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2ー5 ソフィア3

お読み下さりありがとうございます




 FRNFC(フェルーナ様ファンクラブ)会員を招集してから、約一月が経った。


 毎日のように情報は伝えられて来るが、中々コレといった決め手になるものがなく時間だけが過ぎていた。




 フェルーナ様の就寝時間はとても早い。仕事に行くのに朝起きる時間が早いからなのだろう。本日は、夕食を本邸にて召し上がって来られたためか、彼女の就寝時間がいつもより大幅に遅くなってしまった。


 本邸から戻って来られた表情を見れば、何やらあったに違いない。目を虚ろにしながら微笑む姿を見るのは耐え難いものがある。


 夜も遅くなり退室を求められると、私は後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。


 帰路につくためエントランスの階段を下り始めるとラングイットも今戻って来たかのようで邸の扉が開かれた。


 私を見上げたラングイットの表情を見れば彼の顔にも生気がなく、大分疲れ切っているように見えた。




「お帰りなさい。今日は帰りがずいぶん遅かったのね。フェルーナ様、今夜はもう寝ちゃったわよ」


 疲れている様子のラングイットに何事があったのか分からない私は、励ます代わりに元気に声をかけることにした。


 本邸でどのようなことがあったのだろうか。また、フェルーナ様が辛い思いをされていなければいいのだけれど。


 フェルーナ様が辛い思いをなされているのはラングイットのせいだと思う。でも、彼も彼なりに最近では彼女に話しかけているし。私がどうこう口を出していい問題ではない。



「そうか。なぁ、ソフィア。フェルーナは俺のことを嫌ってるのかな?」


 はぁ?何いってんの?あんな態度しかとっていないくせに···嫌われて当然でしょう。そもそも、疑問系って?



「突然どうしたの?嫌いな人とは、一緒に食事もしないと思うわ」


 私はそう返し、その場を後にした。


 しかし、私が見る限りだとフェルーナ様はラングイットを嫌っていないと思うのだ。私だったら、既にこの邸から出ていたし。


 しかし、『嫌っているのかな?』などと、ラングイットがそんなことを言うなんて?気にする前に、言動をどうにかしろって感じなのだが。





 次の日の朝、学園の正門をくぐったところでFRNFC会員のミリーが私を待っていた。


「おはよう、ソフィア!待っていたわ」


 手を振りながら満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくるなり、ミリーは私に腕を絡めると耳元に顔を近づけた。そして、小さな声で話たいことがあると言い私の腕を引いて歩き出した。




 私たちは、教室へ行く前に中庭に足を運んだ。

 朝の中庭では人の気配も感じられず、生け垣の中からは数羽の鳥の鳴き声が聞こえてくる。その前にあるベンチへと二人で腰を下ろすと、慌てた鳥たちが一斉に空へと飛び立った。


「話って?何かあったの?」


「うん?まだよ?」


 ニヤリと笑みをこぼし、勿体ぶっているミリー。

 私が話を急かすと彼女は『コホン』と咳を切るかのようにした後で冷静な表情を見せ話し出した。


「昨日の帰りに、クラスの友人たちと王都で人気のカフェに行ってきたの。そのときにリリアンヌのことで困っているらしい令嬢がいたのだけど、みんなの手前もあったから内容はまだ聞いていないわ。でも、助けて欲しいって言っていたし証拠も見せるって言っていたの。そして、詳しく聞くために今日の放課後に待ち合わせをしたのよ」


「···私も行く!」


「もちろんよ!」


 やっと、リリアンヌの裏の顔が暴ける。





 昨夜のフェルーナ様の顔を思い出すと胸が痛い。ラングイットの魅了が解ければ、何かしら進展するはずなんだけど。


 フェルーナ様がいなくなるなんて絶対に嫌だ!


 その為には、早くなんとか手を打たないと!


 ラングイットの目を覚ますには、彼を学園に連れて来れればよかったのだが、学園に関係の無い人の出入りが禁止されているために不可能だった。


 その為には、この情報が頼みの綱だ。なるべく学園外の嫌がらせとかがいいんだけどな。


  



 そして、待ちに待ったその日の放課後がやってきた。


 私は待ち合わせ場所である大講堂の裏の林へと急いだ。ミリーは先に来ていたらしいが一人で待っていた。私がミリーに友人は?と聞こうとすると、先に後ろから声が発せられ振り返る。


『ミリー、ごめん。遅くなっちゃった』



 息を切らせながら後方からやってきたのはミリーと同じ一般科のクラスの子だった。


·····ん?


 見覚えのある焦げ茶色の髪をしたその子は、リリアンヌの取り巻きのひとりだったはず。


「ソフィア、彼女よ。同じクラスのキャサリン。バラクール男爵令嬢よ」


「ソフィアです。キャサリン様は、リリアンヌのお友達でしたわよね?」


「キャサリンでいいわ。ソフィア様」


 人懐っこそうな彼女は眉尻を下げて、少し気まずそうな表情を浮かべた。


 キャサリンに助けてほしいとは?どういうことなのかを聞くと、彼女の表情が暗くなった。


「実は、もともとリリアンヌのことを好きで一緒にいるわけではないの――」


 キャサリンには1つ年上のお義兄さんがいる。お義兄さんは前妻の子。キャサリンの母親は後妻であり、彼女は母親の連れ子らしい。


 リリアンヌと一緒に居るようになったきっかけは、お義兄さんのところにリリアンヌが遊びに来たのが始まりだったようだ。

 リリアンヌとは学園でも同じクラスだったこともあり、一緒に居るようになったのだと言った。


 しかし、お義兄さんが昨年学園を卒業し、彼女達が最高学年になってからの夏の長期休暇のことだった。


 小さな領地のバラクール領にリリアンヌが遊びに来たのだとか。滞在期間は5日間で、他にもお義兄さんの友人が二人滞在したらしい。その間、お義兄さんの部屋では毎晩パーティーが開かれた。


