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008 エリア争奪戦

『裏クエスト開始』


 裏……?

 一瞬の表示だったので、由鶴も翼も気がついていないようだ。


 ログが消えるとガシャンガシャンと音を立て、肩の装甲に銃がついた大きなロボットが街中に現れた。

 裏っていうのは気になるけど、まぁいま気にしていても仕方ないね。


「由鶴、あれを倒せばエリア獲得だよね?」

「それ以外考えられない登場の仕方だからね。そうなんじゃない?」


 なら話は早いんだけど、ロボットの全長は3メートルにも及びそう。

 装甲は厚く、とても白い袋で殴ったところでダメージが入りそうにない。その上、手の部分は剣になってるし接近したら不利だ。でありながら銃までついてる。これは厄介だよ……。


「こ、攻撃してきませんね」

「たぶん一定距離に入ったら攻撃してくるようにプログラミングされているんだと思います。いま私たちとは100メートル以上離れていますから」


 この距離からやたら滅多に乱射されたらたまったものではない。


「じゃあ翼さんとアタシの攻撃で、開幕といきましょうか!」

「は、はい!」


 由鶴と翼さんは遠距離攻撃を先に決める気だ。

 様子見として攻撃するのはアリだし、ここは反対しないでおこう!


「エネルギー弾、乱射!」

「宝石顕現:ルビー。焔一閃」


 黄緑色のエネルギー弾と、紅蓮の光が一直線にロボットに向かう。

 着弾した瞬間、白い煙を立ててロボットは見えなくなった。


「ふぅ、HP半分も使っちゃった」

「撃ちすぎだよ〜。PVPでも結構撃ってたでしょ?」

「まぁね、小雛はまだプレゼント・フォー・ミーを1回しか使ってないんだし、余裕じゃん?」


 余裕なのかなぁ。この戦闘で役に立てる気がしないんだけど。

 煙が引いていくと、大きな傷一つ見えないロボットが現れた。ボス級NPCなので、ロボットの頭の上にHPバーは表示されている。HP的には1割も削れていないようだ。


「嘘でしょ、あれでほぼ無傷も同然?」

「……ごめんなさい小雛さん、由鶴さん。私の持っている力では勝てそうにありません」

「翼さん諦めたらダメです! 絶対に協力して勝ちましょう!」

「小雛さん……はい!」

「まったく、小雛のポジティブさには、ついて行きたくなるんだよね!」


 私は白い袋の中に手を突っ込んだ。たぶん勝ち筋は、この中にしかない。


「お願い、形勢逆転のアイテム……!」


 ただの盾が出てきた。木製の、なんの変哲もギミックもない、盾だ。


「どうしようもない!!」

「小雛それちょうだい。HP的にアタシが1番やばいから」

「う、うん。分かった」


 気休め程度に由鶴は盾として使うみたい。

 そうこうしている間に、ロボットはこちらを敵として捉えたみたい。距離ももう50メートルまで近づかれている。


 ババババッ! という音と共に、肩の装甲部分がフラッシュした。

 マシンガンの乱射。当然のように、私たちに弾丸の雨が押し寄せてきた。


「宝石顕現:オニキス!」


 翼さんの指輪についた透明の宝石が黄色に変色し、私たちの目の前に土の壁が出来上がった。


「翼さん! ありがとうございます!」

「いえ。諦めたくない、小雛さんのおかげでそう思えましたから」


 翼さんはニッと笑う。よかった、ちゃんと笑える人なんだ!


「ちょっといい雰囲気になってないでよ! 土の壁なんてすぐ穴空くって!」

「ごめんごめん! プレゼント・フォー・ミー!」


 もう一度運任せ! 今度のアイテムは……ば、バケツ!? しかも中に入っている水は真っ黒!

 雑巾を絞った後のバケツ水……何に使うのこんなの!


「ちょっと小雛! 今そういうギャグを披露している場合じゃないって!」

「ふざけているわけじゃないよ〜!」

「でもまぁ、大丈夫。アタシに任せて。翼さんはできるだけアタシの防御に努めてくれますか?」

「分かりました」

「え? え? どういうこと?」

「小雛はタイミングよくその汚水をあいつにかけてね。チャンスは一度きり、行くよ!」


 土の壁が壊れた瞬間、由鶴はロボットに向かって駆け出した。


「土王顕現:砂塵鎧」


 由鶴の身は砂埃で包まれた。浴びせられる弾丸の雨も、幾ばくかは凌いでくれているみたい。

 由鶴は何かを狙っている。なら私は、親友を信じて走るのみ!


 由鶴に続いて私も駆け出した。


「はああっ!!」


 由鶴のHPは残り1割を切っている。それでもエネルギー弾を撃ち、なんとかロボットの隙を作ろうとしていた。


「ゴッ!?」


 ちょうどロボットの鼻先に弾丸がヒットした時、少しだけロボットがよろめいた。


「チャンス! えい!」

「あ! 私が出した盾!」


 由鶴はロボットの関節部分に木製の盾を挟み込んだ。それにより、ロボットの動きがぎこちなくなっている上に変な金属音までする。

 やがてロボットは無理に動こうとしてパーツが一つ外れた。そうか、由鶴はこれを狙って……


「やっちゃえ小雛!」

「うおおおぉ、バケツの汚水攻撃ぃ!」


 バシャっと、黒ずんだ水を露出した部分にかけた。その瞬間、ロボットの関節がスパークするように電気が放出され、HPバーはみるみると減っていった。


「あ、やば……」


 最後は爆発する。由鶴が巻き込まれちゃう! ってところで翼さんが駆けつけ、なんとか由鶴を救出してくれた。


『裏クエストクリア』


 また一瞬だけログが流れた。

 そしてすぐに、エリア1の獲得が私たちに知らさせた。


「やったー! あ、なんか青白い球が浮かんでる!」


 由鶴が指さした方を見ると、確かに青白い球がゆらゆらと動いていた。

 やがてその球は導かれるように、由鶴の胸の中へと入っていった。


「あ、スキル獲得だって! 『武装変換:スナイパーモード』」

「え、なんか凄そう!」


 こうして私たちはエリア1を獲得し、エリアボーナスとして毎日ゲーム内通貨3000円が支給されることになった。

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