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2ー6 ソフィア4

お読み下さりありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございました。




 キャサリンとの約束の日。私は今、バラクール男爵領に向かって馬車に揺られている。


「ソフィアは、どうしてリリアンヌ嬢の素行調査なんてしてるの?」


 馬車の中で向かい側に座っている『とびっきりの美人』は顔にかかった茶色の長い髪が邪魔らしく、それを右手で後ろに払うと澄んだブルーの瞳を輝かせて私を覗き込んだ。


 彼は好奇心旺盛らしい。


 馬車での移動中、ことあるごとにずっとこの調子だ。私が話をしている内容に興味津々のようで、疑問に思ったことを直ぐになんでも聞いてくる。


「サラ様。カツラが曲がってしまいますよ」


 そう、カルヴァイン様の友人だという『とびっきりの美人』は、男だった。なぜ女装しているのかと尋ねてみると、リリアンヌとは面識があるために変装して来たのだと言う。しかし、なにも女装までしなくてもいいのでは?と私が呆れ顔で言えば、彼は「カルヴァインが、美人を連れて来るとソフィアに言った」と言われたらしく、せっかくだから女性になってみたのだと慎ましい笑みを浮かべた。


「カルヴァインが『とびっきりの美人』をご所望したからね。どうかな?とびっきりの美人に見えるかい?」


···テンション高!

···だんだんウザくなってきたー



 迎えに来てくれた馬車に乗り込むと彼の美しさに見惚れてしまった。澄んだブルーの瞳に吸い込まれたかのように私は目が離せなかった。

 それから「始めまして」と声をかけられたときは絶句した。その辺の美しい令嬢なんかより、よっぽど美しいその人の声は、男性の声音だった。せっかく女装するなら女騎士に変装してほしかったが。


 名を聞けば「サラブレッド!今は女装中だから···サラって呼んでくれる?」


 サラブレッド?絶対嘘だろう。まぁ、今だけの付き合いなんだし、なんでもいいか。



 目的地に向かいながら走る馬車から外の景色に目を向けると、真っ暗な空に星が輝いていた。会話に夢中で、いつの間にかすっかり夜を迎えていたらしい。


 到着したら起こして欲しいとサラ様がしばしの眠りにつくと、カルヴァイン様は両腕を胸の前で組み私に穏やかな表情を浮かべた。


「ソフィアは何がしたくて今夜の情報をラングイットに話したのだ?」


「···勝手なことをするなと言うことでしょうか」


「いや。理由を聞いていなかったから気になっただけだよ」


 私は、フェルーナ様のお役に立ちたかったからだと正直な気持ちを告げた。


 フェルーナ様は嫁いできた日から、私たち使用人たちには毎日笑顔を見せてくれている。でも、彼女の笑顔には寂しさが見え隠れしているのだ。いくら使用人たちが居るにしても、彼女は一人だ。


 家族に愛されてきた令嬢が、突然敵だと言われている家門へと嫁いできたのに、公爵家では誰も彼女を受け入れていないような対応にしか見えない。言い方を変えれば、見て見ぬ振りをしているようなそんな感じだろか。


 公爵家で頼れるはずの相手もいなく、一人気張って毎日を過ごしているのを見ているのがとても辛いのだ。 

 更に公爵家では休まる場所もないのだろう。嫁いできてから休みなく仕事へと出掛ける彼女がそれを物語っている。


 フェルーナ様がラングイットの対になる唯一の魔法属性だと理解し、この場に留まってくれたのにも関わらず、その後は?放置ですか?彼女が今どんな思いで公爵邸にいるのかと···考えると不憫でならない。


「以前、フェルーナ様が倒られて意識を取り戻したときに、カルヴァイン様にラングイットの魔法属性をお聞きになった後、彼女が淑女の仮面を剥がしたのを覚えていますよね?実は、その次の日にフェルーナ様が王妃様に呼ばれたのです」


「その日フェルーナ様は、まだ情緒不安定だったのでしょう。王妃様と話された後で、私に心の内を告げて下さいました」


「ラングイットに嫌われていることには、どうしようもないと。嫌われ続けながら結婚生活ができるほど強くないと。本当なら、今すぐ公爵邸から、この国から出ていきたいと。そして、ラングイット様の前から消えてなくなりたいと言っていました」


