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4ー6 リリアンヌ2

お読み下さりありがとうございます。






 夜の広場へ遊びに行った日から、月に一度はフォスタード子爵邸に泊まりに行くようになった。


 子爵夫妻はほとんど領地で過ごしているらしく、マディソンが言うには月に一度王都の邸へ顔を見せにくる程度だということだ。


 ユリシーズ公爵夫妻には、貴族令嬢たちとの繋がりを深める語らいの場として、友人のユミィーナ・フォスタードの邸に泊まりに行くと話をしている。貴族令嬢達で女子会を楽しんでいるのだということにして。


 良い友人が出来たことを夫妻は喜んでいるようだが、カルヴァインは無反応。いつものように冷ややかに目を細め紺色の瞳で横目に私を見る。馬鹿にするかのような視線が気に入らない。


 しかし、カルヴァインと結婚しないと公爵夫人になれないし。サイラス殿下とはまだ会うことも叶っていないため、今はまだ我慢するしかない。


 そんなカルヴァインにでも、私は毎回頑張って微笑みを向けてはいる。しかし、返されるのはわざとらしいニヤリ顔。あー、腹が立つ。絶対に王子妃になっていつかギャフンと言わせてやると心の中で独りごちる。


 その点、ラングイットは私を大事にしてくれる。学院を卒業するまではレイナルドとマディソンの二人で我慢するとして、その後の候補が彼なのだ。

 もう既に、私に気があるのが丸分かり。

 お茶の席で私が体を彼に密着させると目尻を下げて頰を染める。貴方のことも絶対に離さない。


 そう思っていたのに。

 彼が王命により結婚が決まるとユリシーズ公爵家の朝のお茶の時間が無くなってしまい、ラングイットとは会えない日が続くようになった。



 最高学年になると特進科と一般の教室も近くなり、集団活動の授業が一緒に行われるようになった。年に三度しかない集団活動だが、この機会を逃さないようにサイラス殿下に近づかなくてはならない。


 すると神の思し召し?かと思えるくらいの奇跡が向こうからやってきた。


「配られた番号通しがペアになって次の集団授業までに宿題を終わらせるように」


 講師がそう言うと私は手元の用紙を開いた。特進科の番号は既に黒板に提示されている。自分と同じ番号の後ろに書かれていたのは、サイラス殿下。彼と私の番号が同じだ。


 私は友人たちと集まっていたサイラス殿下の場所まで行く。


「サイラス殿下。ペアになりました、リリアンヌ・ダインと申します」


「···ダイン?ダイン男爵には令息が二人しかいなかったはずだが?···あぁ、すまない。前ダイン男爵のご令嬢だったかな?」


「は、はい。両親を事故で無くしまして、今はユリシーズ公爵家でお世話になっておりますの」


「ユリシーズ公爵家で?カルヴァインは何も言ってなかったな。そうなのか。リリアンヌ嬢は可愛らしい人だから、カルヴァインが教えてくれなかったのかも知れないな」


「そ、そんな···恥ずかしいですわ」


「ハハッ。冗談ですよ。そんなことより、ペアになって早々申し訳ないのだが···私は学院では生徒会長の仕事もあるし、学院が終わると同時に帰城しなくてはならなくてね」


「お忙しいのですね」


「昼休憩も生徒会の仕事があるし、集団活動の宿題は各々で終わらせた物を後から確認し合い、まとめた物を提出するようにしたいのだが。それでもいいだろうか」


「はい。サイラス殿下の都合に合わせます」


「ありがとう。助かるよ。では、終わったら特進科まで持ってきてもらえるかな?その時に、私が終わった分を渡そう」


「はい。分かりました」


 そう話した後、サイラス殿下は席に戻っていく。


 皆の前だからって、サイラス殿下は照れているのかしら?サッサと離れてしまうなんて淋しいな。

 しかし、今の会話……なんだか変だったわ。


 私は前ダイン男爵の令嬢?では、今のダイン男爵は誰なのかしら?

 そして……私は気がつかなくていいことを気がついてしまった。

 前ダイン男爵の子供だった私。両親がいなくなり他の人がダイン男爵となったということは……私には名乗る姓がない。ということは……私は平民に……。


 ――嘘、嘘よ。そんなことって……



 授業中だというのに、回りから遮断されたような感覚になる。一気に血の気が引いていくのが分かるくらいに体が寒くなり震えが止まらない。


 私は俯き開いてある教科書を見ているふりをしながらしばらく考える。

 でも公爵様は、学院卒業後にカルヴァインと婚約させると言っていたわ。貴族じゃないのに……そんなことが出来るのかしら?あっ……魔力属性……?聖属性保持者だからなのだわ。


 そう考えると、今まで魔力のことなんてどうでもいいと思っていたが、違った。私はこの魔力属性に救われていたのだ。


 だったら、全面的にアピールした方がいいわよね。でも、使い方が出来ない。以前、学院を卒業後に神殿にて……と大神官って人が言っていたけど。サイラス殿下にはそれとなく聖属性だとアピールするにも、属性について一度聞いてみた方が良さそうだ。




