4ー5 リリアンヌ1
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――気に入らない。
王城へ公爵夫妻に連れられて行く。
庭園の四阿では、艶のある紅茶色した髪に蜂蜜色の瞳の女の子がいた。可愛らしいその子は、コロコロと表情を変えふんわりと微笑みながら隣に座る金髪に碧い瞳の美しい男の子二人とお茶をしている。
男の子達も楽しそうに会話をしている様子に、私は隣にいたユリシーズ公爵夫妻に「あの子達は誰ですか?」と尋ねた。
「あぁ、我が国の第一王子アルキス殿下と第二王子サイラス殿下だよ。一緒にいる···紅茶色した髪は···シベルク伯爵家のご令嬢だろう」
「王子様たちの席に、なぜシベルク伯爵家のご令嬢がいるのかしら?今日は伯爵も登城しているのかしらね?」
ユリシーズ公爵様の言葉に公爵夫人が首を傾げる。
王子という言葉に、私はしばらく二人の美しい王子様に目が釘付けになった。
しかし、解せない。
私の方が綺麗な桃色の髪色だ。
良く見れば、あの子の髪はくすんだ色をしているし瞳の色もこちらからだとぼやけて見える。なんといっても私の方が可愛らしい。
四阿からこちらに気がついて視線を向けた三人に、ペコリと頭を下げた後で可愛らしく微笑みを見せると、私は公爵夫妻が呼ぶ方へと進んでいった。
私を見た王子様たちは、可愛らしい私のことが気になるはずよ。
『王子様は、絶対私を探すはずだわ』
独り言た後で、彼女が座っている場所は直ぐに私の場所になると思えば自尊心が満たされた。
両陛下との顔合わせを終えてから神殿にて魔力属性を計測すると、聖属性だと大神官だという人が信じられないものを見るかのように「聖女候補です」と言って喜んでいた。魔力は、ある程度だがこの先直ぐに増えるだろうということだった。
大神官の声に両陛下と公爵夫妻が喜び合うが、私にはさっぱり分からない。自分の魔力の属性が聖属性で喜ぶのならまだしも、他人の私がそうだったからといってどうして喜ぶのだろうか?
「学院を卒業してから神殿でお世話をさせていただきますが、魔力の循環が安定し治癒魔法を習得できればいつでも外の世界へお帰りになれますからね」
大神官の言葉に私は眉根を寄せた。
――納得できない。
どうして?大神官は私の人生を勝手に決めるわけ?
せっかくユリシーズ公爵家にきて贅沢が当たり前になったのに、神殿になんか行くわけがないじゃない。
両親が生きていたころは、男爵家といっても質素な食べ物しか食べられなかった。ワンピースも6枚くらいしか持ってなかったし、宝石なんて一つも持っていなかった。
それがユリシーズ公爵家に来たときには新しいワンピースが20着以上、靴も帽子も宝石も服に合わせられるようにと沢山の数がクロークルームに並べられていて、今では倍の数に増えたのに。こんな生活手放すわけがないでしょう?
