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1ー2 商会

お読み下さりありがとうございます。


1ー2 は、私語りが多く、


1ー3 の後半から話が一気に加速します。



 日の出前。空が薄っすらと色づき始めたころ、私はいつもの時間に目を覚ました。


 伸びをした後で、大きな口を開きあくびをする。

 ふと、自分を取り囲む光景を目にし気がついた。


···あっ、ここは

  ···そうだ昨日···結婚したんだっけ



 ベッドから下りるともう一度伸びをし、昨夜ソフィアが用意してくれた水受けの水を使って歯を磨くと、洗面器にも水を注いで顔を洗った。


 寝間着から外出用のワンピースに着替え、テキパキと髪を三つ編みにし簡単に化粧を施した。


『コンッ、コンッ』


 小さなノック音がし、扉が開かれる。


『おはようございます』


「おはようございます」


 小さな声で朝の挨拶をされ普通に声を返すと、初めて顔を合わせた侍女が大きく目を見開いて私を見た。


「お、起きていらっしゃったのですか?というか、お着替えまで···」


「あっ、気にしなくていいわよ」


 朝はかなり早く起きるので嫁ぐ前も自分で全て用意していたのだと告げると、彼女は更に目を丸くした。


 金髪に緑の瞳がチャーミングな彼女はルイザ。マルグリット伯爵家の令嬢だ。3人の私付きの侍女は同学年で、私より2つ年下なのだと昨夜ソフィアから聞いていた。


「ルイザはまだ学園に在学中でしょう?こんなに早起きしたら、授業中に眠くなってしまうわよ」

「明日からは朝食だけ呼びに来てくれると助かるわ。···あっ、忘れていたわ!ここでの朝食の時間は何時になるのかしら?」


「7時ですわ」


「そう。では、朝食は馬車の中でとるので、パンを2つと水筒に温かい飲み物を入れたものを厨房にお願いして貰えるかしら?それと、7時に邸を出たいので馬車の準備をするようにも伝えてくれる?」


「分かりました。そんなに早い時間から、どちらへ行かれるのですか?」


「フフッ。仕事よ」



◇◇◇



 伯爵令嬢の私が仕事をするキッカケとなったのは、王妃様との宝石店での出会いまで遡る。


 子供の頃、私は光り輝くものが大好きだった。

 例えば、朝露に光る葉の輝き、川や湖の光の反射、星や月光などの輝きだ。それと、もちろん宝石も。よく、母様のアクセサリーを借りると日に当てキラキラと光らせて楽しんだ。  

