017 滅びの国
とあるギルドの溜まり場。
玉座に座するは、姫を思わせる桃色髪の少女であった。
ここは第二層。都会と呼んで相応しいビル群が立ち並び、荘厳たる摩天楼と化している。
そんな第二層の生態系の頂点についているのが、この少女、御陵院真紀であった。
「そんな難しい顔をしてどうしたの? 斉藤」
真紀に斉藤と呼ばれた初老の男性は、はてどうして見抜かれたものかとヒゲを触った。
「流石でございますね。人の些細な変化にすぐお気づきになられる」
「当然。人を統治するということは、すなわち人を知ること。で、難しい顔の理由は何かしら?」
斉藤としては論点をすり替えたつもりであったが、やはりというべきか、真紀は自らの聞きたいことにレールを戻した。
諦めの感情を込めたため息が、都会の喧騒にかき消される。
「イベント戦にて、気になる少女と戦いましてね」
「あら、あなた既婚者じゃなかったかしら」
「お戯れを」
「ふふ、ごめんなさい」
真紀は人生の大先輩を揶揄った。
「聞かせてもらえるかしら?」
「大抵の人間は負けを認めた際、睨む・罵倒する・諦めるの3点に帰結します。しかし私が出会った少女はむしろ、盗みに走りました」
「あなたの情報ね?」
「はい。武術極めし者が敗する時、再戦に燃ゆる魂を瞳に宿して意識を飛ばすが如く」
「面白いじゃない。名は? 上手く聞いていたのでしょう?」
「Phoenixの、天城さんという方です」
「Phoenix……1エリア獲得のギルド。確か獲得したのはエリア1だったわね」
寸分の狂いのない真紀の記憶に、斉藤は震える思いだった。
「私たちが獲得したエリアとは離れているけれど、次回のギルド戦で調査員を派遣しましょう。もし潰さなければならない対象であれば、次次回に……ね」
真紀は桃色髪を揺らし、玉座から立ち上がった。
「偉大なるお母様のように、私も世界を掌の上に」
「いつまでもお供いたします、真紀さま」
斉藤もまた、真紀に続いて立ち上がった。