012 由鶴のイベント戦:前編
「よいしょ! 7キル目〜♪」
アタシ、黒川由鶴は現在この辺りでは1番の高さを誇る木の上で走り回るゲーマーたちを狙撃している。
アタシの新スキル『武装変換:スナイパーモード』により、白と緑を基調としたエネルギーガンは長細くなっている。これこそ、エネルギースナイパーライフル! 超カッコいい!
HPの減り具合は尋常じゃないけど、頭や胸など急所を狙撃できれば一撃で倒すことができる。大当たりスキルと言えるわけだ。
「さてと、HPも残り半分だし、これだね」
アタシはカバンから緑色のポーションを取り出した。
これぞマイ・ナンバー・オンラインにあるアイテム、HPポーション。飲めばHPが回復する便利なものだ。1個1000円。高い。
まぁアタシたちはギルド戦で勝ったわけだし? それでお金が入ってくるから、消費はそんなに苦にならない。
「まぁ楽勝かな〜」
なんて呑気に思っていると、スコープに3人のプレイヤーが固まっている姿が映った。戦闘中じゃなさそうだし、チーミングかな?
会話内容が聞こえる範囲じゃない。まぁあんまり気にしないで脳みそぶち抜けばいいか。
「えいっ」
思いっきり引き金を引くと、男性プレイヤーの頭にクリーンヒットした。
「やったね、アタシって天才かも?」
大慌ての3人組。さてあと2人も倒そうかなと思った時、私はギョッとした。
頭を撃ち抜いたのに……生きてる?
スコープの倍率を上げ、顔までくっきりと確認しようと試みる。……あっ! ギルド戦で戦った【中山家】だ!
「うっそ〜、そんな縁ある?」
しかも生き残っているということは、おそらく【中山家】の母の効果で強化されているからだろう。あっちゃ〜、面倒なことになるぞこれ。
撃たれた男が立ち上がり、完全にアタシの方を向いた。撃たれた側は方向がわかるもんね。さぁ、1対3はキツイけどやれるかな……。
「やはりお前か! ママの顔に泥を塗ったサンタの仲間め!」
「嘘!? なんでこの距離を詰められるわけ!?」
「俺は『スピードスケーター』。800メートルの距離なんて無いようなもんなんだよ!」
「うっ!?」
スピードに乗られ、拳を頬にもらった。
「『武装変換:ノーマルモード』」
長距離武器から中距離武器に変換した。
正直、今の展開には助けられている。なぜなら1対3だと思っていたのに、向こうから1対1に持ち込んでくれたからだ。
早いうちにこの人を倒せば、まだ勝てるビジョンがある。
「エネルギー弾!」
「へっ!」
ちっ、木の影に隠れたか。
隣の木へ、さらに隣の木へと移動される。かなりのスピードだから、エイムが合わない!
「息子ぉ〜! 大丈夫? 怪我はない?」
「あ! テメェが俺を撃ったやつか!」
……最悪だ。3人揃っちゃった。
さぁて、どうしようね、小雛。アタシ、ここで終わっちゃうかも。