めると、次第に全体が黒に覆われていく。


「···え?···なぜ?···い···い、いやー!」


――あり得ない。

  わざと黒くなるように

    したとしか思えない。


「可笑しいわよ!以前は白に近い玉になったのに!···大神官!貴方が黒くなるように何かしたのでしょう?」


 目の前にいる大神官の両腕を掴むと神官達が私を大神官から引き剥がす。


 その後で大神官は、私を哀れむような表情を向けると口を開いた。


「リリアンヌ嬢の魔法属性は『悪』になります」


 大神官は、今目の前で行われた魔力判定の内容を大広間全体に周知したのだ。


「『悪』って、何よ!どうして私が『悪』なんて言われなきゃならないの?皆見たこともないからって、勝手に決めつけないで!』


 私の怒鳴り声に大神官は目を細める。そして、語りかけるような声音で私に話す。


「聖属性は神の与えた試練を乗り越え、神が自分の使者として相応しい人間に与えるのが『聖』なのです。試練を乗り越えられずに己の欲に溺れてしまった人間に与えられるのが『悪』という属性です。つまり、貴女は自分の欲のためにしか生きられなかった。ということになるのでしょうか。『悪』の属性の持ち主はその名の通り、他者を本能的に操り混沌へと導き、最後には国を滅ぼす存在になるのです」


「神?人間は皆、自分の欲望を満たすために生きてるわ。どうして私だけが駄目なのよ。私だって人間なんだから!好きに生きるという欲望ぐらいでこんな仕打ちをされなきゃならないの」


 そう言い返した私を大神官は残念そうに見つめる。


「分からないはずがないでしょう。貴女は好きに生きたために貴女の魔力で支配し操ることができる性奴隷を作っておいて。貴女は既に、自分の欲の為に人を操る行為をしています。大罪ですよ」


――性奴隷?何よそれ



 彼らは自分から私に言い寄って来たのよ。確かに最初は、誘った私から彼らは離れようとしたけれど『抱きついて止めたけど』、自分たちで衣服を脱いだのよ『お願いしたら自ら脱いだ』。私がお願いすると叶えてくれた『言葉通りに言う事を聞いた』。


『私の言葉に彼らは···忠実に遂行した』



 我に返り大神官に視線を向けると、顔面蒼白になっていく私を大神官は冷静な表情で見下ろしていた。大神官は小さく息を吐くと、来賓席の方へ視線をずらす。


 大神官の視線の先にいたアルキス殿下は、その視線が合図だったかのように口を開いた。


「存在自体を悪として、罪状は伏せることとする。だが、魔力の少ない下位貴族らが犠牲になっていたことだけは皆に伝えておこう」


 私とアルキス殿下の視線が合う。

 彼はその視線に表情を変えずに衛兵らに私を連れて行くように指示を出した。



 私一人に7人の衛兵を付け、厳重に柵が付けられた馬車に乗る。

 馬車か停止し、降りるように言われ扉が開かれた。連れて来られた場所は、王都の大神殿だ。

 奥にある会議室のような部屋の中でしばらく待たされる。

 ドアのノック音の次に開かれたドアから入室してきたのは大神官と神官が5名。


「リリアンヌ嬢。神殿では歴代の悪属性保持者と同じ罰を執行します」


 大神官が冷静な表情を浮かべながら私に語りかけるように話を続ける。


「まずはリリアンヌ嬢の魔力を消滅させます。魔力を消滅させると言うことは、魔力が源となるすべての機能が消滅することになります。そのため、リリアンヌ嬢の自我も消滅します。どういうことかというと、リリアンヌ嬢は生まれ変わると言うことです。記憶もない、名前もない、体以外は全て消滅します。また新たに人生を始めるという罰だと思って下さい」


「魔力消滅させるには時間が必要となります。完全に消滅するまでは外に出ることができません。期間は、約一月くらいになるかと思われます。何か質問などはありますか?」


「·····」


「何もないようなので、リリアンヌ嬢がこれから使用する部屋へと移動しましょう」


 そこは牢屋ではなく普通の部屋のようだった。部屋の前までくると着替えを渡された後で大神官は眉を下げて私に言う。


「この部屋に入室した瞬間から罰を受けることになります。食事は日に2回お持ちします。私も出来る限り毎日顔を見せるように致します」


 その後で部屋へ足を踏み入る。

 それは直ぐに暴れ出した。体の中の魔力だろうか。部屋の中の何かと戦い出したようなそんな感じで全身が震え体が重くなり冷や汗が出る。


 私は振り返り、震えながら声を絞り出す。


「た、たすけて」



 大神官はその姿を確認するかのように私を見つめると瞼を閉じる。


 

 そして、部屋のドアが静かに閉められ私の視界から誰の姿も見えなくなった。





誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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