 そして、キラキラのそれを絵に描くのが大好きだった。


 ある日、自領のジュエリーショップへ母様に連れられて行ったときのことだ。


 母様を待つ間にお絵描きをしていると、後ろから声をかけられた。


「こんにちは。素敵なアクセサリーの絵を描くのね」


 その女性は、この国オリディエン国の王妃様だった。

 幼かった私は、その人物が誰かもわからずに話し始めたのだ。


「フフッ。ありがとう。これはね、そこにある宝石が母様のネックレスになって、こんなふうだったらもっとキラキラするのにって思って描いたのよ」


「凄いわね。では···この宝石ならどんな絵になるのかしら?」


 そういって、自分の首からネックレスを外すと私の前に差し出してきた。


「この宝石なら?···ちょっと待っててね」


 それを日に当て回転させながら眺めた後で、サラサラっと絵を描く。


「はい!この子はこんな感じよ!」


「まぁ。素敵ね!ありがとう」


 そのまま店主を呼び、王妃陛下はそのネックレスと私の描いた絵を渡した。店主に作り変えるように命じたのだ。


 その日、両陛下は隣国からの帰り道に乗っていた馬車に不具合が生じたため、馬車を修理するのに伯爵領で一泊することになったという。

 まだ時間も昼を過ぎて間がない。両陛下が近くの商店街を散策しだしたところに、宝石店で私と出会ったのだった。


 出来上がった商品を店主と父様で王城へ届けるときに、私も一緒に登城した。


 王妃様に、また誉めてもらいたい一心で沢山のネックレスとイヤリングの絵を持参して。


 王妃様は、それを元にまた宝石店にアクセサリーを作らせた。


 少しすると今度は、宝石店から絵を描いてほしいと言われるようになった。


 それをキッカケに、王妃様には王城に招待されることが多くなり登城した日は王子様達と一緒にお茶菓子を食べ、よく遊んだ。二人の王子はとてもわんぱくだった。


 木に登り、池に飛び込むなどの遊びで毎回どこかしら怪我をするのだ。


 その度に医務局から医師らが駆けつけてきた。


 そんな彼らを見て育った私に、小さな願望が芽生えたのは言うまでもない。


···医師を呼ばなくても私ができれば?



 それともう一つ、女の子が欲しかったと両陛下はとても可愛がってくれた。そんな両陛下を前に私はおねだりをした。


「兄様は男の子で跡取りだから神殿で魔力を見てもらえたけど、私は女の子だからダメだといわれたの。公爵家に生まれていれば、神殿に行けたのに···ズルいわ。私も神殿に行きたい」


 この国は、王族の魔力が絶対的象徴となっていて、王家と公爵家以外の貴族らは跡取りとなる者にだけ神殿での魔力判定が許されていた。


 魔力保持者が多くなると、国を滅ぼしかねぬ事態になるのを恐れてだ。


 そのため、魔力保持者は王城にて管理されると同時に魔法を学ぶ機会も設けられている。


 すると、王妃様がお忍びで私を神殿へと連れて行ってくれたのだ。


「大変珍しい光属性の魔力保持者です。まだ子供ですので、これからが楽しみですね」


 私は、大神官様の言葉に胸を弾ませた。



 私の描いたアクセサリーのお絵描きは、現物が出来上がると同時にデザイン料がいただけた。子供の絵がお金になったのだ。


 そして、お金の使い方を知らなかった子供が溜めたお金は大金になった。


 14才になり学園に入学する前に両陛下と両親に相談し、私はそのお金を元に商会を立ち上げることにした。


 両陛下が後押しをしてくれ、商会を持っている貴族らに声をかけてくださり仕事を学び始めた。学園入学後は、その後継者らに休み時間などを活用して色々とアドバイスを敷いた。


 我が伯爵家は騎士の家系なので、両親は経営について全く何も知らずだったのだ。


 学園の休日、長期休暇も利用して商会巡りもした。経営法と医学療法を学び、最終学年になると17才でやっと自分の商会を持てたのだ。


 その頃には、学園の授業が終わると毎日のように王城の医務局へ向った。

 医務局では、たまに怪我をした騎士らが治療に来ている。


「パドリック医師!昨日の続きの実験を続けましょう!」


 私の商会が販売するのは薬だ。といっても、薬は高価なので薬草を調合したものを低価格で販売している。


 薬が買えない平民と、医師の治療の助けをしたくて始めたのが私の商会だ。それと同時に、家の騎士様達にも怪我をしたときなどその場で対応できればという思いも大きかった。

 なにせ、王子ふたりが毎回怪我をするので、私が王城へ遊びに行く日は薬を持参するようになっていたのだ。そして、薬を持ち歩くのは当然という常識が芽生えた。


 毎週決まった曜日に孤児院に行き、子供たちから薬草を買った。そう、子供たちに薬草を採取してもらっていたのだ。


「スタンリー!今回も、ありがとう。次は、この草をお願いできるかしら?広場の周りに生えているからね。いつものように、この籠1つ分だけお願いね。たくさん取ってしまうと、次にまた必要なときに生えてこなくなるからね」


「ルーナ姉ちゃん!それより早くテストして!今回も孤児院の年長組は全員書けるようになったよ!」


 孤児院の子供たちに採取する草の現物。その草の絵と名を描いた紙を渡す。そうして、生態系なども教えながら次に来るときまでにその草の名を読み書き出来るようにさせ文字を教えた。