それに、私は運命の出会いをしたばかり。先ほど会った二人の王子のどちらかと結婚すれば、この先もっと沢山の贅沢が出来るもの。
優雅なお茶の時間には今以上の美味しい菓子がテーブルの上に並び、宝石の大きさも倍のものになる。ドレスにも宝石が散りばめられているなんて、なんて素敵な生活なのかしら。想像しただけで興奮しちゃうわ。
この先神殿に行くように言われたら、その時は涙のひとつやふたつ流してどうにかいい訳をすれば大丈夫。
ユリシーズ公爵家の方が守ってくれるわ。私のことを引き取るくらい可愛いみたいだし、行かなくていいって言うはずよ。
王城から帰るときは、公爵様は急ぎの用が出来たということで、夫人と二人で帰路についた。
私も公爵様と一緒にもう少し王城にいれば、王子たちが私を迎えに来たはずなのにと思いを巡らせた。
その日の夕方、公爵様が帰ってくると私はエントランスに走った。
「公爵様、おかえりなさい」
優しく「ただいま」と微笑む公爵様。
「公爵様、二人の王子様が私を探していたはずなのですが」
「王子殿下たちがリリアンヌを探していた?王城を出てくる際にお会いしたが···何も言ってなかったな。王子殿下たちと何かあったのかな?」
「えぇ。王城の四阿で、王子様二人と目が合ったのでお辞儀をしましたわ」
「···そうか、その後は何かあったのかな」
「いいえ?」
「···そうか」
その後、公爵様は執事と一緒に書斎へ移動した。
おかしい。私を探していなかったのだろうか?でも、私が公爵夫妻と王城へ行ったことを知っているはずなのに……あっ、公爵様に聞かなかったのは、恥ずかしくて聞けなかったのかも。
次に会えるときが楽しみだ。
「君が私の運命の人だ」「私の愛する人は君だけだ」なんて、王子二人で争う姿を想像すると、気分が高揚した。
次の日から、何度も公爵様には王城にまた行きたいとお願いしている。でも、毎回仕事で行くために私を連れては行けないと言う。
公爵様は多分恐れているんだわ。
あの日の夕食時に公爵様は、私が学院を卒業した後でカルヴァインと婚約させたいと言っていたし。可愛い私が王子様と恋仲にならないように遠ざけているのかも?今更遅いわ。出会ってしまったもの。
そうして、あれから一度も王城へは行けないまま学院へと入学する日になった。
その日、運命は目の前に現れた。
入学式の代表挨拶で壇上に上がったのは第二王子のサイラス殿下だったのだ。
彼の姿を見ただけで私の心臓音が高鳴るのが分かる。
『あぁ、私の運命の相手は貴方だったのね』
私が歓喜に震えていると、隣の席からソフィアが覗き込んでくる。その視線がうっとおしくて、私のことを見ないように告げると彼女はクスッと笑って視線をずらした。
公爵邸の侍女なんかしているくせに……。私に対する態度が気にいらないのよね。邸でも学院でも、この女の顔を見るのは嫌だわ。この女だけじゃなく、他に二人の侍女もこの場にいるのが気に入らない。
入学式が終わるとすぐに私はサイラス殿下の元へと急いで足を運ぶ。私の方から会いに行ってあげるのだ。彼の喜ぶ顔が浮かび上がる。それなのに、彼は式が終わると学生たちの退場の場にいなかった。
サイラス殿下は来賓の方々と別のルートで退場していた。
仕方がない。明日の朝一番で会いに行ってあげましょう。
そして次の日、驚きの事実を知る。
特進科のサイラス殿下の教室と一般科の私の教室は建物が違う。
一般科の最初の一年は平民から入学してきた人達が貴族たちとの学生生活を覚える期間でもあるが故に建物が別になっているらしい。面倒事を学院側が避けるため、一年一般科の生徒はそちらの建物には立入禁止とされていた。
こんなに近くにいるのに共に過ごす時間がないだなんて。
気落ちしてのスタートだったが、いざ学院生活が始まると案外楽しい日々を過ごし始められた。
学生たちが私を持て囃し始めたからだ。
ユリシーズ公爵邸に住んでいる男爵令嬢が一般科にいるという噂から私を見ているようだった。私はそんな令息令嬢らに微笑みながら対応してると、見ているだけではなくて声をかけてくるようになった。
そうして友人がたくさん出来た。
沢山の友人らと話す時間はとても楽しい。私が笑えば可愛らしいと皆が声を揃えて言うし、私が歩けば皆がついて歩いてくる。
そんな中でちらほらと、私に想いを寄せてくる令息らが現れる。婚約者がまだ決まっていないと知った令息らだ。
頰を赤らめて自らの想いを私に伝えてくる彼らは、毎回私を高揚させてくれる。凄く気分がいい。
弧を描き口角が自ずと上がった私の口から発する言葉は毎回同じで。
「私の学院の卒業と共にユリシーズ公爵様が婚約者を選ぶことになっているのよ。恋仲にはなれないけれど、ありがとう。――様の気持ちはとても嬉しかったわ。これからは友人ではなく、友人以上の仲になれたと思ってもいいかしら」
頰に手を添えながら恥ずかし気味にふんわりとした微笑みを向ける。
それだけで彼らは、自分は特別になれたのだと勝手に勘違いをしてくれる。あぁ、楽しい!
