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3ー7 断罪

お読み下さりありがとうございます



 ラングイットと私の様子に母様の視線が突き刺さる。母様のお叱りの表情に気まずい思いで俯くと、突然会場内に大きな声が響き渡り、私はそちらに視線を移した。


「卒業式の前に、この場に集う皆様にお伝えしたいことがございます」


 大声を張り上げたのは、第二王子のサイラスの隣に立つリリアンヌだ。


 桃色のサラリとした髪に藤色の瞳をもつ彼女は、フワリとした瞳と同じ色の藤色のドレスに白のレースのリボンがついた可愛らしい装いだ。そして、可愛らしい声を張り上げて全体をグルリと見渡した。



 ざわめきたつ会場は、一瞬にして静かになると誰もがリリアンヌに視線を向けている。


 サラリとした髪を手で払い除けると、次に藤色の瞳を潤わせながら公爵の集う来賓席に視線を向けた。


「カルヴァイン・ユリシーズ様」


 リリアンヌに可愛らしい声で名前を呼ばれると、薄笑いを浮かべながらカルヴァイン様はスッと無言で立ち上がった。


「私は、カルヴァイン様との婚約を破棄させていただきます」


 なんと、最高位貴族として出席していたカルヴァイン様は、リリアンヌから婚約破棄を申し入れられた。しかし、二人は婚約していたのだろうか?


「婚約破棄の理由をお聞きしたい」


「私は聖女として、不貞を許しません。カルヴァイン様の行動は、私を幻滅させました」



 その発言に、周囲は一段とざわめいた。


 私とラングイットのいる伯爵家の集まる席では『彼女が聖女だって?』『初耳ですわ』『カルヴァイン様が婚約?』『知りませんでしたわ』などとヒソヒソと話し合っている声が聞こえてくる。


 そして、カルヴァイン様の不貞の内容をリリアンヌが話し始めると貴族令嬢たちの名が数名挙げられた。名前を挙げられた親はというと、なんとも冷静な表情でリリアンヌに視線を向けたままだ。


「名前を挙げられた者の代表としていうが、証拠を提示していただきたい」


 カルヴァイン様は、微笑みながらリリアンヌにそう告げる。


「証拠は私です。聖女である私の言葉に嘘、偽りはございませんわ」


「そうか。ならば私は婚約破棄を受け入れよう」


 すんなり破棄を受け入れたカルヴァイン様に、当然というような微笑みを彼女が返した。


「聖女である私は王族へ、この国の未来のために第二王子であらせられるサイラス殿下へ嫁ぐことになります」

「···サイラス。貴方の私への思いをおっしゃって下さっていいのですよ。もう、障害は無くなりました」


 甘い瞳をサイラスに向けて微笑んだ彼女に、彼は無反応でその様子を見ているだけだった。何の返事も返さないでいたサイラスは、次にカルヴァイン様を見た。



 婚約破棄の受け入れにざわめきたった会場は、リリアンヌの王家に嫁ぐという発言に一瞬で静まりかえり、貴族たちの視線は両陛下へと向けられた。

 誰もが沈黙の中で、両陛下の言葉を待っていた。


 しかし、陛下の言葉を待たずに口火を切ったのはサイラスとしばし無言で視線を交わしあっていたカルヴァイン様だった。


「国王陛下、並びに王妃陛下にお伝えしたいことがあります。私、ユリシーズ公爵家カルヴァイン・ユリシーズは今をもって前ダイン男爵令嬢のリリアンヌ聖女候補様との偽装婚約を破棄したことをお伝えいたします。そして、先ほど聖女候補様から挙げられた貴族令嬢らは、王命のため私の協力者になって下さった方々であります」


 声高らかにカルヴァイン様が両陛下に告げた内容に私は耳を疑った。『リリアンヌとの偽装婚約』『王命のための協力者』?


