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第九話:住宅街と、目的地


  *


 ムサシマルが林の中に消えたのと丁度同じ頃、ディアドラ・テライは住居区画をカツカツとヒールを響かせて歩いていた。


 ──この島は同心円状に大きく四つの区画に分類されている。


 島の中心から順に、本社をはじめ関連会社などのビルが立ち並ぶ『中心区画』。デパートやモール、飲食店や映画館が集められた『商業区画』。マンションや戸建て、学校や病院などが揃った『住居区画』。そして遊園地やキャンプ場、ビーチやスタジアムなどが島をぐるり囲うように配置された『レジャー区画』である。


 島の臍とも言える時計塔広場からは放射状に大きな道路が外縁部まで貫くように通っており、またそれと交差する形でそれぞれの区画に同心円状の道路が敷かれていた。移住が完了した暁にはそれぞれを網羅するバスが運行される予定であり、計画都市ならではの利便性の良さが追求された形である。


 もっとも今はバスはおろか人一人、犬猫すらも見当たらず、住人の居ない家々がただがらんと並んでいるに過ぎない。建物が新築である事がむしろ寒々しさを見る者に与え、点々と灯る街頭が影に出来た闇の濃さを一層深めていた。


「……廃墟より新しい家が並んでる方が不気味に思えるだなんて、初めて知ったわ。生活感が無いから冷たく感じちゃうのかしらねえ」


 野太い声でぼそぼそと独り呟きながら、ディアドラは大通りに沿って住宅街を歩く。足音はカツカツとアスファルトに反射し、より一層の寒々しさをディアドラに与えていた。


 ──ひたすらに足を動かしながらディアドラは、先程目覚めてからの一連の流れを頭の中で反芻する。


 見知らぬ場所、見当たらぬ仲間、無くなった荷物。取り付けられた機械、流れ込む声、押し付けられたルール──。何から何まで一方的で、何から何まで理不尽だ。


 このふざけた状況に憤りつつも、しかし冷静に考えるならば、あのオボロという者に従うしか無いだろうとディアドラは諦めてもいた。


 『結社』の者達がこの島に来ているのならば、『組織』を目の敵にしている連中の事だ、喜んで自分達を殺しに来る筈だからだ。殺さなければ殺される。ディアドラは過去の『結社』との戦いの経験から、覚悟を決めるべきだと既に確信していた。


「けれど──心配だわ」


 ディアドラは軽く溜息をつく。経験の豊富な自分や能力の高いコヨミならば問題は無いだろう。勝敗はともかく、戦う覚悟や、いざとなれば相手を殺す覚悟も出来ている。しかし残りのメンバー──とりわけ新人で在るワダチの事がとかく気に掛かった。


 ワダチは潜在能力が高いと診断されてはいるものの、まだその全容は未知数。しかもこれが初めての任務だ。年齢も若く、人生経験も少ない。いざ敵に対峙すればどうなるか──ディアドラは事が上手く運ぶよう、祈らずにはいられなかった。


 更に言うならばワダチだけでは無い、エンジニアで非戦闘要員のムサシマルや、対人戦の経験が無いギオン兄妹も心配だ。上手く合流出来れば良いのだが、とディアドラは淡い期待を抱きつつも溜息を零した。


  *


 どれ程の時間歩き続けていたのだろうか。次の鐘が鳴っていないのだから、一時間は経ってはいないのだろう──ディアドラはそう考えながら、記憶に在る島の地図と自分の現在位置を照らし合わせる。


 ただ闇雲にあるいていたのでは無い。ディアドラは目的の場所へとひたすらに足を動かしていたのだ。一時は手近な建物に侵入して敵をやり過ごす事も考えたが、試してみたところそれは不可能だった。


「こんな結界、一体どれ程の力をもってすれば可能なのかしらね」


 オボロという男が張ったであろう結界は、島を丸ごと閉ざすだけではない──とんでもない効果をもたらす物だった。その力は島の建物や街路樹、草木の一本に至るまで浸透しており、それらが今存在する状態を保つように作用していた。


 つまりは窓を割っても割れた端から硝子は即再生し、鍵を開けようにもピッキングが成功した瞬間また鍵が掛かった状態に逆戻りする。確かに建物に逃げ込めばタイムアップまで逃げ切る事が可能になってしまうからだろうが、それにしてもこの力の強大さは驚きを通り越して呆れるレベルだ。


 それもあって、ディアドラはオボロが直接倒さなくてはならない敵では無い事に、ある種の安堵をも覚えていた。こんな事をさせる目的は分からないものの、人間業ではないレベルの術を使いこなすオボロよりは『結社』の人間の方が余程与しやすいに違い無かった。


 そんな事を考えながら歩いていると、ようやく木々に囲まれた何かが前方に姿をあらわす。


「……ああ、やっと見えて来たわ」


 住宅街を越え小さな公園を抜けたところに、目的の場所はあった。


 ──街頭に浮かび上がる真新しい石造りの鳥居。


 以前は島の中心に存在していたという神社だ。ディアドラはこの島に来てから、ずっと気になっていた事があった。それを確かめる為にわざわざ歩いて此処までやって来たのだ。ディアドラはほうと息をつくと、鳥居の前で足を止め、ゆっくりと鳥居を見上げた。


 社の名前は『月守神社』と言った。伝承などは既に失われて久しいが、島の名の由来ともなっているであろう神社だ、移転には細心の注意が払われたという。


 企業がこの島を買い取る前の社は数十年風雨に晒され朽ちる寸前だったようだ。しかるべき手続きと共に移された神社は社殿などが新しく建て直され、鎮守の森も含め心の安らぎの場になれるようにと整備されたようだ。


 しかし──ディアドラは闇に浮かぶ神社を見詰めながら太い眉根を寄せた。


「やっぱり、感じられないわ。清廉な空気、神気、圧……あるべき筈のそういった物が全部、この神社からは失われてる」


 移転の際に何か手違いをやらかしたのだろうか? しかし状況を見る限りはそういった痕跡は見付けられない。ならば何故。


「……調べてみるしか無さそうね」


 シャク、と音をさせながらディアドラが玉砂利を踏んだ──その時。


 風が、一陣の風がディアドラの髪を揺らし、そしてそれを感じ取ると同時にディアドラは無造作に右手を動かした。


「──ちょっと、可愛い子猫ちゃん? おイタは駄目よん」


 真っ赤なマニキュアの塗られた武骨な手が無造作に掴んだのは。


「っく、オッサン……!」


 不意打ちを失敗し怒りに可愛らしい顔を歪めた、セーラー服姿の少女めいた少年の手首だった。


  *





次は頼れるオネエことディアドラさんvs小生意気な男の娘です。

本名テツゴロウなディアドラ姐さん。外見はなかなかに強烈なキャラですが、中身はいたってまとも。いや、少し豪快な気もしますが。

対する男の娘はセーラー服にニーソ。「可愛い男の子にはセーラーを着せろ」は自分の作品のお約束。

さてさてどうなる事か……次回も乞うご期待、なのです。



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