あっと言う間に1年間が過ぎ去った。
2年に進級すると、いよいよサイラス殿下と同じ学び舎になる。私は心を弾ませた。
昼休憩に皆で初めて学食へと足を運ぶ。やっとサイラス殿下に会って話しができる。学食までの廊下では皆と何を話ながら歩いて来たのかすらも覚えていないほど胸が高鳴り、学食の扉の中へ足を踏み入れる。
またしても想いは砕かれた。
サイラス殿下の姿はそこにもなかった。高位貴族用の学食が別に設けられているのだという。せっかく楽しみにしていたのに。
気を取り直してテーブルへと座り食事を皆で楽しんでいると隣のテーブルから声をかけられた。
「こんにちは。君がリリアンヌ嬢?噂通り魅力的だな。あぁ、俺は一般科三年のレイナルド・バラクールだ」
話をすると、私の回りには今まで居なかったタイプの遊び人って感じの印象だけど、見目も悪くなく会話のテンポも良い。
学食をいつも使用しているという彼とはすぐに打ち解け、いつの間にか親しい友人と進展していった。
彼と初めて学食で会ってから一月が過ぎた頃だ。
「リリアンヌは、まだ王都へ遊びに行ったことがないんだよな。週末にでも一緒に行かないか?あー、二人きりじゃ不味いだろうから友人も連れて行くよ」
会話の途中切りが良いところで、レイナルドはサラリと私をデートに誘う。自然に私も「うん。いいわ」と返事を返す。
「夜になると、目茶苦茶綺麗な噴水が見られる広場があるんだ。それと、楽しい奴らが集まる店もある。令嬢達もお忍びで遊びに来ている場所だから危なくない」
私の人生初のデートは夜のお誘いだった。夜に外出するとなると、ユリシーズ公爵邸から外出するのは難しいと私が言うと、じゃぁ泊りで出てくればどうだろうかと彼が言った。
「王都に邸を持つ友人のところに泊まればいいよ。彼の妹が一般科一年にいるから紹介するよ。俺も泊まるようにすれば心細くないだろう?」
優しく微笑みながら「楽しみだな」と言われ、私も初めての夜遊びとお泊りがウキウキと楽しみになった。
当日の夕方、フォスタード子爵邸の前で馬車を降りると、先日紹介されたユミィーナが玄関前で迎えてくれた。
レイナルドの友人マディソン・フォスタードの妹である彼女は、馬車が私を降ろし動き出すまでは笑顔で対応していた。しかし、馬車が動き出すと笑顔を消す。使用人に、応接室に私を案内するように言い彼女は一人邸内へと入っていった。私のことが嫌いみたい。
応接室では、すでにレイナルドが来ていてマディソンとボードゲームで遊んでいた。
二人は制服姿とは違ってベストにパンツを履いただけのラフな着こなしでシャツの胸元を開いて着崩した感じだ。
遊び人風のその姿に私は頰を赤らめる。
「お!来たな。ちょっと待っててくれ、もう少しで勝敗が決まるから」
「リリアンヌ、こちらにおいで。菓子があるから食べて待っているといい」
マディソンの斜め前のソファーに座り、菓子を頂き始め30分位したところでレイナルドが勝ちゲームが終了した。
「ハハッ!今夜はマディソンのご馳走だ!」
「いい勝負だったのに最後にあんな手を打つなんてな。ちょっと悔しいな」
二人がゲームを片付けながら楽しそうに笑い、薄手のジャケットを羽織ったところで私達は夜の王都へと足を踏み出した。
月明かりに煌めく噴水が綺麗な広場の手前では露店が並ぶ。
日中の露店とは違い、食事を提供している露店ばかりだ。噴水周りには簡易式のテーブルと椅子が沢山置かれていて、露店で買った後でそこで食事を楽しんでいる。
「リリアンヌは何が食べたい?」
テーブルを確保してくると言い、マディソンは先に噴水周りにある空いたテーブルを探しに行った。
