2ー3 ラングイット2
お読み下さりありがとうございます。
結婚式当日の朝、いつもより早く起きた俺は覚悟を決めた。
···今回は、きちんと伝えよう。
『この結婚は王命だからではなく、私自身···貴女との結婚を嬉しく思っている』
と、フェルーナに伝えよう。
それなのに。
彼女の姿に俺は心臓が跳ねた。高揚し頬はが赤く色づく。そして、すぐに視線をズラした。
緊張のし過ぎで顔が強張り、彼女に伝えようと思った言葉は、最悪の言葉になった。
「この結婚は王命だから···と思っている」
···俺は、今何と彼女に伝えた?
彼女は青ざめた顔で教会へと入場し、私の隣に立った。
しかし、俺には彼女が隣に立っているだけなのに、そんな彼女を労る余裕がない。彼女に対して、やらかしてしまったのだ。訂正する間も無く、無惨にも目の前の扉は開かれた。
やらかした罪悪感と彼女の蒼白になった顔。更には小刻みに震えている肩の様子に誓いのキスなど出来るわけがなく。自分がこんなにヘタレだったのかとつくづく思った。
披露宴会場までの馬車の中では、これ以上失言しないように口を閉じてやり過ごすことしか出来なかった。
彼女が疲れている様子には見受けられなかったが、早朝から緊張している中で気を張り続けているのだろうかと思い披露宴も中盤に差し掛かると、俺は彼女に先に抜けるように話した。
彼女の友人らが、俺の言動に苦情を申し付けてきた。
さすがに正論を言われ言い返す言葉もなく、ただただ黙って聞くことしか出来なかった。
しかし、問題はこの後のだった。
披露宴を終えると、今日一日の失敗を思い返しながら彼女に謝罪を告げようと、俺はすぐに入浴を済ませて彼女が待つ部屋へと扉を開いた。
「···ラ、ラングイット!」
なぜか、廊下側にある扉の前にはカルヴァインがいた。紺色の瞳が大きく開かれ驚きの眼差しで俺を見ている。
「···カルヴァイン?別邸まで来て、何かあったのか?」
怒りを抑え、わざとらしい言葉を発すると、カルヴァインはそれに対抗するような言葉を発した後、本邸へと帰っていった。
そして、振り返ればソファーにもたれ掛かりスヤスヤと寝ている彼女の姿があった。
ソフィアに礼を伝えてから帰るように促したが、何も聞かない俺に腹を立てたようだった。
俺だって、気になったのだ。カルヴァインが別邸までフェルーナに会いに来たんだぞ!
兄を信じているはずの俺は疑った。
しかし、そんなことをソフィアに言えるはずもないだろう。
ソフィアが扉から出ていくと、俺はしばらくフェルーナの寝顔を見ていた。
「情けない男ですまない。貴女の微笑む姿が自分に向けられるまで気がつかなかったんだ。俺はずっと、他の奴等に嫉妬していたらしい」
フェルーナが寝ているときなら話がスラスラできるのに。必要なときには、いつも無意識に出てくる言葉で傷つけてしまう。
彼女をベッドに運ぶために、抱き上げるがスヤスヤと眠っているのをいいことに、腕の中に閉じ込めた。
しばらくしてから彼女をベッドの上に寝かせたが、離れがたく隣に横になり寝顔を覗き見続ける。鳥の鳴き声が聞こえてくると、そろそろ日が登る時間になる。
俺は、彼女の髪を一房手にとり唇を落とすと、名残り惜しいが自分の部屋へと移動した。
次の日、朝の食事の席に彼女は来なかった。食事を終えると、俺はいつものように本邸へ行く。
そう、食事後のお茶は本邸でリリアンヌを囲みながらお茶を嗜むのが日課だ。
本邸の回廊でカルヴァインに会うと、今日からお茶の時間を無くしたと伝えられた。
「そうか。では、別邸へ戻るよ」
「おい、ラングイット。今、こちらに来たということは···お前、あの後何もしなかったのか?」
「あの後?あぁ、夜か?何も?彼女は寝ていたからな」
「お前、神だわ。あり得ない」
カルヴァインにそういわれ、内心ムッとする。
神でも無ければ、あり得ているが?
