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3ー6 やり直し

お読み下さりありがとうございます




 公爵邸の別邸前で私が辻馬車を降りると、辻馬車は侍女のカレンを乗せたまま王都へと踵を返して走り出した。


 私が一度大きく深呼吸をしたところに邸の扉が開かれラングイットが出てきた。


「フェルーナ」


「何も告げずに···邸を出ていき、申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げると彼は私の腕を優しく掴んで「もういいから」と穏やかな声音で言った。


 頭を上げ彼の顔を見ると、下がった眉尻に彼の瞳が揺れていた。目の下には明らかにクマが出来ているし、透き通った彼の肌がくすんで見える。その表情に私は言葉を失った。こんなに心配されていたとは思わなかった。


「ドレス···よく似合っている」


 彼は柔らかく微笑み、馬車で移動しながら話をしようと言いリグニクス伯爵家の家紋の入った馬車へと乗り込んだ。


 馬車が動き出すと、対面に座った彼は私に視線を向け心苦しそうな表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。


「フェルーナ。先ずは···結婚式でのことを貴女に謝りたい。う、美しく着飾った貴女を目の前にして、貴女が俺の伴侶になると思うと緊張して···意識し過ぎてしまい。フェルーナと話そうとするたび緊張が重なっていき、言葉を発する度に傷つけてしまった。式から会場へと移動するときも、緊張して上手く会話ができないため、貴女をこれ以上傷つけたくないと黙っていたんだ」


「···は···い」


「それと、次の日のフェルーナが倒れたときのことだが。正直にいうと、俺はあのとき貴女に言ったように、貴女が遊んでいると思っていた。でも、俺なんかに嫁がされて···だからフェルーナが結婚後遊びに行くのを黙認しようと思っていた」


「···はい」


「その前日のことに戻るが、披露宴後で主寝室にフェルーナがいなくて私室へ行くと初夜なのに君は寝ていて···次の日の朝食の席には貴女がいなかった。言伝もなく早朝から王都へ言ったと聞き、戻りを待っていれば夕方だった。先程言ったと思うが、遊びに行ったことを黙認しようと思っていた。だが、夕食の席で貴女を責め立ててしまった」


「···そんなこともありましたね」


「それと先日、ユリシーズ公爵本邸の夕食の席へ貴女が行った後で、俺も本邸へと向かったときのことなのだが。そのとき、扉前で声が聞こえてきた。そのまま入室できずに会話を聞いてしまった。耳に入ってきた言葉は、俺がフェルーナを嫌っているという内容だった」


「···えっ。聞いていたのですか?」


「すまない。その次の日から、どうにか誤解を解きたくていたのだが、中々それも叶わず···領地へ向かえば、騎士等と仲睦まじく会話を弾ませているようで嫉妬した」


「···嫉妬ですか?」


「あぁ。嫉妬した。···全てが原因で、邸を出て行ったのだろう?俺がフェルーナを守っていく惟一だったはずなのに、守るどころか辛いことしか与えない夫になっていたんだ。本当に申し訳なかった」


 ずっと私の目を見て話す彼の潤んだ瞳から今にも涙が滑り落ちそうだ。そんな彼の様子に私は胸が張り裂けそうになる。


「私が、最初から自分の気持ちをフェルーナに伝えていれば···貴女がずっと辛い思いをしていると気づいていれば···しかし、今更後悔しても時間が巻き戻ることはない。今までの俺も、俺だから。だから、今日からまた···1からやり直したいんだ」


 私もだ。彼と同じで自分の気持ちを伝えていなかったのに、彼は自分の過失だと頭を下げた。


「フェルーナ。俺は、ずっと貴女が好きだった。フェルーナを幸せにしたい。そして、一緒に幸せになりたい。今、この場で誓う。一生フェルーナだけを愛し、今度こそ貴女を守り抜くと。···フェルーナ。愛している」


 彼の私を捉えている目は、真剣そのものだった。


「···私、···私も···です。私も···貴方に最初から自分の気持ちを伝えていなかった。自分だけが辛い思いをしているのだと疑わなかった。貴方が言うように、今更後悔しても時間が巻き戻ることはないわ」


「私も貴方に伝えなきゃと思っていました。ラングイット様。ずっと貴方をお慕いしていました。王命でしたが、お慕いしていた貴方と結婚できる喜びはひとしおでした。これからは、何でも話し合い、相談し、喧嘩もして下さいますか?」


 彼は眉を下げ、潤んだ瞳を細めて柔らかな笑みを私に向けた。


「あぁ、約束する。···隣に座って抱きしめてもいいか?」


「えっ?」


 返す言葉より先に隣へと移動してきた彼は、少し体を震わせながら大事なものを抱えるかのように優しく私を抱き寄せた。


「ずっと、こうしたかった」


「···私も、ずっとこうされたかったです」


 耳元で囁かれた言葉に高揚すると、自分でも知らぬ間に返事を返していた。




 馬車が停まると、そこは学園ではなく教会だった。


 馬車から降りると、彼は私に「式のやり直しだ」と頬を真っ赤に染めて言った言葉に私はクスッと笑った。


 教会に入ると、神官様がニコニコと笑顔で私達を出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。二度目なので重要な部分のやり直しでよろしいですね?」


 神官様はそう言って、片目を一瞬閉じると満面の笑みで私達をはやしたてた。


 その後で私たちは、誓いの言葉と誓いの口づけをした。


 帰りに、誓いが破られることになりそうなときはまたいらして下さいと、神官様は笑顔で送り出して下さった。


 今までの日々が嘘のように、馬車に乗り込んだ私を抱き寄せドレスから出ている素肌の全てに唇を落としてくる彼。


···なんてこと!