 学院からの帰りに馬車に乗ると、御者に大神殿に向かってほしいと伝える。

 大神殿の大きな入り口をくぐると進行方向を告げてる神官が数名いた。私は1番手前の人に声をかけ、大神官に会いたいと伝えたが面会の予約がなければ会えないと言われる。私はその人に聖属性保持者だと伝えてから、聖属性のことについて教えてくれる人なら誰でもいいから合わせてほしいともう一度話をした。


 少し待つように言われるが、その神官はすぐにもう一人の神官を連れてきた。


「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」


 そう言われ、神官は入り口隣りにある小さな扉を開き私を招き入れる。小さな個室には木製のテーブルと4つ椅子が置いてあり、小窓にはステンドグラスがあしらわれている。


「大神官様に聞きたいこととは、どんなことでしょうか?私でも分かることであればお答えいたします」


「以前、丸いものに手をかざしたときに大神官が私の魔力属性は聖属性だと言っていたのです。学院を卒業したら治療魔法を神殿で修得するようにと話をされたのですが、魔力があるなら今現在も私は魔法が使えますよね?使える簡単なものがあればお聞きしたいのです」


「···な、なんと?聖属性ですと?···貴女様はどうしてその時に大神官様にお聞きにならなかったのでしょうか?」


「興味がなかったからですが?今でも興味はないのです。ただ、この属性だったが為に人生が大きく左右されているみたいなので、少しは自分のことを知っていた方がいいかな?と思い神殿に来たのです」


「···興味なしですか。私から話せることは限られていますが、魔法を使って治癒ができるのは聖属性だけなのです。大変美しい魔力なので、保持者の姿にもその美しさが現れるといわれています。皆が美しいものに惹かれて行くのは人の性です。穢れのない美しい慈悲の心を持つ者に宿る魔力と言われる聖属性が行使できる魔法は治療魔法となります」


――魔力も、保持者も美しい



 今の話からすると、美しさに皆が私に惹かれていくということなら魔法が使えない方が楽に生きられる?って、ことよね。


 やっぱり、治療魔法なんか必要ないわ。

 だって、治療は医師の仕事だし。

 魔法で治療だなんて、私自身が仕事をするってことよね?そんなのは絶対に嫌だもの。


 結論からすると、今のままが一番いいってことになるわね。私の姿を見れば見るほど美しさに惹かれていくはずだから、サイラス殿下には毎回会いに行けばいい。簡単だわ。


 神殿を後にし、馬車の中で結論を見出すと私は自然と口角が上がる。

 しかし、神殿は想像以上にガラリと飾り気のない古い建物だった。沢山の人が礼拝に訪れていて私の肩にぶつかりそうで嫌な気持ちになるし、全く魅力のない場所だ。必要な事も聞き出せたし、もう二度と神殿なんかに行きたくないと私は改めて思う。




 次の日から、サイラス殿下の特進科の教室へと毎日のように私は足を運んだ。


 最初の内は忙しいからと相手にしてもらえなかったが、毎回行くことで私の姿と魔力の美しさに魅了されてきたのだろう。

 今では彼は私の虜になっているようだ。


 冷ややかだった視線は柔らかな目元に変わり、距離も縮んできた。そして、先日はなんと冗談交じりで腕を絡ませてみたら彼は目を見開いた後で優しく微笑んだのだ。


 そろそろサイラス殿下との恋仲を進展させたかった私は、明後日からの冬季休暇を前に彼を誘ってみることにした。


「サイラス殿下とペアを組ませて頂いて、成績も満点を得ることが出来ました。お礼と言うわけではないのですが、サイラス殿下にお見せしたい素敵な光景が見られる場所があるのですが、お嫌でなければ一緒に見に行きませんか?」


 彼はしばらく右手を顎に添えながら考えた後で柔らかに微笑む。


「容姿が目立つため、変装してもいいか?」


「はい!サイラス殿下の変装した姿。とても楽しみですわ」


 そうして冬季休暇が終わる三日前なら予定を入れられるとサイラス殿下に言われ、夜の待ち合わせに彼は驚いたようだったがデートに行く約束を取り付けることができた。





 冬季休暇中、二泊をレイナルドの領地の邸で過ごす。バラクール領はとても田舎で畑しかない。王都にあるフォスタード子爵邸では誰かの目に止まるかも知れないが、ここでは人目を気にしなくてもいいと思うと開放感に満たされる。

 

 夏季長期休暇中にレイナルドの仲間だという友人ローレン・ロックがお泊り会へ新たに加わった。

 1つ年上のレイナルドは学院卒業と共に2年間の騎士育成学科へと進学した。そこで出会ったのがローレンだ。彼はロック伯爵家の三男で、レイナルドと寮の部屋が一緒らしい。小さな頃から身体を鍛えている彼は、長身で大きな体は締まりの良い筋肉質、見ているだけで惚れ惚れするのだとレイナルドが言っていた。そして私もローレンに会いたいとお願いしてレイナルドに連れてきてもらった。