 私にとって、ラングイットは幼馴染みだし嫌いにはなれないけれど、はっきりいって不幸になろうが構わない。フェルーナ様が可哀想過ぎるのだ。

 フェルーナ様の辛い思いを幸せに変えて差し上げたい。


 カルヴァイン様は眉を下げながら、静かに聞いてくれていた。


「リリアンヌの公爵邸では見れない姿をラングイットが見れば気を落とすでしょう?ラングイットは少なからずフェルーナ様に惹かれているのはわかりますが、それはそれです。恥ずかしいのか何なのか分かりませんが···あんな冷たい態度で。公爵家のみなさんだけでなく、夫でさえフェルーナ様の心を大事に出来ないだなんて、この邸から離れたいと思うのは当然ですよね?私だったら倒れた次の日には荷物をまとめて出て行ったでしょう。他国に行くならなおさら、さっさと公爵邸とはオサラバしています」


 言ってやった。


 カルヴァイン様が聞いてきたのだから、このくらいは当然だ。本当ならば『ユリシーズ公爵家にはクソしかいない』って、怒鳴り散らしたかったくらいなのだ。


 穏やかだった顔を歪ませ終始無言で聞いていたが、話し終えた私に「気を使わせて済まなかった」といって私から顔を背けた。


 半泣きっ面になったのを私に見られたくなかったのだろう。


「パーティーというからには酒盛りでもしてるんだろうから、ラングイットにリリアンヌの醜態を見せて目を覚まさせようと思ったのに来ないし――」


「あぁ、そのことだが···夕食をフェルーナ嬢と本邸でした日、彼女が別邸に戻った後にラングイットと話し合ったんだ。まぁ、アイツなりに色々と葛藤するところがあったんだろう」


 そう言われたが、何のことだかさっぱり分からない。言葉を端折りすぎだ。



 そして、そろそろバラクール男爵邸に着くということでサラ様を起こした。

 

 外を見れば真っ暗な視界の先の方に、たくさんの窓からの光で邸があるのが確認でき男爵邸が見えてきた。


 出発時に伝えたように、御者は手前で道を曲がると男爵邸の裏側へと進んだ。


 聞いていた通り、周辺は畑だらけ。家の明かりがポツリポツリとついてはいるが、周りには何もないので、音がよく通ってしまう。


 速度を落とし、更に落とし、馬車の走る音を最低限に落としてから邸の裏門を通過した。


 邸の裏口につくと、私たちの到着に気がついたらしくキャサリンが出迎えてくれた。


『ソフィア!待っていたわ!···こちらの方々は?!護衛ってカルヴァイン・ユリシーズ様?信じられないわ。こちらのご令嬢は?···ゲッ!』


『ごめん。こちらの令嬢は、サラ様よ。色々と事情があって、ご一緒してもらったの。もう一度言うわね。ご・令・嬢・よ!』


 キャサリンは顔面蒼白で生唾を飲んだ後コクリと頷いた。


 裏口から中に通されると所々に使用人らが立っていて私達の進路に誰も来ないようにと見張りをしてくれていた。

 キャサリンの後をついて行くと着いた場所は彼女の私室だった。


 キャサリンの部屋に入ると、隣の部屋が彼女の義兄の部屋になっているので小さな声で話ことを約束された。


 使用人の一人が私たちのお茶の用意をしている中、彼女は紙を持ち出しペンで何かを書き始めた。


 お茶をいただいたところで彼女が書き終わった紙をテーブルの上に置く。彼女が書いていたのは、義兄の部屋の配置図だった。


 兄の部屋の中はこんな感じに物が配置されているのだと、彼女は簡単に説明した。


「私の部屋とお義兄様の部屋のバルコニーが繋がっているので、バルコニーから覗いていただきます」


 バルコニーを右に行けば義兄の部屋の前に行けるのだが寝具の位置が向かって右側になるため、一度バルコニーの奥まで進んでから戻ってくる際にカーテンの隙間から覗くようにと説明を受けた。


「でも、カーテンに隙間がなかったら?」


 その通りだ。そしたら無駄足ってこと?


 カルヴァイン様が首を傾げてキャサリンに尋ねると、彼女はクスリと笑った。


「大丈夫です。カーテンに小細工をしてあります」


 なんと、彼女はこのためだけに、昨日学園を早退したのだと。カーテンの両端を縫い付けてピッタリ閉まらないようにしておいたらしい。そして、バルコニーからも確認したから隙間はバッチリなのだと満面のドヤ顔だ。


 一度キャサリンが先にバルコニーから義兄の部屋の前へと行き、何かを確認してから戻ってきた。


 その様子を見ていた私達に「何を見ても叫ばないようにね」と次はあなた達の番だといった。


 1番手にカルヴァイン様が動いた。

 バルコニーの奥まで進んでから戻ってくる際、カルヴァイン様の顔が部屋の明かりでよく見える。丁度隙間から覗いているのだろう。彼は驚きの表情でしばらくその場から動けずにいた。