「相分かった。···永き間ご苦労であった。カルヴァイン・ユリシーズに与えた王命の偽装婚約と同時に第二王子サイラスに与えた王命、リリアンヌ前ダイン男爵令嬢聖女候補の監視を今をもって消滅とする」


 国王陛下が立ち上がり右手を掲げると、陛下と並んで立ち上がった第一王子のアルキス殿下が「衛兵!」と大声を挙げた。


 すると、大広間の各扉が開き衛兵等が会場の中央にいたリリアンヌ様と第二王子のサイラスを中心にして取り囲んだ。


 その中心にいたサイラスが「捕縛!」声を挙げると、衛兵らはリリアンヌを一気に取り押さえる。その後でリリアンヌの首と両手首、両足首に枷のようなものが付けられた。衛兵の中の5人が、その枷に触れながら魔法を行使すると枷は一度強い光を放ち、徐々に光が弱まっていく。そして最後に光が消えた。


 リリアンヌは、意味が分からずのままだったのだろう。彼女が隣に立つサイラスを震えながら見上げると、サイラスは彼女の耳元で何かを話しているようだ。彼女の顔がみるみる青ざめていく。


「聖女である私を侮辱するなんて!証拠はあるの?サイラス!証拠を出しなさいよ!」


 サイラスが話し終えた後で、リリアンヌは大広間に響き渡るくらいの怒鳴り声を上げて彼を睨みつけた。その姿に愛らしい彼女の面影は微塵もない。


「聖女?証拠?ハハッ、カルヴァインの証拠を出せなかった君が、自分の証拠をだせというのか?···あるよ。証拠を見せてあげよう」


 サイラスが、国王陛下へと視線を送ると陛下が後ろに控えていた宰相を呼び何やら話している。そして宰相は頷くと、直ぐ様大広間を急ぎ足で出ていった。


 国王陛下が立ち上がり、一瞬で大広間が静まりかえる。


「これより、魔力の判定の儀を行う。神殿より大神官を迎えてあるがゆえに、皆の者静粛に努めよ」


 その言葉を皮切りに、大広間の扉が開かれると大神官様と4人の神官様が現れ、会場の中央にいるサイラスとリリアンヌの元へと歩み始めた。


 即席で作られた台座の前に大神官様が立つと、その上に神官様らが大事に抱えてきた箱の中から水晶みたいな丸いものを2つ取り出し並べて置いた。


 それは、私にも見覚えのあるものだった。


 子供のころに王妃陛下がお忍びで神殿へと連れて行ってくれたときに見たものだ。

 魔力を判定する丸い玉『魔玉石』と呼ばれていたそれに私が両手を乗せると、黄金色の光の玉になったのだった。


 そう。そのとき私が光属性の魔力保持者だと分かった瞬間だった。


 そういえば、他の魔力保持者が触れると何色に代わるのだろうか? 


『ラングイットのときは、何色に変化したの?』


「あぁ、あれか?夜空の色だと大神官様は言ったが、黒に近い藍色だった。光属性は何色だったんだ?」


『私は黄金色だと大神官様がいっていたわ。瞳の色に似た色だって』


「黄金色···凄いな。俺も見たかった」


 目を細めて柔らかな表情を浮かべ、彼は私の瞳を覗き込むと「綺麗な蜂蜜色だ」といって微笑んだ。


「こちらの丸い玉は『魔玉石』といい、魔法の属性を調べるために使用しますが、2つの玉が揃うと『魔眼玉』と名が代わり『神の眼』となります。聖女判定を行う際には2つの玉を揃えることで真実を見ることができるのです」


 大神官様が説明を終えると、衛兵らがリリアンヌを魔眼玉を乗せた台座の前に連れていく。


 リリアンヌも、一度は触れたことがあるだろう。その2つの玉の前で後ろに振り返ると、サイラスを見据え口は弧を描く。

 そして、彼女は身をのけ反らせながら高らかに笑った。


「アハハハ···。サイラス、証拠を見せると言ったわね。今からこの場にいる誰しもが私を称えることになるわ。そうよ、貴方もね」


 これ以上ないほど幸せとでもいうかの様に彼女は至福の笑顔で前を向くと自ら両腕を伸ばして魔眼玉に触れた。


「···え?···なぜ?···い···い、いやー!」


 透明な丸い玉の中で黒い煙が渦を巻くようにグルグル回り次第に全体が黒に覆われていくと、最後には真っ黒な2つの玉になった。


「可笑しいわよ!以前は白に近い玉になったのに!···大神官!貴方が黒くなるように何かしたのでしょう?」


 そう言って、リリアンヌが目の前にいる大神官様の両腕を掴んだ。


 すると、大神官様は哀れみの表情を彼女に向けた後で、今目の前で行われた魔力判定の内容を大広間全体に周知した。


「リリアンヌ嬢の魔法属性は『悪』になります」


 この世界の一般的な魔法属性は、水、氷、火、風、土、の5つの属性だ。稀に、光、闇の2つの属性持ちが出現する。それと、大変貴重な聖属性。

 聖属性は神の領域と言われている。神の与えた試練を乗り越え、神が自分の使者として相応しい人間に与えたとされる聖。しかし、試練を乗り越えられず己の欲に溺れてしまったものに与えられるのが『悪』という属性なのだ。