 初めて彼が仲間入りしてからは、毎回4人で朝まで楽しい時間を過している。ローレンは疲れを知らないらしく、レイナルドとマディソンが疲れ果ててもローレンが最後まで私の相手をし続けてくれる。


 楽しいお泊り会を終え、ユリシーズ公爵邸へと帰ってきた日。夕食の席にラングイットの妻になった女がいた。そう、王子様二人に選ばれなかった可哀想な女。


 ラングイットの結婚式で彼女の姿に驚いた。この女は、王城の四阿で王子二人を誑かしていた人だ。それがラングイットなんかに嫁がさられるなんて、笑えたわ。


 無言に近い食事の席に、何かあったのだろうと察すると私は明後日のサイラス殿下との夜に備えるため、サッサと食事を済ませ先に部屋へと戻らせてもらった。




 待ち合わせの時間の10分前に広場の入り口に到着した。ここはレイナルドに初めて連れてきてもらった噴水の広場。

 馬車から降りて入り口に足を進めると後ろから声をかけられた。


「お嬢さん。夜の街を一人で歩いていると危ないよ」


 私は瞬時に振り返る。

 知らない顔に知らない声音。しかし、かなりの美丈夫だ。彼は美しい顔を私に近づけ覗き込んできた。私は眉間にしわを寄せて首を傾げる。


「魔法で姿を変えてもらった。変装してくると言っただろう?この姿はどうかな?」


 茶色の髪に葡萄色した瞳。街の若者風な装いの彼は両手を広げニコリと私に自分の姿を確認させた。


「あっ。そうでした。気がつかなくて申し訳ございません」


「誰もが気がつかないように姿を変えたんだ。雰囲気も声も変えてもらったからね。今夜は俺のことをサラと呼んでくれ。バレてしまえば帰るしかないからね」


「ふふっ。分かりました。ではサラ様、行きましょう」


 微笑みながら私は彼の腕に自身の腕を絡ませて、寄り添うように広場の中へと足を踏み出した。



 澄んだ夜空には星が輝きを増したこの時間。噴水の水に星の光が反射して、水しぶきが1つの星のように光り輝く。


 サイラス殿下と一緒に見る噴水に、私はうっとりとそれを見ていた。


「キラキラと水が光を発しているかのようで綺麗だな。しかし、君がこの時間この場所のことを知っていたなんて以外だったよ」


「ふふっ。友人に連れられて来たのです。初めて見たときは、とても美しい噴水に胸が高鳴りましたわ」


「サラ様、何か食べましょう。露店の食べ物は口にできますか?」


「あぁ。食べられるよ。それに、この美味しそうな香りには抗えないな」


 二人で露店を回り食べ物を選んだ後で、サイラス殿下を一番奥のテーブルへと促す。

 テーブルの数歩手前で飲み物を買いに私は露店に戻り、アルコールの強いものと薄いカクテルを作ってもらいテーブルへ戻った。


「薄いアルコールの入った果実水なのですが、サラ様は飲めますか?」


「ありがとう。何ならエールも飲める。好きだからな」


「まぁ。では二杯目はエールにしましょう」


 そう言って、彼にはアルコールの強い方のジョッキを渡す。

 乾杯をしてから、先日やっと終わった学院での集団活動の宿題の話をしだす。すると彼は人差し指を私の唇に押し当てた。


「今夜はせっかくのデートだろう?学院の話や王城の話はしたくないな。それより、君が毎日どのように過ごしているのかが興味深い」


 私に押し当てられた彼の指が離れる。いつもと違う姿で優しい笑みを浮かべる彼もとても素敵だ。


 彼は思いの外、アルコールには強いわけではないのか三杯目の飲み物を薄い果実水にした。私はそろそろかと舌で唇を舐める。


「サラ様、今夜の思い出に隣に座らせて頂きたいのですが」


「あぁ、おいで。早く言ってくれれば、ずっと隣に座らせていたのに残念だ」


 眉を下げ彼は隣の椅子を自分の椅子とくっつける。その後で私が隣に座ると彼は私の腰に腕を回した。

 私は空いている手を彼の太腿の上に置くと下から見上げるように彼に視線を向ける。


「どうした?嫌か?」


 そう言って、私の腰を引き寄せた彼に私は瞳を潤わせた。


「嬉しいです。もっと···ずっと、くっついていたい」


 私の言葉に彼は大きく目を見開いてから瞳を細め私の耳元に顔を埋める。


「俺も、もっと···ずっと繋がりたい」


 私は歓喜で満ち溢れた。

 全身が高揚し、自然と口角が上がる。



――やっと、サイラス殿下が私に落ちた。








誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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