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4ー1 談話

お読み下さりありがとうございます





「突然ソフィアの名前が呼ばれてビックリしたわ」



 学園の卒業式後、初めてソフィアが私の部屋に現れたのをいいことに、私は彼女をソファーへ座らせた。


 そして今、ソフィアが入室してきた際に押してきたワゴンを取り上げ、私はお茶を淹れている最中だ。


 仕事を取られモジモジとしながら私をチラチラと見ているワンコのような彼女の前に、後からもう一台のワゴンを押してきたルイザが菓子を並べる。


 ミックスベリーを蒸らした後にフレッシュミントを添えるとカップをテーブルの上に置く。ルイザにも座るようにと促し、私もソフィアの対面へと腰を下ろした。


 ソフィアは俯き気味に目だけを上に向けて私とルイザを交互に見る「サラ様だったのです」とボソッと言った後で溜め息を吐いた。


 えっ?サラ様だった?

 全く意味が分からない?

 なんの話をしだしたのかしら?


「サラ様って?ソフィアが『あの女装したデカウザ男』って言っていた?」


 ルイザは、驚きの表情でソフィアに尋ねたので話が通じているらしい。私は全く分からないが。


 そんな私の様子にルイザが気づいて、彼女から補足として『サラ様』のことが語られた。



「フェルーナ様、サラ様っていうのは――」


 3週間くらい前にFC会員の紹介でリリアンヌの言動を相談されたことがあり、現地視察へ行くことになったのだとルイザが簡単に説明する。


 現地視察?FCって、本当は何の集まりなのかしら?私は更に理由が分からずだ。


 そのときに何故かカルヴァイン様も一緒に同行することになってしまい、嫁入り前の男女二人では醜聞になり兼ねないとカルヴァイン様が友人を連れて来たという。その友人が『サラ様』だった。彼はリリアンヌと面識があるため変装···女装してきたのだということだ。


 そして彼は、現地までの長い往復時間中、長々と話をするウザい男だったらしい。


「現地視察は置いといて『サラ様』が女装していた男の人だったということね」


「そうです。そして現地から邸に戻って来るときに――」


 ソフィアに婚約者がいないことを知った彼は、卒業までに婚約者が出来なかったら自分がソフィアをもらい受けると言ったらしい。


 そこまでルイザが説明すると、ソフィアが内容を付け足した。


「家は金持ちだから持参金もいらないし、高物件だと言っていたのです。そして私は冗談だと思っていたので、そのときには持参金なしでお願いしますって言葉を返しました」


「まぁ!ソフィア!その方は、貴女に一目惚れしたのかしら?私もその方にお会いしてみたいわ」


 小説の様な恋バナに心を弾ませ立ち上がると、二人は同時に溜め息をついて痛いものを見るかの様な表情を向けてきた。一応、私はこの邸の女主人なんだけど?


「フェルーナ様。思い出して下さいますか?フェルーナ様は、どうしてソフィアをソファーに座らせたのですか?」 


 ルイザが、話聞いてました?と言いたげに質問してきた。


「それは···卒業式でのことを聞こうと···」


「そうですよね。そしてソファーに座ったソフィアは『サラ様だったのです』と言いましたよね?」


「そう。それを聞いたルイザがビックリして、サラ様とソフィアの出会いを教えてくれたわ」


「その後は?」


「ソフィアが求婚されたわね」


「誰に?」


「サラ様に」


「では、卒業式でソフィアは誰に求婚されたのでしょうか?」


「そうよ!卒業式での話をしていたのだったわ。···えぇー···サ···ラ、サ··ラ··えぇー!?サ、サイラスがサラ様だったのー?」


 そうよ、すっかり小説みたいだと思ってうっとりしてしまったけど、私は卒業式でのサイラスの発言のことを聞いていたのだわ。


 ってことは、サイラスがソフィアに一目惚れしたってことよね?しかも、女装していたサイラスにソフィアは冗談だったとしても了承してしまった訳で···でも、女装したサイラスだから了承した?ソフィアは···もしかして?


「コホン!ソフィア?失礼なことだったら申し訳ないのだけれども···コホン!···ソフィアは、だ、男性よりも女性に興味があるのかしら?」


 ティーカップを片手にベリーティーを一口飲んで、呼吸を整えると私は疑問を口にした。


 二人は菓子をパクパクと食べている口の動きを止めると信じられないものを見るかのように私に視線を向けたのだ。絶対に忘れている。一応、私はこの邸の女主人なんだけど?