 長期休暇も終わり学園が平常時に戻ったが週末に領地に帰ると、たまにリリアンヌが遊びにきてパーティーを開くのだと、彼女は辛そうな表情を浮かべた。


 その内の3回以上は、お義兄さんは友人を迎えてパーティーを開いているのだと言う。


 そして、明後日。


 またパーティーが開かれる予定なのだと、キャサリンは憂鬱な表情を見せた。


「夜に?···どんなパーティーをしているの?」


「···見れば分かるわ。明後日の夜7時以降にうちの邸に来てちょうだい。裏口から入れるようにしておくわ。もう、我慢するのは嫌なの」


「わかったわ。護衛を連れて行ってもいい?」


「もちろんよ」




 その後私は、学園からの帰りに直接ユリシーズ公爵邸へと向った。侍女の服に着替え終わるとラングイットが邸に戻ってくる時間だった。そのまま執事たちと出迎えをするために邸の扉の前へと移動した。


 馬車が目の前に停まると、扉からラングイットが下りてきた。続いてカルヴァイン様も降り立つとふたりは邸へと入って行く。


 その後ろから邸へ入り扉を閉めると、二人はまだエントランスで話し込んでいた。


「ソフィア。久しぶり。もう学園から帰ってきのかい?今日は早い時間からいるんだね」


 カルヴァイン様にそう言われ、私はラングイットに報告したいことがあってフェルーナ様が戻ってくる前に邸に来たことを告げた。


「報告?フェルーナになにかあったのか?」


 ラングイットは大きく目を見開いた。


 よくよく考えてみると、リリアンヌの話って···ん?カルヴァイン様に聞かれてはいけないのでは?でも、フェルーナ様はそろそろお戻りになる時間だし。明後日のことだから時間もない。


 キャサリンから聞いた勢いで、急いで公爵邸に来たまではよかったが、カルヴァイン様がラングイットと一緒に居たことで予定が狂ってしまった。


 そして、二人を前に私はパニックになり頭を掻きむしった。


「あー!どうしたらいいのー!」


「ハハハッ!スゴイ百面相!」


 お腹を抱えて笑い転げているカルヴァイン様を睨みつけると、それを横目にラングイットが気にせず話をするようにと促した。


『んー。でも、リリアンヌのことなのよね』


 小さな声でラングイットにこっそり言う。



「リリアンヌがどうかしたのかい?」


 地獄耳か?カルヴァイン様は未だお腹に手を当てて笑い過ぎて出た涙を拭いながら尋ねてきた。



「はぁー。カルヴァインに聞かれたくなくても、もう遅い。聞いてしまったアイツが悪いんだ。だから気にせずに話してみろ」


 ラングイットはため息を吐くと、私に話すように催促してきた。


 こうなったら仕方がない。カルヴァイン様がどう思っても関係ないしね。


 そう自分に言い聞かせると、私は先程キャサリンから教えてもらったパーティーのことを話し出した。




 すると、ラングイットはリリアンヌがパーティーに出席するから何だというのだ?と言って、眉間にしわを作った。


「今の俺には、そんなことより重大なことがあるんだ。···リリアンヌのことなら母上にでも言ってくれ」


 ラングイットは首を傾げて、俺は関係ないと言わんばかりの表情を浮かべた。


 その表情はなに?お前は誰?リリアンヌの魅了は?···もしかしたら、フェルーナ様との生活でリリアンヌの魅了が解けているとか?


···んー。なら、リリアンヌのことはもういいのではないだろうか?



「ハハハッ!またまたスゴイ百面相!ソフィア、俺を笑い殺す気?」


 ラングイットの返答に疑念を抱いていると、またカルヴァイン様が笑い転げた。


 その様子に私がカルヴァイン様を睨みつけると、彼は急に真顔になり私の手を握ってきた。


「ソ・フィ・アッ!私がお供させていただきましょう」


「は、は、離してー!て、て、て」



 手を離す代わりに連れて行けと駄々をこねるカルヴァイン様。バラクール男爵邸へ連れて行ってくれないと『このまま抱きつくよ』などと脅してくる始末だ。


 仕方なく了承してしまったが、なぜこんなことになってしまったのだろう。




 しかし、未婚の私は二人きりで馬車に乗ることは避けたい。いや、それ以前にカルヴァイン様と行きたくないのだが。


 どうしたものかと考えあぐねていると、カルヴァイン様が「とびっきりの美人」を護衛に一人連れて来るというので、3人でバラクール男爵邸へ向かうことになった。


 しかし、『とびっきりの美人』の護衛とは?女騎士なのだろうか?そう思うと明後日の出発が逆に楽しみになった。


···女性の騎士様とお近づきになれるなんて!

···絶対お友達になってやる



「公爵邸をリリアンヌが出発した後に時間をずらして私たちは出発すればいいね。ソフィアは別邸の裏口で待っててくれるかい?」


「分かりました。バラクール男爵の邸まで馬車で約2時間かかると聞いています」


 私の秘めたる期待に気がついたのか、彼はピクニックにでも行くかのようにニコニコとしながら当日の予定をサラリと決めて本邸へと帰っていった。


 そのとき私は、カルヴァイン様が本邸へと向かい歩み始めたときに口角を上げていたことに気が付かなかった。そして、私には知る由もなかった···2日後に会う『とびっきりの美人』がこの後とんでもないことをしでかす人だったということを。




誤字脱字がありましたら

申し訳ございません。

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