第七十九話「互いの目的」
銀甲冑の襲撃から二時間ほど後。
集落のはずれは被害が少なかったので、壊された小屋や家畜や獣人、ゴブリンの死体をさっと撤去して、スペースをつくり、馬に水や餌を与えつつ、団員たちも手の空いた者から休憩を取っていた。
集落の中心からダロンが戻って来る。
「生存者の確認はあらかた終わりました、団長。残念ながらそこのボウズ以外……」
と、ダロンは残りの言葉を飲み込み、首を振った。
「そうか、ご苦労さん。少し休め」
(年端は十二、三、ランスロットと同じくらいか)
ランスロットの隣に座り、パンをかじる銀髪の少年に目を向けるランドール。少年の脇には、騎士のように佇む細身の方の銀甲冑の姿がある。
「ありゃあ何ですかね?人ではないっすよね?」
つるりとスキンヘッドをなで上げ、胡乱な視線を投げかけるダロン。
「わからん。もう一体の引き際に声を聞いた。くぐもった声で『引くぞ』と。おそらく中から」
「うちらの件と関連ありっすかね?」
「さぁな。この数ヶ月探してなんの手掛かりもないんだ。わずかでも可能性があれば、縋って行動するしかあるまい」
考えても仕方ないとばかりに、ダロンは肩を竦めた。
「それじゃあオレはちょっと休憩してきますわ。なんかあればそこいらのヤツに聞いてください」
「ああ」
気のない返事をして、ランドールは銀の髪の少年の方へ向かった。
「俺はこの団の団長を務めるランドール・グウェンってモンだ。お前、名前は?」
「カイン・ロガルディア。おっさんはどうやってアレに傷を付けた?」
「先に俺の質問だ。そもそもあの甲冑とそこの甲冑は何だ?それと、この集落がゴブリンどもに襲われたことと関係は?」
まっすぐカインの目を見つめて、有無を言わさぬ口調でランドールは訊いた。
「おっさんは自分のやるべきことをわかってるんだな」
ランドールの鋭い眼光を見据え、息を吐き出すようにカインはそう言うと、二の句を継いだ。
「アレがゴブリンどもを襲い、逃げ惑ったゴブリンがこの集落に雪崩込んだようだ。アレにはゴブリンも人間も区別がないから、片っ端から生きてるものを殺し回ったんだろう。俺は、アレを追ってたまたまここに来ただけ。その時にはもうこの惨状だった」
「そうか。では、はじめの質問の答えは?」
「こいつとアレが何なのかは話したくない。まだあんたらを信用できないから。けど、アレは破壊しないといけない。それが俺の役割だ」
「そうか、わかった。いずれ話してくれることを期待しよう。カイン、お前も自分のやるべきことを理解してるんだな。覚悟を決めた男の目をしている。いい目じゃねぇか!」
と、ランドールは歯を見せて笑うと、ぐじゃぐじゃと力任せにカインの頭を撫でた。
「何しやがる!人の頭、勝手に触ってんじゃねぇ!」
「いいじゃねぇか!お前、野良犬みたいだし」
「誰が野良犬だ!」
「行くとこないのは野良と一緒だろ?だったら俺らと一緒に来い。アレを破壊するのに協力してやる。その代わりこの『死骸蟻団』に入るのが条件な」
「俺なんか入れて、全員死んでも後悔するなよ」
「そんときはお前含め、生き残ったヤツがこの団の意志を継いでくれれば、それでいい」
「団の意志……」
「神とやらに仕組まれたこの世界のシステムをぶち壊し、この世界は神なんかじゃなく、ここで生きる者たちのものだと証明すること。そいつがこの『死骸蟻団』の意志であり、理念だ」
「なぁ、全くの意味不だろ?団長の言う事は。だから、気にすんな。考えても始まらない。けど、ここが居心地がいいのは保証するよ」
ランスロットはカインにジャーキーを差し出しながら無愛想に言った。
「パンに挟むとうまい」
「本当だ、うまい」
「だろ」
心持ちランスロットの口角が上がったようにも見えた。同年代の仲間ができてうれしかったのか。
「さて、次は俺がカイン、お前の質問に答える番だな。アレに傷を付けられたのはおそらく、凛気を武器に纏わせていたからだと思う。魔力と違って、凛気は生命エネルギーに近い力。相手の生命エネルギーに直接ダメージを与えられる。アレはそういった力そのものの具現体か何かと俺は推測している」
「凛気でダメージを与えられるなら、なんで俺の凛気転式が効かなかったんだよ?」
不満気な顔でランスロットが口を挟む。拗ねた顔は年相応の少年の顔をしていた。
「転式というぐらいだ。凛気を変換変成して固有技能にした時点で、それは凛気そのものとしての濃度は幾分薄まるからだろう。俺は逆に凛気転式が使えないが、凛気そのものを扱うことができる」
「団長は凛気だけは莫大だからな。扱うセンスは皆無だけど」
「うっせぇ。センスしかねぇ、ガキンチョが生、言うな」
「それを人は天賦の才って言うんだよ。あいたっ!」
余程腹が立ったのか、ランドールは無言でランスロットの頭をはたいた。
「ヤワハゲにもぶたれたことないのにっ!!」
遠くでダロンのでかいくしゃみが聞こえてきた。
「生命エネルギー、凛気……なるほど」
何か思い当たる節があるのか、カインは納得したように大きく頷いた。
「アレを破壊するにはおっさん、あんたの力が必要だ!俺に力を貸して欲しい!」
と、カインは素直に頭を下げた。
「もちろんだ!」
ランドールは二つ返事でカインの申し出を承諾した。
「でも、いいのか?おっさんたちも何かやるべきことがあったんじゃないのか?」
「なぁに気にするな。ちょっとした大賢者の暗殺依頼だ。なかなか手掛かりが掴めなくてな、困ってたところだったんだ。けど、場合によっちゃあ、お前の目的の先に、俺らのターゲットがいるかもしれん」
と、ランドールはぎらりとした冷たい目をしてそう言ったのだった。




