004 ギルドを組みたい
マイ・ナンバー・オンライン第一層にひっそり佇むカフェ「Birds」。
ここは羽を休めるのに良さそうな、静かな喫茶店だ。
「うーん♪ フルーツタルト美味〜!」
「小雛、こっちのいちごパフェも美味しいよ」
「じゃあひと口」
今日はマイ・ナンバー・オンライン発売2日目。私と由鶴は偶然見つけたカフェで作戦会議をしていた。……んだけど、いつの間にかただのスイーツパラダイスになっていた。
「せっかくの5000円だったのにこれじゃすぐ底をついちゃうね」
「いいじゃん、だってこれだけ食べても太らないんだよ? 最高だよ!」
「小雛は甘いもの好きだもんな〜。一時期リアルで太ったよね」
「それは言わないお約束でしょ!? それに1.5キロだけだし! 誤差誤差」
「その割には、あの時はアタシに泣きついてきたよね。『お肉が減らないぃ!』って」
「む、むぅ……」
由鶴は大人の余裕を見せたいのか、ブラックのコーヒーを啜った。同い年のくせに。
最近のフルダイブ型ゲームでは味覚情報もしっかりと伝達されるようになった。
中にはスイーツやラーメンなど高カロリー食をノーリスクで味わうためだけに、フルダイブ型のゲームを買う人もいるくらいだ。
「さてと、小雛もそろそろ食べる手を止めて、ギルド戦について話さないと」
「そ、そうだったね」
追加注文する気だった私だけど、さすがにこの雰囲気で食べ進めることはできなかった。
ギルド戦については運営からのメッセージで詳細が伝えられた。まとめると
・毎週土曜日の午後20:00〜22:00の間に開催
・第二層のコピーエリアでのエリア争奪戦
・第二層が1000分割され、その細かい範囲をエリアと呼ぶ。
・新規エリア獲得と他ギルドからのエリア奪取の2パターンで自ギルドのエリアを増やしていく
・エリアを獲得・防衛するとゲーム内通貨・アイテム・スキル・装備のいずれかが手に入る
「まぁ明後日は初回だし、新規エリア獲得しかないでしょ。PVPは起こらないと思っていいかな」
「ふむふむ」
「新規エリアの獲得には新規エリアクエストをクリアしないといけないから、強い強い小雛さんには活躍してもらうよ」
「えー? PVPで勝ったこと根に持ってる?」
「あんな負け方納得いかないし!」
由鶴はカフェのテーブルに乗り出して、長い茶髪がコーヒーに入ってしまった。慌ててナプキンで髪をふく様は少し可愛かった。
PVPのこと根に持ってるかぁ。まぁ逆の立場だったら私も納得いかないから気持ちはわかる。
私のスキル【プレゼント・フォー・ミー】。まだまだ調べてみないとだなぁ。
「それより小雛、私たちには大きな問題がある」
「そうだね。それは……」
「「ギルド結成のためのメンバーが足りない!」」
そう、私たちはギルド戦に参加する資格すら今のところ持ち合わせていなかった。
何しろギルド結成の最低人数は3人。あと1人足りないのだ。
「もう誰かのギルドに入っちゃう?」
「アタシはいいけど、小雛はどう? 人間関係とか」
「苦手な人がいたらちょっと……無理かも……」
「だよねぇ」
あんまり私はコミュニケーション能力が高いわけではない。
「で、でも解決策はあるよ!」
「えっ!? あるの?」
由鶴は心底驚いたような顔をした。ふっふーん、その顔が見たくて黙ってたんだよね〜。
「実は昨日のプレイベントでね、あったんだよ出会いが!」
「うえっ!? 本当に!?」
「うん。翼さんって言うんだけどね、身長165センチくらいの美人さんなの! もうひと目で顔強っ! って思ったよ〜」
「ぐぬぬ……意外と早くライバルが……」
「ん? なんか言った?」
「何でもない。続けて」
うん? 変な由鶴。
「あんまり話はできなかったんだけど、メッセージ交換はしたから連絡取れるんだ〜。私たちとギルド組もうって送ろうよ!」
「で、でもでも知らない人でしょ? いきなりそんな人とギルド組むってのは……」
「え? 私出会いが欲しいからこのゲーム始めたんだけど」
「そうだったよね、アンタ意外と有言実行するところあるもんね、好き!」
「あ、ありがとう?」
由鶴はこうやってたまにだけど友達として好きとストレートに言ってくる。コミュニケーション能力が高いと素直に言えるんだね、すごいなぁ。
まぁ出会い目的なんて当たって砕けろだから。とりあえずギルド勧誘のメッセージを書いて、送信っと。
「メッセージ送れたよ〜……ってそれはなんのお祈り?」
「何でもない」
由鶴はシスターのように手を合わせてお祈りポーズだった。ギルドメンバーになってくれるように願ってるのかな。
翼さん、ログインしてるかな〜。返信、くれると良いんだけど。
ちょっとドキドキしながら返信を待つのでした。