「本当に?みんな頑張ったわね!」


 帰る前には院長に現状などを聞き、少しばかりだが穀物などの食料と、その時期に合った布や薬などを渡す。

 孤児院の年長組の子供たちには「はい。薬草代よ」パンが3個買える金額で銅貨を2枚ずつ配る。


「院長先生に、焼き菓子を渡したから後でみんなで食べてね」


 焼き菓子といっても、町で平民の子らが食べている小麦粉をミルクで溶いて焼いたもの。


 貴族らが口にする甘い菓子は、高級すぎて覚えさせない方がいいだろうと思い、毎回孤児院に訪れる際にシベルク伯爵邸の料理人らに作ってもらっている。

 更に、栄養価を高くするため焼き菓子には卵を入れてもらうため。


 孤児院を出ると、シベルク伯爵領の唯一の医師の元へと行く。受け取った薬草で薬を作るのだ。出来た薬を医師に治療で使ってもらう。


 時間があるときは、商会の事務所に顔を出す。私の商会には、学園時代の友人らが商会の主力メンバーとして顔を連ねている。


「フェルーナ様!先日、ジークの商会を通してお会いしたソシル国のクリーム。出荷の了承得ましたよ!」


「やったわね!マルクに任せて正解ね!貴族を中心に販売する予定だから、販売価格を上げて様子をみましょう」


「こちらも見てもらえますか?あと一押しなのですが、フェルーナ様はどう思われます?」


「このままで一度止めてみたらどうかしら?これ以上の仕入れ価格になると利益に繋がらないのでってことで。動かない商品に時間をかけなくていいわ。大丈夫よ、サリーの努力は違う形で返ってくるわ!」


 学園の卒業を前にして、専攻科の経営法を一緒に学んでいた友人たちだ。

 男爵や子爵令息の次男や三男、更に令嬢らが職を探していたところに声をかけた。


 それと、商会の事務所の一階には医学療法を共に学んだ友人らが薬草を使った商品開発兼既存商品の薬を作っていて、薬を販売している小さな店舗も設けている。


 顧問として、学園時代からお世話になっている各商会の令息らが足を運んで、みんなにアドバイスをしてくれるので私の出番はほとんどない。


 会計業務をしてくれているのは、シベルク伯爵家の執事の息子ラフィルだ。頼んだわけではないのだが、なぜか商会の建物が完成した次の日からこちらに来ている。


 私が帰宅すると「迷惑なときは送り返して下さい」と、邸の執事に無表情でいわれるのだ。ラフィル、もしかしたら邸に帰っていないのかも?でも、迷惑というよりかなり重宝しているので今のところ送り返す予定はない。


 商会は5階建てで、最高階には誰もが寝泊まり出来るようなスペースを設けている。それと、私の部屋も一室作ってもらった。


 徐々に起動し始めた私の商会。商会を立ち上げ学園を卒業してから1年が過ぎ、ようやく利益がでてきたころのことだった。


「ユリシーズ公爵家令息ラングイットとシベルク伯爵令嬢フェルーナの結婚を王命とする」


 あの王命が、大勢の前で言い渡された。



◇◇◇



 馬車に揺られ、初めて通る道を覚えるために馬車の小窓から外の景色を確認しながら王都にある商会の建物まで向かう。


 今日から毎朝通ることになるこの道は、思いの外早朝から馬車の通行量が多い。


「ありがとう。帰りは辻馬車を使うから迎えはいらないわ。また明日の朝も同じ時間に邸を出れるようにして下さい」


「···辻馬車···なんて!帰りもお迎えに上がります」


 御者は私の言葉に青ざめて、信じられないものを見るかのような瞳を私に向けた。


 いつものことだから大丈夫だと伝えて、私は商会の裏口のドアを開いた。




誤字脱字がありましたら

申し訳ありませんでした。

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