 ここまで豹変するとは思わなかった。とっても嬉しいが。滅茶苦茶恥ずかしい。


 いつも冷静な表情の彼が色気を露わにして私に張り付いているだ。切れ長の空色の瞳と目が合うたびに「愛してる」といって唇が重ねられる。彼の整い過ぎている顔が美し過ぎて鼻血が出そうだ。



 そうこうしていると、あっという間に学園へと着いてしまった。今朝方、カレンがポーチの中に忍ばせてくれた鏡を取り出し急いで顔を確認した後で唇を淡いローズの色でプルンと艶を出す。うん。これで大丈夫。


 更にハンカチを取り出すと、ラングイットの色気が出てしまった唇を拭いた。よし。完璧ね。


 彼は、その後でもう一度軽く唇を重ねた。


「さぁ。準備は終わった。行こう」


 彼は、そのまま馬車から降りてしまったが、冷静な顔を取り戻した彼の唇が、ほんのり色づいているのを見ると、先ほどまでの二人の時間が嘘じゃなかったと言ってくれているようで、心が弾んだ。


 受付を終えると来賓の席へと案内されるが、結婚してから初めての夫婦揃っての公の場のため、次から次へと挨拶をしながら席へと向かうことになった。


 着いた席は、伯爵家が並んで座っている場所で、隣の席にはなんと実家の両親が座っているではないか。


「やぁ、リグニクス伯爵夫妻。ん?その手の繋ぎ方はどうかと思うぞ」


「あらまぁ。クスッ·····若いっていいわね」


 父様に手の繋ぎ方を指摘されるとは思わなかった。確かに指を交互に絡めた恋人繋ぎだったが、先ほど想いが通じ合ったばかりなのだ。見て見ぬ振りぐらいしてほしい。


「連日、深夜に訪問してしまい申し訳ありませんでした」


 ラングイットが深々と頭を下げると父様は「久々に笑えた夜だった」などと、鼻で笑い飛ばした。母様はクスッと笑い「また来てね」と柔らかな表情で彼を見つめた。




 楽団の演奏が始まると、大広間の明かりが少し暗くなる。すると豪華な装飾のされた天井に向って、あらゆる方向からライトが光りだした。天井に飾られた、いくつものシャンデリアがキラキラと虹色の光を放ちだし、その光の中に卒業生らが入場してきた。



「2年前を思い出すわ」


「あぁ。フェルーナは、ベルベットのボルドー色を基調にゴールドの装飾が付いた美しいラインのドレスを着ていた。とても凛としていて美しかった」


「うそ!見ていたの?」


「ん?あぁ。コッソリと」


「あ、貴方も···襟にシルバーのラインが入った黒のタキシード。とてもカッコ良かった」


「見てくれていたのか」


 切れ長の目を細め私の顔に向って下りてくる顔を手で制す。


「誰も見ていない」


 いや、そういう問題ではないでしょう。




「私はバッチリ見てますよ」


 空気を読んだ母様は、ラングイットの袖をクイッと引っ張ると笑顔でそう言った。目だけは笑っていなかったのだが、彼が気がついたかどうかは分からない。


「あっ!ルイザがいたわ。ソフィアとマリアナも見つけたわ···えっ?リリアンヌ様をエスコートしているのは···サイラス?えっ?どういうこと?」


 婚約者のいない第二王子のサイラスがリリアンヌをエスコートして場内入りをした。

 異例な登場に会場内がざわつきだす。


 もちろん、伯爵家が集まっている来賓の席でもざわめき出したのだが。対面の来賓席では、両陛下と第一王子のアルキス殿下、6大公爵家と6大侯爵家のメンツが勢揃いしているが黙認しているかのように静まり返っている。


 ユリシーズ公爵家の席には、義両親とカルヴァイン様の顔が見えるが何事もなく平静を装ってるように卒業生らに視線を送っていた。


『ラングイット。どういうことなの?リリアンヌ様をサイラスがエスコートしているなんて――』


「ん?分からない」


 ラングイットに小声で状況の説明を求めたが、彼も知らなかったらしい。


『ラ、ラングイットは平気なの?サイラスがリリアンヌ様を···エ、エスコートしているのを見て――』


「は?リリアンヌ?何とも思わないが?···もしかして···未だに誤解しているのか?」


『誤解?』


「俺は、リリアンヌを慕ったことなどない。妹のように思ったことはあったが」


『え?魅了···は···』


「以前、彼女の近くにいるときに自分が自分でなくなる感覚があった。そのときに仲の良かった友人に頼んで魔法を無効化するブレスレットを購入した。装着してから自我が無くなることはなくなった。···本当は、フェルーナには俺の魔力が成長しきっていないのを知られたくなかったが、きちんと話をしておかなければまた不安になるだろう?あぁ、でも先日魔力が急成長をしたんだった」


 そう言って、彼は私の頬に唇を当てた。


『な、な、な···』


「な?どうした」


『···人前ではやめて――』


 すると母様が、またラングイットの袖をクイッと引っ張った。「いい加減にしなさい」今度は笑顔を貼り付ける余裕がなかったのだろう。

 母様は、鬼のような形相で彼を睨んでいた。






誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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