 私の言葉に喉を詰まらせたのは、私のせいではない。貴女達が菓子を口の中に詰め込み過ぎたせいよ。


 その姿を横目に私は席を立ち、もう一度お茶を淹れ始めた。



 卒業式での出来事は分かったとして、気になるのはその後のことだ。

 

 ふむ、それもまとめて聞いてみるか。


 レモングラスとミントを蒸らした爽やかなお茶を新しいカップに注ごうとしたときに、顔を青くしたルイザが「フェルーナ様はお座り下さいますか」と立ち上がると直ぐ様ティーポットを持ち上げ、それを淹れてくれた。


 どうやら、自分の立場を思い出したようだ。私は全然気にしないけど。



「それで、式の後から今までの出来事を教えてちょうだい。あっ、それと気になったといえば、ソフィアの後ろ盾となる伯爵家をサイラスが求めたときに、ルイザのお父様がすぐに挙手をしたわよね。それも、何かあってのことだったのかしら?」


 あのときにルイザも自分の家が挙手をしたのを見て驚いたのだと言った。式が終わって邸へ帰った後でお父様のマルグリット伯爵に聞いた内容によると、数日前に国王陛下から登城の命を受けたのだとか。そのときに、両陛下の前でサイラスからソフィアの話をされたのだと言っていた。

 ソフィアのロイド子爵家はユリシーズ公爵家の分家になるのでユリシーズ公爵家を後ろ盾とした方が話は早いのだが、そうするとユリシーズ公爵家から王子妃を嫁がせることになる。6大公爵家のバランスを考慮すると、この輿入れには無理があるのだ。そのため、政治的バランスを踏まえて公爵家と侯爵家を飛び越え伯爵家に。そして、派閥に属していない中立の沈黙を貫いているマルグリット伯爵家に王家が打診したということだった。


「そうだったのね。お父様は、どのように考えてお話を受けたのでしょうね」


「それが、ここだけの話ですが――」


 王家に恩を売ったのだと言っているそうな。時と場合にもよるが、派閥に属していない中立の貴族らを王子が後押しすることで中立派としての立場を尊重して下さることになったらしい。


「そう。国が新しく動きだすわけね。2つの意見で主に動かしていた国を3つの思想で動かして行くのはこれまた国王の手腕に期待がかかるわね」


 右手を顎に添えながら私がソフィアに視線を送ると、彼女は私は関係ないとでも思っているのだろうか?ニコニコしながら次に食べる菓子を物色中である。


「ソフィア!次は貴女の番よ!式の後のことを教えなさい」


 菓子を次々に頬張っているソフィアに呆れ顔でルイザが急かした。


「ん···。は、はい。えーと。式が終わってからですね?サイラス殿下に連れられて、式に来ていた父様と校舎内の応接室に行きました」


 ちなみに、サイラスはあれ程派手にソフィアを隣に侍らせたのに、ロイド子爵に知らせたのは、卒業パーティーが始まる直前だったということだった。


 更に、ロイド子爵には「ソフィアからは良い返事をいただいていた」と本人が了承していたことを話していたらしく「マルグリット伯爵家は後ろ盾となれ喜んでいる」など子爵令嬢が王家に嫁ぐための外堀もガッチリ埋まった話をした後で、持参金無しもアピール。

 ロイド子爵は、両陛下とサイラス殿下を前に頷くことしか出来なかったのだとか。


 そして、隣でサラサラと宰相様が文章にまとめた書面に子爵がサインをしたということだった。


「書面には、婚約期間2年間を経た後に婚姻をするみたいな内容まで書いてありました。2年間で、王子妃としての教育をするみたいです。2年って、長くないですか?」


 それを聞いた私とルイザは顔をヒクヒクとさせた。子爵令嬢で、更に一般科だった彼女が2年間しか教育期間が無いなんて···サイラスは、一日でどれだけ詰め込む気なんだろうか?


「「ソフィア。頑張って」」


 二人が一緒に声をかけるとソフィアから目を背けたことに彼女は気が付かなかった。


 気になるのはサイラスとのそれからだったのだが、書面を作成して終わりだったということだった。二人ではまだ何も話をしていないらしい。


 そこに扉のノック音とともに侍女頭のエリスさんが現れて、探していた二人を見つけると仕事が溜まっていると私に視線を向けて口を尖らせた。

 そうだった。彼女の表情を見て思い出した。ソフィアから話を一緒に聞き出そうとエリスさんに言ってあったのだった。


「エリスさんも、少しだけ休憩していって下さい。ソフィア、エリスさんのお茶をすぐに用意してくれる?エルザは菓子の用意をお願いしますわ」


 そうして、ソフィアの話をもう一度最初から聞くことになったのだ。


 みんなが部屋から出ていったところで、ふと思い出したのだが···そういえば、現地視察ってなんだったのかしら?カルヴァイン様とサイラス、ソフィアの3人で?


 そう思いながらテーブルの上に残された菓子に手を伸ばすと、私は今日初めての菓子を堪能した。




誤字脱字がありましたら

申し訳ございません

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