002 PVP
せっかちな由鶴は早くもPVPを申し込んできた。友達同士とはいえ、こんなに早くPVPしてどうするんだろう。
でもまぁ由鶴とは長くゲームするはずだし、実力やスキルを知っておくのはいいこと……かな? 私のスキルも試してみたいし。
「わかった! やるからには負けないよ!」
「さすが小雛! 話がわかる!」
そうと決まればすぐに由鶴からメッセージでPVPの申し込みが来た。了承ボタンを押すと、景色は同じ草原だけど私たちだけ別空間になったようだった。ここがPVP専用エリアになったってことだね。
「じゃあ始めようか。距離はどうする?」
「近いと私有利だし、遠いと由鶴が有利だもんね。15メートルくらいがちょうどいいんじゃないかな?」
「OK。こんなもんかな」
15メートル離れた私たちは目を合わせ、開戦の合図のように頷きあった。
「はあっ!」
白緑の銃の引き金を引いて、エネルギー弾を惜しみなく撃ってきた。
ここは試してがってん!
「白い袋で、打ち返す!」
「やるね小雛!」
野球バットのように白い袋を振って、エネルギー弾を弾き返した。
由鶴のエネルギー弾はHPを消費するみたいだから、ムダ撃ちできないはず。逆に私としてはムダ撃ちさせて、HPの消耗を狙うのが定石だけど……。
「今回は試す場だからね。使うよ『プレゼント・フォー・ミー』」
白い袋に手を入れて、中に何かが入っているのを確認した。それを引っこ抜くとあら不思議、白い袋から剣が現れた!
「うわ、小雛いまからは剣士? そんなのアリなの?」
「ネタスキルかと思ったけど、意外といいじゃん!」
「ぷっ、でもミニスカサンタコスに剣はちょっと珍妙かも」
「ひっど〜! 絶対痛い目に合わせるから!」
「やってみなよ、小雛!」
プレゼント・フォー・ミーを使うと白い袋はアイテムボックスにしまえるようになるみたいなので、白い袋を消して剣主体の戦い方に切り替えた。
でもそれが裏目に出て、由鶴のエネルギー弾への対処法がなくなってしまった。
「ほらほら、小雛負けちゃうよ〜?」
「ううっ……!」
エネルギー弾、さすがにHP消費しているだけあって1発が重い!
このままじゃ負けるからと大慌てで剣を捨て、白い袋を取り出した。
「おっ、また小雛のプレゼント?」
「『プレゼント・フォー・ミー』。お願い、何かいい物ちょうだい!」
神頼みスキルってどうなんだろうと思いつつ、白い袋に入っている何かを取り出した。
するとメラメラと燃える赤い球が出てきた。ゲーマーの直感でわかる。これは魔法だ!
「おっと厄介そうなの出てきたね!」
由鶴もゲーマーの直感ですぐさま距離をとった。相棒としては頼もしいけど、敵としては厄介極まりないね。
「やっちゃえ火の魔法!」
赤い球を投げると、大地が揺れ、空気は乾き、唸るような声が草原に響いた。やがてトグロを巻くような火炎が由鶴を囲み、逃げ場を完全に遮断した。渦巻く火炎は龍のように膨らんだ。
「え……嘘、何これ」
由鶴は激しく狼狽している。火炎でできた龍の頭が由鶴の方を向いた瞬間、彼女は諦めたように両手を上げた。
容赦なく火炎の龍は由鶴に襲いかかり、その1秒後にPVP勝利のアナウンスが流れた。
「うわぁ……自分でも引くほどのスキルなんだけど」
たぶんプレゼント・フォー・ミーの中には当たり外れがあって、今のは当たりの部類なんだろう。それにしても極端だ。
PVPエリアから元の草原に戻ると、由鶴は少し拗ねたような顔で待っていた。
「もう、小雛あれはズルいって」
「そう言われても……私も予想外だよあのレベルは」
「ネタ職業かと思ったら、案外ガチかもね、それ」
「さすがにそこまでじゃないと思うけどな〜」
ピロリン!
PVP後の雑談中、メニューのinformationに運営からのメッセージが届いていた。
由鶴は恐れることなくメッセージを開き、音読を始めた。
「プレイベント? イベントステージへプレイヤーを招待できるかのテストを行いたい。イベントステージへ移動したら15分過ごしてその後解散……だってさ。報酬はゲーム内通貨5000円だって。やる? 小雛」
「もちろん。ゲーム内通貨は欲しいし、何よりイベントステージに移動したら出会いがあるかもしれないからね」
「あ、それ忘れてなかったんだ」
早速プレイベントへの参加を申し込んだ。するとすぐに転送へのカウントダウンが始まった。
「じゃあ由鶴、またあとでね」
「うん。小雛気をつけなよ? 変な人に会わないようにね」
「そんなことあるわけないじゃーん」
あはは、と笑いながら転送された。
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