私とレイナルドは串焼きや煮込み料理などを買いマディソンの待つテーブルへと次々に並べた。最後にエールを2つレイナルドが購入すると、私に「何が飲みたい?」と聞いてきた。飲酒をしたことがないと告げると果実水を勧められたが、この場の雰囲気を楽しみたい私は彼に一緒にお酒を飲みたいと言う。
「初めてでも飲みやすいカクテルを作ってくれますか?」
露店のお兄さんは桃の味の薄めたカクテルをジョッキに注いでくれた。
3人で乾杯した後でそれらを食す。
しかし、二人はほとんど食べずに飲んでいるだけ。私はまだ半分も飲んでいないのに、彼らは三杯目に口を付け始めた。私は一気に残りを飲み干すと2杯目をマディソンが購入してきてくれた。領地の話や学院での授業の話、色々な話をしながら楽しく時間が過ぎていった。
フォスタード子爵邸に戻って来ると、レイナルドとマディソンが客室へと私を運んでくれた。二人はマディソンの部屋で寝ると言い、レイナルドが私をベットの上に置く。そのとき、屈んだレイナルドのシャツの隙間から胸元が見えた。
体が瞬時に熱くなる。魔力が暴れるような感じがする。部屋から出ていこうとする二人を呼び止めると、私はベットから降りてレイナルドに抱きついた。
「淋しいわ。二人とも私を一人にして行かないで」
レイナルドは固まったまま私を見下ろす。
「……リリアンヌ。どうしてほしいんだ。希望する通りにしてあげるよ」
「レ、レイナルド!ヤバいって」
レイナルドの言葉に、マディソンが慌ててレイナルドを揺すった。そして無理矢理レイナルドを引っ張り扉に向かおうとする。
私はレイナルドから離れマディソンに抱きつき、それを止める。
「お願いマディソン!行かないで」
マディソンが動きを止め私に振り返ると眉を下げた。
「リリアンヌが行くなと言うなら行かないよ。……どうしてほしいの?」
「シャツを脱いで。触ってみたいの」
私は彼らのシャツの中を見たかった。触れたかった。
マディソンがボタンを外し終えると私は歓喜した。男性の体がこんなに綺麗だとは思わなかった。手で触りだすがそれだけでは足りない。
振り返るとレイナルドもシャツを脱いでいた。私は二人に全て脱ぎ捨て一緒にベットで寝ようと言った。
次の日、ユリシーズ公爵邸へ帰ってくると、私は馬車から降りるときにわざと転んだ振りをした。
「腰をぶつけたみたいで、歩けません」
そう言うと、執事が公爵様を呼んできた。公爵様に抱えられ部屋へと運ばれる。医師を呼んだので、安静にしているようにとい言い残し公爵様は部屋を後にした。
2日ほど休んで学院へ行く。
皆が馬車から降りる際に足を踏み外したという私を心配してくれているようだ。男爵家にいた頃であれば、自分の不注意だと言う人しかいなかったと思う。当初は嘘をついたことで後ろめたさがあったが、こんなに心配して気にかけてもらえるのならば、嘘をつくのは悪くない。嘘をついて人を傷つけた訳でもないし、このくらいの嘘なら全然いいかも。
昼休憩時に、学食でレイナルドとマディソンが私の顔を眉を下げて覗き込んだ。心配してくれたようだ。
「体は大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
食事の後の二人の様子がいつもと違って、しどろもどろとした会話に私は首を傾げる。どうやら、罪悪感を感じている様子だ。教室へと戻る際に、私は二人に小声で言う。
「とても素敵な夜だったわ。また近い内に3人で――」
二人は面食らった顔をする。
その後で私が優しく微笑みかけると、二人はトロンとした表情に変わりコクリと頷いた。
二人のとろけるような表情を見て、私のお腹の奥がうずく。
あんなに素敵な夜を知ったばかりなのに、味わい尽くすまで絶対に貴方達を離すわけがないじゃない。
――私は貴方達を逃がさない。
誤字脱字がありましたら
申し訳ございません。




