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第十三話:見下ろす瞳と、宵の次


  *


 ゴウン、ゴウゥゥン……。


 七時を告げる大時計の鐘が鳴る。島の全てまで、島の隅々まで沁み渡らせるが如く、遠く高らかに鳴り響く。


 天を貫かんとそびえ立つ時計塔の上には、紫を帯びた群青から藍、そして漆黒に至るグラデーションが描かれ、その全面には光の粒めいた星々が輝きを放っていた。更に東の空には群青を背景に、黄金の円盤じみた月が静かに佇んでいる。


 ふわり、一陣の風が踊る。


 鐘が鳴り止んだ時計塔の先端には、透ける純白の長髪を靡かせ銀のロングコートをそよがせる男──オボロが姿を現す。ゆっくりと開くその瞳は血のような紅、この世のものとも思えぬ程に整った美しい顔には微笑をたたえている。


「成る程成る程、人間とは面白いものだな。もっと早々にカタが付くかと思っていたが……想像とは全く違った動きをしている。もどかしいが、これはこれで飽きないな」


 クローズドサークル、タイムリミット、相反する二つのチーム、対戦相手のマッチング──状況を整えてやれば、もっと感嘆に殺し合うものだとオボロは予想していた。しかし実際には彼らの行動は違っていたのだ。


 出会い頭に戦闘に突入したのが三組、しかし戦闘を継続中なのは一組だけである。他の二組は一旦は交戦したものの休戦し、今は別々に行動している。他の二組に至っては、それぞれが戦闘を避けている始末だ。


 少し時間を与え過ぎたか、と危ぶんだものの、いやしかしとオボロは直ぐにその考えを否定する。何も面白いのは戦闘だけでは無い、駆け引きや裏切り、騙し合いなども極限状態の人間の醍醐味なのだ。それらは時間に余裕があるからこその産物に他ならない。


 それに──とオボロは笑みを深くした。


「あのワダチとかいう狼男、あれがミコトを拾うとは。偶然とは本当に面白い」


 笑うオボロの髪が揺れる。月光を透かしさらさらと煌めく。オボロはぐるり島を見渡して、嬉しそうに目を細めた。


 島に走る道路に沿って並ぶ街頭が、円を描き線を描き、まるで魔法円の如き形状を浮かび上がらせている。もしこれが術式の為の物ならば、その術は凄まじい結果をもたらす物に違いなかった。


「さあ、残るは十一時間弱。彼らはどう動くか、世界の均衡はどう傾くのか──。もっともっと、楽しませてくれよ」


 魔人のメタリックなコートが風にはためき、月の、星の、時計塔を照らすライトの、そして地上に立ち並ぶ街頭の光を捉え煌めきを零す。


 そして愉悦に輝く深紅の瞳が閉じられると、オボロの姿そのものも溶けるように、霞むように消えてゆく。後に残るのはただ、淡く散るさやかな光の気配。


 夜はまだ、始まったばかりなのだ──。


  *





お読み頂きありがとうございます。

一章はここで終了となります。次話として登場人物紹介を本日投稿し、明日から二章へと突入します。

次章はいよいよ男装の麗人コヨミvsクレイジーサイコ百合娘チギリの闘いが決着します。

お楽しみ頂ければ幸いです。


お気が向きましたらブックマーク、いいね、★評価などで応援して頂けると執筆の励みとなります。

また感想やコメント、レビューなど頂けると泣いて喜びます。

宜しくお願い致します。



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