010 小雛のイベント戦:前編
『それでは第1回イベントを開催します。ルールは簡単! 60分間生き残るか、敵を全員倒すか。それではイベントステージにランダム転送します』
ドキドキと心臓が高鳴っているのがわかる。由鶴や【中山家】とのPVPはまぁ置いておいて、これが初めての本格的なPVPになりそうだから!
「小雛、絶対に生き残ろうね!」
「うん! 由鶴手を繋ごう、ほら翼さんも」
「え、え?」
由鶴も翼さんも目をパチクリとさせて驚いている。
「勝つぞ〜〜〜〜」
「あ、そういうことね」
「この歳でやるのは恥ずかしいですけど……」
2人とも私がやりたいことを理解してくれたみたい。
「「「えいえいおー!」」」
叫んだ瞬間、イベントステージに転送された。
「うおっ、また森の中だ」
2連続森の中! いや、もしかしたらイベントステージ全部が森の可能性も?
いやいや、そんな芸のないことはしないか。
ふぅ、と木に腰掛けたら、頭に何かがぶつかった。これ、なんかデジャヴ……
「え? 翼さん!?」
期待して振り返ると、まったく見たことのないおじさんが木に腰掛けようとしていた。
私の顔はたぶん驚いている。でもおじさんも、私以上に驚いていた。
「な、なんだ君! やるか? やるのか?」
「え、えーっと……」
どうしよう。いきなりPVP発生?
でもまぁこのイベントはそういうイベントだしなぁ……。
「や、やります!」
「ぐっ! な、舐めるなよお嬢ちゃん。俺の職業は【天気予報士】だ!」
「…………何ができるんですか」
「スキル発動! 天気予報……晴れ!」
「……えいっ!」
「うあぁぁあぁ」
白い袋で殴打した。
なるほど、洒落にならないネタ職業を引いちゃう人もいるんだね。かわいそうに。
とりあえず1キル! 全滅目指すわけじゃないから別に何人倒してもいいんだけどさ〜。
「うおおおお!」
「てやぁぁぁ!」
「うわっ、びっくりした!」
森のどこかから戦う音が聞こえてきた。高い金属音……剣と剣がぶつかる音だね。
本格的にバトルが始まってきたことだし、私も命最優先で狩りに出かけますか!
そう思って木を抜けた瞬間、急に地面に魔法陣が現れた。
「ヤバっ!」
直感でなんとか横ロールして避けられた。次の瞬間、さっきまでいた場所は大爆発により跡形もなく消え去った。
ゲームに慣れてない人ならイチコロだったね。
「うわ〜、今ので仕留められないか〜」
木の奥から出てきたのは中学生くらいの女の子だった。
髪は金色で、サイドテールにしてある。桃色の髪留めが印象的だ。幼い顔立ちながらも、どこか上品さを感じる。不思議な子だ。
それにしてもさっきの攻撃は……
「罠系の魔法?」
「鋭いねお姉さん。ゲーマーさんかな? 私の職業は【魔法罠士】。油断しているとすぐ倒しちゃうよ?」
「……」
強い。この歳でたぶんかなりのゲームをこなしてきたんだと思う。
「お姉さんの職業はわかりやすいね。サンタクロースでしょ?」
「な、何でそう思うのかなー?」
図星だけど一応そうじゃないよ感を出しておこう。
「だって今どきミニスカサンタコスなんてエロい店でもやらないでしょ。痴女かガチサンタクロースしかなくない?」
「痴女じゃないよ!」
私の言葉は事実上自分がサンタクロースであることを明かしたようなものだった。
「お姉さん面白〜い。だから期待しているよ、戦いも面白くしてくれるって」
金髪少女はケラケラと笑いながら手を広げ、手に魔法陣を広げた。
「さぁ……それは保証できないな〜」
私は白い袋の中に手を突っ込んだ。