014 翼のイベント戦
小雛さんと出会ったプレイベントとは違い、私はいま荘厳たる荒野に立っている。
岩肌の露出は尋常ではなく、もし吹き飛ばされた拍子に頭をぶつければ頭蓋が砕かれそうだ。
「……」
「いつまで、私と黙って向かい合うつもりかな、お嬢さん」
……黙っていたいわけでは、ない。
相手の素性を知りたいけど、恥ずかしくて声が出ないだけだ。
「これは失敬。私が名乗るのが先でしたね。斉藤と申します。以後お見知り置きを」
「……」
「ふふ、まだ無言を貫きますか。ではこの言葉を付け足すとどうでしょう? ギルド【滅びの国】副代表の斉藤です」
ザワッと、全身の産毛が逆立つ思いがした。
【滅びの国】といえば、第1回ギルド戦で54エリアを獲得した化け物ギルド。そこの、副代表……
斉藤と名乗った初老の男性は、白髪とスーツというコントラストを誇る見た目をしていた。その上、手には清潔感のある白い手袋がはめられている。執事以外の、何者にも見えなかった。
「その話、偽りはないんですね?」
「ようやく口を開けてくださりましたか。えぇ、嘘偽りはありませんよ」
「ど、どうして私に素性を?」
「貴女は強い。見ればわかりますから。ここで出会わなくとも出会うとも、いつか我々は戦う運命の星の下にいるのです」
話が回りくどい……。要するにどうせトッププレイヤーになる者の候補者同士、いつか戦うからいつ会おうと関係ない。ということなんでしょうけど。
「貴女の名前もお聞かせ願いたいですな」
「【Phoenix】の天城です」
「ほう、エリア1を獲得したギルドの一員でしたか」
「……なぜ1エリアしか獲得していない私たちを……」
「あぁ、お嬢様のためにここを使うのが私の仕事ですゆえ」
ここ、と言いながら斉藤さんは頭を指さした。
さて、困りました。正直この人とは戦いたくない。勝てるビジョンが見えないほどに、この人の熟練性は透けて見える。
「では、試合……いえ死合いを始めましょうか」
「宝石顕現:ヒスイ。風魔顕現」
風を起こし、斉藤さんの接近を防ぐ。少しずつ距離をとって、隙を見て逃げられれば……
「柔拳」
「そんな!」
斉藤さんは風をなでるように、手を動かしてこちらに接近してきた。
「無駄が多いですなぁ。いやしかし、その若さでここまでの練度は褒めるべきでしょう」
「くっ……」
「距離を取る戦法は悪くありません。ですが……」
「なっ!?」
斉藤さんは、突然に目の前に現れた。
次の瞬間、腹部に激痛が走る。思いっきり殴られた私は荒野に露出された岩に頭をぶつけた。
「くっ……」
運良くか、あるいは悪くか。私のHPは1割弱残っていた。
「諦めない心は認めましょう。ですが貴女にもう逆転の目はありませんよ」
「……」
「無言ですか。それもまた良いでしょう」
斉藤さんは手に青いオーラを纏った。
おそらく、これが斉藤さんの十八番。
私の敗北は決している。今やれることは、最大の敵となり得る【滅びの国】の情報を少しでも抜き取ること!
「剛拳:蒼竜武打」
「う……ぐぅぅ!」
HPが0になり、負けが確定する。
それでも刹那、ゲームにとどまれている時に見えた。
斉藤さんの大技の後には、2秒だけフリーズするということを。
次は……負けない!