 カルヴァイン様がこちらに戻ろうと動きだすと、サラ様がバルコニーを進み出した。すると、サラ様もカルヴァイン様同様でしばらく覗いてから戻ってきた。


 次は私の番だ。バルコニーを進もうとしたところで、戻ってきたサラ様に「ソフィアは止めた方がいい」と腕を握られたが、私はそれを押し切ってバルコニーを進んだ。


 そしてカーテンの隙間から先ほど教えられた寝具の位置方向を覗き見た。


 時間が止まったかのようだった。


 寝ている男の上に···


『·····リ』


 私は急いで口に手を当て声を殺した。


 リリアンヌの後ろにも男がいた。その隣にも男が···。


 私はどうにか動き出し、バルコニーを進んだ。キャサリンの部屋の前まで戻ってくると、サラ様が私を抱き上げて部屋の中へと運んでくれた。


「だから止めた方がいいと言ったんだ」


 サラ様が私を抱えたままそう言うと、キャサリンには申し訳なかったが話は後日ということにし、私たちは馬車に乗り込んだ。


「馬車まで運んで下さり、ありがとうございました」


 サラ様にお礼を告げると彼は柔らかく微笑んで「腰を抜かすなんて」といい鼻をつまんできた。


「それでなんですけど···そろそろ下ろしてもらえますか?」


 馬車の中でも抱えられているのは恥ずかしい。向かい座席を指差してそういえば、馬車に揺られて転がったらどうすると下ろしてくれない。


 女装したサラ様の膝の上から彼の顔を見れば近すぎるし、彼の美しさに自分が醜くいように思えて何だか恥ずかしさが倍増する。


 何事もなかったかのようにカルヴァイン様が先ほどキャサリンが書いた部屋の配置図の紙を私の膝の上に置いた。

 下の方に書いてある名前を確認しろといわれ、そこに視線を当てる。


「レイナルド・バラクール。ローレン・ロック。マディソン・フォスタード···これは?」


「先程の···男3人の名だ」


 そういって、カルヴァイン様は呆れたような表情でサラ様を見た。


「計画を進められるか?」


「あぁ」


 サラ様がカルヴァイン様の言葉に頷くと、二人はニヤリと不気味な笑顔で私に微笑んだ。


 計画とは?聞きたい気持ちを押し殺していると、サラ様が私に視線を落として「今夜はビックリだったね」といいながら、またもや鼻をつままれた。


「ソフィアは、あんなことしたことある?」


 サラ様が鼻をつまんだまま私に聞いてきたが、さすがにさっきの今でそんなこと聞く?


「いいえ。まだです。相手にしてくれる人もいないので」


「相手がいないって、婚約者は?」


「まだ、婚約者もいないので」


「どうして?婚約者がいないの?」


「どうしてって、失礼じゃないですか?どうせ、学園を卒業したら否応なしに何処かに嫁がされるんですから、1日でも長く好き勝手に生きたいんです」


「ふぅーん。じゃぁ、好きな人とか気になる人と遊んでいるの?」


「好きな人がいたら、一緒に遊ぶのも楽しいのでしょうね」


「ソフィアはモテそうだから、すぐに相手が見つかるよ。私が保証しよう」


「そんな簡単に相手が見つかるわけがないでしょう?政略結婚でも、私は恋愛がしたい!恋愛対象外とは婚約する気もないですからね」


「じゃぁ、卒業までに相手が出来なかったら私がもらってあげますよ。実はこう見えても、私ってばモテモテなんですよ!家は金持ちだから持参金もいらないし、高物件でしょう?」


 こう見えても何も、女装している彼をどう見ろと?卒業式まで残りわずかなのに完全に馬鹿にさるているわー。


「はぁー。ありがとうございます。そのときには持参金なしでお願いします」


 それにしても、ペラペラと良く舌が回るわね。帰りの馬車の中でも、サラ様は何でも口に出して聞いてくる。さすがに1時間以上この状態が続くとは、マジでウザい。さすがに私も疲れたわぁ。



 ユリシーズ公爵邸の裏口で馬車を下りるとサラ様は「じゃぁ、また学園で」といって手を振った。


 はて?学園?学園で彼と会う約束など何もしていないのだが?

 もしや、彼は先生?学生?私の知る限りでは、学園で彼を見た記憶はないのだが?


 『カルヴァイン様の女装を嗜む友人か···変わった人だったな』


 深夜警護中の騎士に見つかると、私はすぐに裏口から邸に入り仮眠室の寝具の中へと潜り込んだ。

 今夜はかなりハレンチだったが、ラングイットを連れて行けなかったことを悔やんだ。


 それでも、カルヴァイン様が一緒に同行したのでどうにかしてくれると期待してしまう。


『フェルーナ様』


 フェルーナ様の笑顔を思い浮かべると、それが段々サラ様の笑顔に変わり(ゲッ!)私は夢の中へと落ちていった。





誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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