俺だって期待してはいたんだよ。ただ、俺がヘタレだっただけなんだが、あえてカルヴァインには教えてやらん。
別邸に戻ってくると、俺は彼女の私室へ向かった。ノックをしても何の返事も返ってこない。まだ、寝ているのかと思いながら静かに扉を開いた。
中に入るとベッドにもいない。浴室にもいない。どこに行ったんだ?今日は、邸の中を案内しようと思っていたのだが。
部屋を出て下の階に下りると馬車が邸を通過したのが見えた。
今のは、うちの馬車だったよな?
裏口から厩舎に向かうと、厩舎前にいる御者のひとりに声を掛けた。
「今、戻ってきた馬車はどこに行ってきたのだ?」
「奥様を···王都までお連れしました。店の建物の前まで送って来ました」
「何?こんなに早く彼女は外出したのか?」
「はい。7時に邸を出発すると言伝がきたので、その時間に邸を出発しましたが」
「帰りは、何時に迎えに行くんだ?私も同行しよう」
「帰りは迎えはいらないと言われました。辻馬車に乗って帰ってくると言われました」
早朝から開いている店があるか?いや、店の建物といっていたな。ということは、商会か?学園のときに彼女を取り巻く奴等の中に家が商会を持っている奴が何人かいたな。帰りは辻馬車だと?まさか、結婚した次の日から浮気なんてないよな。
そして、待ちに待った彼女が帰ってきたのは、空の茜色が暗くなり始めた日が暮れたころだった。
◆◆◆
昨夜、俺のせいでフェルーナが倒れた。
夕食の席で、昨日は感情的になってしまい彼女を責めてしまったことを詫びたくていたのだが、どうも上手く言葉にできそうもなく二人でもう一度ゆっくり話をしたいと思い彼女に声をかけた。
「貴女に話がある。夜に私室へ行く」
彼女は今話してほしそうな表情で俺をじっと見てきたが、二人でゆっくり話したかった俺は、目で訴えるように彼女をじっと見つめ返した。
食事を終えるとすぐに湯浴みをする。そして俺は、体を2回洗った。いつ、何があってもいいようにだ。
身も心も準備万端にしてから主寝室への扉を開き、次の扉の前で深呼吸をしてから彼女の部屋への扉を開いた。
フェルーナが手ずから淹れてくれたお茶は、ほんのり甘みがあり渋みが全く感じられず優しい味がした。
「薬草を使ったお茶です。心の不安を取り除く効果と安眠作用がある薬草なのです」
お茶の効能を話す彼女の内容から、私への気遣いが感じられた。
先ずは昨日倒れてからの身体の調子を聞くと、彼女は元気なので心配しなくても大丈夫だと微笑み、心配をかけたと謝ってきた。
「他には、何かございますか?」
「あぁ。昨夜貴女が話していたことだが、結婚式の扉前での―――」
「ラングイット様。忘れて下さい。申し訳ございませんでした。昨夜は取り乱してしまいました。私は、また今日から新しい一歩を踏み出しました。なので昨夜のことは忘れて下さいますか」
「そうか。貴女がそういうなら。しかし――」
「では、私は明日も早いので、この続きのお話は後日ということに」
「···それと、披露宴のあと貴女が寝てしまっていて――」
「···あっ···そのことについては、今お話した方がいいですね。お気になさらないで下さい。大丈夫ですので。これからも、わざわざお越しくださらなくていいですわ。侍女らにも伝えておきますので」
「な、何を?伝えるとは?」
「え?私達の白い結婚ですわ。ラングイット様のお心にいらっしゃる方にもお伝え下さい。以前ラングイット様に言われたことも忘れていて···申し訳ありませんでした」
「はぁ?俺が?何か言ったか?」
「えぇ『私は次男のため公爵位を継ぐことはない』と。子供も作らくていいということですもの。必然的に白い結婚のことだったのですね。それと、外出して戻りの時間も不規則ですので、夕食も別にしていただいても大丈夫です。私のことは、この邸に居ないものとして扱い下さい」
そして、彼女は寝具に潜り込みもう寝るのでお引き取り下さいといった。
俺は、彼女の言葉に自分が彼女に対してやらかしてしまった失態を悔いた。謝罪もしたくて、彼女とゆっくり話しをしたかったのだが。
しかし、寝てしまった彼女を前に、かける言葉が見つからない。
彼女の話に何かが引っ掛かるような?何かが食い違っているような?そんな違和感を感じていたがそれをどう話せばいいのかわからず、彼女が俺のために手ずから淹れてくれたお茶を飲み干してから自室へと戻った。
誤字脱字がありましたら
申し訳ございません。