 混沌をもたらす『悪』の属性の持ち主はその名の通り、他者を本能的に操り混沌へと導き、最後には国を滅ぼすとされているのだ。


 しかし、この国内で個々の属性を大々的に公表することはなかったのに。リリアンヌの属性は余程脅威なのだろう。厳重に枷まで掛けられたのだ。


 彼女は魔力漏れを起こしているために、それを防ぐためと、魔法を使えなくするために枷をはめられたのだろう。


 そして、アルキス殿下が補足として伝えた。


「存在自体を悪として、罪状は伏せることとする。だが、魔力の少ない下位貴族らが犠牲になっていたことだけは皆に伝えておこう」


 リリアンヌは鬼のような形相でアルキス殿下を見ると、彼はその視線に表情を変えずに衛兵らに彼女を連れて行くように指示を出した。






「卒業式の前に、私からも皆に伝えたいことがある」


 リリアンヌが大広間から連れ出された後で、サイラスはもう一度大声を張り上げた。


「ソフィア・ロイド。前に出てきて私の隣に立つように」




 えっ?ソフィア?今度はソフィア?どういうこと?どうしてソフィアの名前が呼ばれたの?


『ラ、ラングイット?』


「何も聞かされていない」


 ラングイットも聞かされていないという言葉に私はユリシーズ公爵家の席へと視線を向けると、なぜかカルヴァイン様が微笑を浮かべているように見えた。


 そして、卒業生達が移動し始めた。すると、集団の中にサイラスのいる場所に向って道が開けられた。


 突然、名前を呼ばれて驚いていたソフィアは顔面蒼白でその中に一人佇んでいる。


 サイラスが手を前に出すと、ソフィアが怯えながらゆっくりと歩み寄って行く。そして、前まで出てきた彼女の手を取るとサイラスは一気に抱き寄せた。


 伯爵家の来賓席へと向ってサイラスが口を開く。


「伯爵家の皆に願いを聞いて欲しい。私の隣に立つソフィア・ロイドは、ユリシーズ公爵家の分家であるロイド子爵家の令嬢である。私はこの場で両陛下にソフィアとの婚約の許しを得るつもりだ。しかし、ソフィアは子爵令嬢のため爵位が足りない。彼女の後ろ盾となってくれる家があれば名乗りでて欲しい」


「はい。喜んで後ろ盾となりましょう」


「マルグリット伯爵!嬉しい申し出、ありがとうございます」


 来賓席からマルグリット伯爵夫妻が立ち上がりサイラスへと名乗り出た。マルグリット伯爵家はルイザの家である。


 ラングイットは、目を細め「茶番だな」と言って私の髪を指でくるくると回しながら微笑んだ。確かに、返事が早すぎだったと思う。

 


 その後で、サイラスが両陛下の席へと振り返る。


「国王陛下、並びに王妃陛下にお伝えしたいことがあります。私、第二王子サイラス・ブライトは隣に立つソフィア・ロイドとの婚約の申し出をいたします。リリアンヌ聖女候補への王命を遂行した褒美として、お許し願います」


「許そう」


 結果、陛下の言葉に卒業生達の大歓声の嵐となった。


 大歓声の中、楽団の演奏が始まり続けて卒業式へと舞台が整えられると、サイラスにガッチリホールドされたソフィアが赤面しながらも笑顔で卒業式を迎えていた。


『まさかの出来後に思考がついていけません。でも、ソフィアが幸せそうで私も嬉しいですわ』


 小声でラングイットに話しかけると、彼は私から彼に向けられた笑顔の方が嬉しいと言い、柔らかな表情で微笑んだ。



「ん?そうだ。ソフィアは家の侍女だぞ?王子妃になるなら、王子妃の教育を受けなければならなくなる。新しい侍女を探さねばなるまい」


『そうですね。彼女がいなくなると、淋しくなりますわ』



 会場の中央で楽しそうにダンスを踊るソフィアが、まさか王子妃になるとは···全く予想もつかなかった出来事に私とラングイットは顔を合わせて笑い合うのだった。


 

誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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