003 出会いの日
「よっと」
今度は放り出されずにしっかり着地できた。毎回打撲してたらしんどいもんね。
眼前に広がるイベントステージは第一層の草原とはまた違って、木々が生い茂る緑鮮やかなステージだった。
「うーん、緑のいい香り!」
入浴剤の森の香りみたい。そういう設定にしているんだろうね。
さて、辺りに人はいなさそうだな〜。まぁ15分経てばゲーム内通貨5000円もらえるし、いいアルバイトだと思えばいっか。
木に腰掛け、ちょっとうたた寝……と思ったら何かに頭がぶつかった。
「痛っ。木に当たったかな……」
目を開けると、ジト目でこちらを見る大学生くらいの女性が隣にいた。
「うえっ!? ご、ごめんなさい!」
「……」
無言。無言だ。とにかく謝らないと!
「あの本当にすみません。まさか人がいるなんて……」
たまたまうたた寝しようとして腰掛けた木に人が座ってるなんて。
あれ……さっきは慌ててよく見ていなかったけど、この人、すっごい美人さんだ!
ショートカットの黒髪は清楚さとカッコ良さを同時に演出し、すらっと伸びた足は男性顔負けの長さを誇っている。かんばせは整い、新雪のような肌に桜色の唇。めっちゃ、顔が、強い!
私がガン見して顔を分析していると、黒髪ショートの女性は立ち上がった。
「あ、ごめんなさい! 怒らせるつもりじゃ……」
身長高っ! 165センチくらいありそう!
私なんて146センチだから、約20センチも差があるんだけど。
そんな高いところから、手が……私の頭に乗せられた。
「……へ?」
なでなで、なでなで、なでなで。
脱力するような頭の撫でられ方だ。な、何これ。
「あ、あの……」
「……サンタさん」
「へ?」
「……」
み、ミステリアスな人だ。顔面が強すぎるけど無口すぎる。
依然頭を撫でられる私はどうすればいいんだろう。
「あ、あの! そろそろやめてもらっても……」
「あ、ごめんなさい」
お姉さんも夢中でやっていたみたいで、一瞬だけハッとしたような表情になった。
それにしても顔だけでなく、声も綺麗な人だ。っと、また分析してたら怒られちゃうかも。とりあえず自己紹介しとく?
「あ、佐々木小雛って言います。職業は見ての通りサンタクロースです……」
なんかサンタクロースって打ち明けるの嫌だな。若干落ち込むんだけど。
「天城翼。宝石騎士です……」
「翼さん! かっこいい名前ですね!」
あと職業も! 羨ましいな、私もそんな職業を夢見てたんだけどな!
「あ、ありがとう……」
「翼さんはソロプレイヤーですか? 恋人はいますか? 子どもは何人欲しいですか?」
「え、え?」
しまった。質問を畳み掛けたらつい欲望のままに口を開けてしまった。
「な、何でもないです……」
「ソロ……です。恋人はおろか、友達もいません」
「翼さん……」
『これにてイベントステージのテストを終わります。ご協力ありがとうございました。20秒後、元いた場所に再転送します』
あ、もう終わりなんだ。
うーん……迷うけど、綺麗な人だしこのチャンスを逃したくない!
「あ、あの! よかったらメッセージ交換しませんか?」
「え?」
「20秒しかないのでもうしましょう! いま!」
「え、ええっ!?」
翼さんに有無を言わさず、メッセージ交換をした。これでいつでも翼さんと連絡が取れる。
「ありが……」
「お、小雛!」
「とう……あ、戻ってきたんだ」
お礼を言おうとしたら再転送されちゃったみたい。目の前には翼さんでなく、親友の由鶴の顔があった。
「小雛? どうかした?」
「……ううん。なんでもなーい」
「えー? なんか楽しそうだけど?」
「えへへ、今日はログアウトしようかな。もう1時半だし」
「そうだね。明日も学校だしね。数Aやだな〜」
「私まだ課題やってないよ〜」
「AIに解いてもらいな」
「バレたら怒られる〜けどそうする!」
結局雑談をしてたら2時を超えちゃった。
ログアウトして、ベッドに入ると翼さんの顔が思い浮かんだ。
クールな人だったけど、綺麗な人だったなぁ。友達いないって言ってたけど、ちょっと無愛想だからかな?
「また、会いたいな」
心臓が少しだけ、いつもより高く飛び跳ねた。